7話。異世界設定突っ込み者への対策済み! これが俺の異世界ハンバーガーだ!
シャルロットがまだ、頬を赤くして、ゆだったような顔で何かブツブツ言っている。
「……。ステータスオープン弱」
「うっ……! ま、まぶしいっ!」
「正気に戻ったか?」
「……はっ! わ、私は意識が飛んでいたのか。戦場なら死んでいた……」
貴方は死なないわ。私が守るもの……。って言っても通じないだろうなあ。
「なんで、意識が飛ぶんだよ……」
「い、いや、お、お前とのキスが刺激的過ぎて……。つい、意識が……ごにょごにょ」 ← (顔を近づけて会話した際に途中で気絶し、激しくキスしたと思いこんでいる)
まーた、何かごにょごにょ言ってる。
「なあ、シャルロット。肉用のソースはないか?」
「ん? あるぞ」
「あるのか!」
さすが貴族っぽい雰囲気を漂わせているだけのことはある!
「あ、いや、美味しかったからたくさん貰っただけだ。べ、別に、食い意地がはっているわけじゃないんだ」
「みゃあ?」 ← 食い意地がはっているから、たくさん貰ったのでは? という顔
サフィが首をかしげたから、俺は「そうだよな」という意味を込めて「みゃあ」と首肯した。
「俺は人目を気にして少ししか食べない女性よりも、美味しそうにたくさん食べる女の子の方が可愛いと思うぞ」
「そ、そうか? わ、私もようやく、か、可愛いと言ってもらえた……。サフィにばかり言っていて、私には全然言ってくれなかったけど、よ、ようやく……」
なんかまたごにょごにょ言ってる……。
その言葉、口の中から外に出ていませんよ?
「高価な物だと思うが、少しだけ使わせてくれないか? 俺んちに行けば作り置きがあるかもしれないけど、がれきに埋まっているだろうし……」
「ま、まさか、ソースを私の唇に塗って味わおうというのか……! そ、そんなの激しすぎる……!」
シャルロットが唇をペロペロし始めたぞ。
ソースと聞いて食欲がわいたのかな?
しかし、またもや会話不能に陥っている。
「……。ステータスオープン弱」
「うっ……! ま、まぶしいっ!」
「正気に戻ったか? コピペしたかのごとく2度目のやりとりだぞ。とにかく、ソースを少し使わせてくれ」
「あ、ああ。問題ない。下手な射手の矢のごとくたっぷり使ってくれ。だけど、肝心の肉はないぞ? 干し肉ならあるが、せっかくソースを使うのなら焼きたての肉にかけた方がいいぞ」
「ふふ。まあ、見ていろ。ちょっとした作業スペースが必要だな。お。あの壁際にしよう」
俺たちは少しだけ人通りから離れて、小さい路地に入った。
移動途中、スリか痴漢か知らないけど、不審な男がシャルロットの尻の近くに手を伸ばしてきたから、俺はステータスウインドウを喰らわせて首筋チョップで意識を奪った後、ちょっと離れた位置の荷車の秣(乾燥させた草。馬の餌になる)の中にぶちこんでおいた。
「さて。
丸いパン、
レタス、
トゥメイト、
フィッシュフライ、
チーズ、
肉用ソース、
この材料で何を作ると思う?」
「分からないみゃ」
「チーズを乗せたパンと、サラダと、フライだろ? 魚のフライに肉用ソースをかけることが、お前のアイデアか?」
「ふふふっ。ふたりとも分からないようだな。シャルロット。さっき魚を売っていた呼び売り商人の少年が持っていたような板はあるか? 食べ物をのせる清潔なやつ。それとナイフ」
「もちろん。ほら」
シャルロットが魔法の革袋から板を取りだした。旅に必要な物はひととおり揃っていそうだ。便利だなあ。かなり羨ましい。
「あれこれ言って悪いんだが、水をくれ。手を洗いたい」
「ああ」
シャルロットが革袋の中から水筒用の革袋を取りだし、俺の手に水をかけてくれた。
「よし。準備完了。ふたりとも手を洗いながらでいい。見ていてくれ。世界初の料理を食べさせてあげるぞ! 先ずは丸パンを水平方向にスライスする」
「みゃ?」
「え? そんな変な切り方をしてどうするんだ。パンの切れ端(※)が台無しだ」
※:丸パンの切れ端はパリパリしているため、好む人が多い。
「ふふふっ。驚くのは早いぞ。こう!」
俺は両手でパンを挟む。
魔力を手に集中して……。俺の低レベル火魔法で……!
火は出さずに、手のひらを温めるイメージ……!
パンの断面側を焼く!
ジュウウウウッ!
「……炭みゃ」
「炭だな」
「……ああ。失敗だ。こんなに火力が出るとは思わなかった。レベルが上がってたんだ……。すまん。1つ無駄にしてしまった」
俺は燃えかすをシャルロットに渡した。彼女は、受け取ったものを魔法の革袋にしまった。
別にゴミを押しつけたわけではない。
パンの燃えかすは、火を点ければ炭火になるので燃料として再利用できるし、漂白剤や肥料に加工できるので、しかるべき場所に持っていけば売れる。捨てる必要はない。
「さあ、やり直すぞ……。威力は最小限から少しずつ上げていく感じで……」
ジュウウ……!
「よし。いい感じにバンズが焼けた!」
「パンツじゃなくてパンみゃ」
「バンズって言ったの。下側も同じようにする! 焼けた。そして、こうする。見てろよ。パンの断面にソースを塗り、川魚のフライを重ねる!」
「それが世界初の料理? パンにフライを重ねただけじゃないか」
「ふふっ、まあ見てろ! こっからだ!」
行くぞ。現代知識無双!
