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ステータスウインドウ無双。異世界で最もスマートな使い方  作者: うーぱー
第2章:現代知識の商売で大もうけ?
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8話。商人とお近づきになる。金儲けフラグきた?

 俺は20は超えているであろう群衆に向かって声を張る。


「ハンミャーミャーは、あと3個しかないが、どうしようかなあ。俺が1個食べるから2個余るけど、どうしようかなあ。お腹は結構膨らんでいるから、誰かに売ろうかなあ」


「おい! 売ってくれ!」


 群衆ひとりが叫んだ。すると次々とハンミャーミャーを求める声があがる


「いや、俺に売ってくれ! いくらだ!」


「銅貨を5枚出すぞ!」


「俺は銀貨1枚出す!」


「なあ、この古着と交換してくれないか!」


「私に売ってよ! お兄さん! 夜、うちの店に来てくれたらサービスしてあげるからさ!」


「家で病気の娘が待っているんだ。俺に売ってくれ!」


「おっ、俺、俺には、そ、そっちの、獣人少女を、うっ、売ってくれ。うへっ。うへへっ。エッチな調教は、す、す、すんでるのかな。うへへ」


「ステータスオープン収束ッ!」


「ぎゃあああああああああああっ!」


 俺は約1名の目を焼いた。そいつは、他の群衆に肩や腕を引っ張られて、外側に押しだされた。


 人々が一斉に押し寄せてこようとするから、俺はシャルロットやサフィが、男に触られないよう、前に出て壁になる。


「落ち着いてくれ! これから他にも作るが、今は材料が2個分しかない! 先ずはオークション形式だ! 最も高値を提示した者に2個とも売る! 10ドメール(銅貨10枚、もしくは銀貨1枚。1000円くらいの価値)からスタートだ! 他の誰よりも先に、世界初の料理を食べられるというプレミアな体験に金を払ってくれ! 今なら美少女からの手渡しスマイル付きだ!(本人確認なしの勝手な約束) そして、売り上げ金で俺たちは新たにハンミャーミャーを作る。さあ! ニュールンベージュの紳士淑女の皆様! 俺たちの未来への投資だと思って、高値で買ってくれ!」


「11ドメール!」(1100円のこと)


「12ドメール!」(1200円のこと)


「13ドメール!」(1300円のこと)


「14ドメール!」(1400円のこと)


 争え……。もっと争え……!


「2アルジェロ!」(20ドメールのこと。2000円相当)


「2アルジェロ、デミドメール!」(20.5ドメールのこと。2050円相当)


「25ドメール!」(2アルジェロ + デミアルジェロのこと。2500円相当)


「2アルジェロ5ドメール1エタール!」(25.1ドメールのこと。2510円相当。刻んできた)


「4デルジェロ・アルジェロ3デメール・ドメール5エタールとデミエタール!」(同じようなこと繰り返していたが、いったい何円のこと?)


 くっそ。俺、商人じゃないから、刻まれると分からなくなってくる。

 なんで外国ってこんな訳の分からない単位を使うんだよ。十進法使えよ!

 銅貨の枚数で言ってくれ!

 いま、何円だよ!


「1オール」


 ざわっ……。


 値段はつり上がっていたが、ひとりの男がたったひとことで喧噪をざわめきに変えた。


 1オール、つまり、10アルジェロ。1万円だ。


 めがねをかけた20台中盤の優男が群衆の中から出てきた。上質な服を着ている。金糸で刺繍された袖口を見れば、ひと目で金持ちだと分かる。それでいて、装飾品は絹のスカーフのみに留めていて、嫌みのない格好だ。


 他の人が「1オール、1ドメール」(1万100円)と言うが、めがねの優男は遮るように「2オール」と言い、頭上に指を2本立てた。


 しん……。

 一瞬、静寂が訪れた。


 男はさらに指を1本、増やす。


「ふふっ。貧乏人たちは下がりなさい。これは貴方たちの口にふさわしくない。私は貴方と商談がしたい。時間を1オール。合計3オール支払いましょう」


 この口ぶり、商人だ!


 しかも見覚えがある。ザマーサレルクーズ家に日用品を売りに来ていた人だ。俺が直接取引していたわけではないので名前は知らない。


 Web小説あるあるの、商人と仲良くなって儲ける展開か?


「これで終わりか? 3オール以上出す人はいるか? いなければ、この人に売るぞ」


 ざわざわ……。


 群衆はひとり、またひとりと去っていく。

 そりゃそうだよな。多分、3オールって、庶民の月収くらいいってるぞ。


「よし。貴方に売ります」


「ありがとうございます。アーサー様」


 き、気まずいやつ~。向こうは俺のことをお得意様の息子として名前を知っているが、こっちは知らないやつ~。


「それでは、焼きたてを用意するので、少し待っていてください。すぐにできますので」


 俺はハンミャーミャーを作り始める。


「はい。とても楽しみです。ところで、名乗ったことはありませんでしたね。私はアーサー様のお父上とお取引させていただいている、マルシャンディと申します。この街で商人をやらせていただいております」


 マルシャンディがぺこりと頭を下げた。

 こちらに気を遣ってくれているのは分かるが、まだ気まずいんだよなあ。


「えっと、俺、ザマーサレルクーズ家を追放されたから」


「なんと! いったい何があったのですか」


「俺が授かったスキルが無能で……」


「そ、そんなことで……ご子息を……。スキルを授かること自体が、ごく一部の選ばし者のみだというのに……」


 屋敷自体がぶっ壊れて、父と弟はたぶん死んで、使用人はみんな逃げただろうし、ザマーサレルクーズ家は完全壊滅だよなあ。


「あ。もしかして家のことを気にして、ハンミャーミャーに高値をつけてくれたんですか?」


「いえ。それは無関係でございます」


「敬語じゃなくて大丈夫ですよ」


「いえいえ。私は相手の年齢で態度を変えたりしませんよ。誰もが商売のお客様になり得るのですし、それになにより、私は今、アーサー様と商談がしたい」


「商談? とりあえず、できました」


「ありがとうございます」


 俺はさっき、美少女の手渡しとスマイルをセットにすると口約束したので、シャルロットにハンミャーミャーを渡す。


 マルシャンディはハンミャーミャーを受け取る前に、つま先を城門の方へ向けた。


「少し移動させてもらってもよろしいですか? 貧乏人たちに見られていては、食べづらいですからね。ふふふ」


「……ええ。シャルロットもサフィもいいよな?」


「ああ」


「みゃ」


 マルシャンディが歩いて行くから、俺はついていく。はぐれないようにサフィと手をつなぐ。

 その後ろに、ハンミャーミャーを両手に持ったシャルロットがついてくる。はたから見ればシュールな光景だろう。


 食品市場を抜けると、雑貨市場とも言うような場所に出た。

 今度は武具や馬具や古着や靴を売っている商店や露天商が並び、呼び売り商人(クリユール)が歩き回る。


 食品以外でも呼び売りの人はちゃんと商品を持って歩く。


 だから……。


 カチャンカチャン……。


 全身甲冑の人物が歩いてきた。


「甲冑は要りませんかー。300オール。もしくはノール金貨3枚だよー(※)」


 ※:庶民の年収で数年分。呼び売り商人(クリユール)が市場の外(人目の無いところ)で売ろうとしたら「殺してでも奪い取る」人に襲われる。だから、人通りの多い場所で売り歩くのは、疲れるだろうが自衛になるので、理にかなっている。


「馬具あるよー。(あぶみ)を買わないかい? な~んちゃって(※1)。拍車(はくしゃ)(馬に乗る人が踵につける道具)を売るよ。拍手(はくしゅ)をちょうだい。な~んちゃって(※2)。(くら)はいくら~(※3)」


 ※1:別に何もギャグにはなっていない。何が「な~んちゃって」だ。ふざけんな。


 ※2:拍車(はくしゃ)拍手(はくしゅ)のギャグ。うざ……。


 ※3:客の気を引きたくて必死だな……。呼び売りとは、こういうことだ。こうなってくると、もしかしたら※1は何かしらの決まり文句を言い間違えた可能性がある。本来は韻を踏んだギャグだったのかもしれない。


 食品市場に比べれば人通りは少ない。その代わり、路地脇の店舗内が職人の仕事場を兼用しており、(つち)で金属を打つ音が響いてくる。

 歌ったりラッパを吹いたりして、客の気を引こうとする者もいて、けっこう騒々しい。

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