俺は材料を重ねていく。
「チーズ! 俺の手の余熱で溶けるから、フライに馴染む! レタス! トゥメイト! 再びレタス! 最後に、断面にソースを塗った上部バンズ! これが、ハンバーガーだ!」
「ハンミャーミャー?」
ぐーぐー!(腹の音)
じゅるじゅる(ツバをのみこむ音)
サフィが目をキラキラさせてハンバーガーを見つめる。
「な、なんだこれは。見たことがない。だが、なんで野菜をパンに挟んだんだ! こんなの、パンが野菜の水気を吸ってまずくなるじゃないか」
「すぐもう1個作るが、サフィが先でいいか?」
「ああ。私はあとで良い。サフィに食べさせて上げてくれ」
「おあがりよ! そのままがぶって食べろ。美味すぎても城やインド人になるんじゃねえぞ!(※)」
※ おじが喜ぶ小ネタをひとつまみ。
「みゃ!」
がぶっ!
「うみゃーっ!」
「うみゃーっというのは美味いのか、鳴き声なのか、どっちなんだ!」
「うみゃーっ! うみゃーっ!」
バクバク!
凄い勢いで食べているから気に入ってくれたのだろう。
サフィが目を輝かせて喉を鳴らすたびに、通行人がチラチラと見てくる。
「お、おい。アーサー。は、早く私の分を作ってくれ」
「ふふふ。初めて見る料理に不安そうな目をしていたくせに、もう、気になってしょうがないようだな」
「サフィがこんなに美味しそうに食べているんだ。気になって当然だろう。ほら。早く」
さすがにサフィのようによだれを垂らしはしないが、シャルロットも目をキラキラさせてせがんでくる。
「へへっ! 任せろ! すぐに作るぞ!」
俺はシャルロットの分も作る。パンを焼く火力調整も上手くいった。
「ほら。おあがりよ!」
「ああ。ありがとう。主よ。糧を与えてくださったことを感謝します」
「ほら。分解せずにそのままがぶっといってくれ」
「こんな大きな物を……。……はむっ。……んっ! んっ! ん~~~っ!」
シャルロットは目をまん丸にした。
「なんという美味! アーサー! いったいどんな魔法を使ったんだ! 今までに食べたことのない味だ!」
ざわっ……!
もくろみ通り、周囲の通行人がひとり、またひとりと足を止めていく。
「貴族は財を見せつけるために、訪問客を豪華な料理でもてなす。私はリュミエール家の令嬢として、王国騎士団の一員として、様々な王侯貴族達から接待を受けてきた。だが……。知らない! この味は知らない! これは、宮廷料理に並び立つ美味しさだ!」
そりゃあ、宮廷料理で使われていたっぽい肉用ソースを使っているし、味はいいだろう。
それにしても期待以上に喜んでくれている。
服がはじけて全裸になって空を飛んでしまいそうなテンションだ。
「ライ麦や大麦を多く含んだ味気ない丸パンが、まるで焼きたての小麦のパンのように柔らかく風味がある。かじるために口を近づけると大麦の香ばしい香りが鼻をくすぐる。そうか。パンを焼いていたのは柔らかくするためだな。だが、それだけじゃない。肉用のソースをパンに塗ったときはどういうことかと思ったが、なるほど。パンにソースをしみこませて柔らかくしているのか。しかし、濡れたパンはじっとりしてしまうはず。だが、なんだ、このサクッとした食感は。そうか! 魚のフライとレタスだ! パリパリ食感が口に心地よい。複数の材料をパンに挟んだ意味は、これか。食感の異なる材料を的確な組み合わせ挟むことにより、一つの新しい食感を生み出している。そして、パリッ、のあとにくる、じゅわっ。トゥメイトの酸味と甘みが口の中に広がる。けして上品とは言えない油で揚げただけの魚の油臭さを、野菜の水気が中和してくれる。すべてが調和している。なぜ、フライと野菜がこんなにも調和するんだ? チーズだ……。とろけたチーズがフライと野菜をつないでいるんだ! なんという組み合わせだ。パン、フライ、野菜、チーズ、ソース、バラバラの素材がひとつにまとまっている! ひとひとつは高価な物ではない。すべて市場で手に入ったものだ。信じられないおいしさだ……。私のこの小さな手の中に、銀の食器に飾られた宮廷料理が存在している……! もう他の組み合わせなんて考えられない! クジャクやコッケントリス(※)よりも美味しいぞ! いったい、どうしたらこんな組み合わせに気づくんだ! アーサー! 君は大賢者なのか?! いや、伝説の大賢者ですらこのような料理を食したという記録はない!」
※:コッケントリスは雄豚の上半身と豚の下半身を縫いあわせた、グロテスクな見た目をし中世の貴族料理。金箔を貼ることもあった。上半身と下半身が逆の場合もある。興味があっても、Cockentrice では検索しない方が良い。
「お、おう。気に入ってくれてありがとう。全裸のお前が口からビームを撃ちながら、擬人化した食材たちと一緒に笑って空を飛ぶ映像が目に浮かぶかのようだった……」
「何を言っているのか分からないが、美味しかった!」
「ハンミャーミャー美味しかったみゃ!」
「お粗末!」
俺は群衆に聞こえるよう、大声で言う。
「この料理はハンミャーミャーだ!」
ハンバーガーって言うと、突っ込みがうるさいだろうからな。杞憂潰しだ。
ファンタジー作品にハンバーグを出すと一部の読者が『ドイツのハンブルクがないのに、ハンバーグがあるのは不自然』って言ってくる。ハンバーガーも突っこみが入ってしまうかもしれない。
だからこれはハンミャーミャーだ。突っこみが入っても「ハンバーガーじゃなくてハンミャーミャーですが?」で乗り切る。




