73話。殺戮魔王の復活。俺はなすすべなく敗北する
俺は直上に跳躍。
天井を蹴ってスボスラの方へ跳ぶ。
だが――。
「くくくっ!」
バキイインッ!
壇上にあった鉱石が破裂した。
中から人影が現れたと思った直後、俺はそいつに蹴られて、天井にたたきつけられていた。
バキイッ!
ベキベキベキッ!
俺の体が、まるで漫画のように大の字になって分厚い岩盤に埋まっていく。
「ぐふっ……!」
ど、どういうことだ。
カウンターなんかじゃない。
何者かがレベル72の俺の全力の蹴りを、はじき返した!
俺は天井にめりこんだ状態で壇上を見下ろす。
そこにいたのは、スボスラと……。
誰だ?
小汚い全裸の男だ。
小汚いというか、そんな言葉があるかどうかしらんが、大汚い。
いや、あいつのために、大汚いという言葉を作っても良いかもしれない。
髪の毛は膝丈だ。ボサボサでふけまみれなのが、天井からでも分かるほど汚い。
服の残骸らしきぼろ切れが首の周りに引っかかっていて、右側の肩にだけ少しかかっているが、すぐにもちぎれ落ちそうだ。
股間は丸出しだ。
肌は異臭が天井まで届きそうなほど汚い。汗や老廃化した表皮がこびりついて黒ずみ、それがめくれた箇所もあり、全身がまだらになっている。
顔はよく見えない。でも、口を開いてよだれをたらしていることは分かった。
「く、くき、くけけけっ。こ、こひっ、こひひひ……」
「おお。我が愛する息子イーサーよ。見違えたぞ」
「イーサーだと?! どういうことだ、スボスラ!」
「アーサーよ。この地でモンスターをあまり見かけなかっただろう」
「ああ」
「イーサーに喰わせたのだよ」
「は?」
壇の下から布を持った人物が上がっていき、イーサーの体を拭き始めた。
「くくくっ。飯にして食わせたわけではないぞ。何千、何万ものモンスターを食わせていたら、クソでこの地下空洞は埋まっているな。くっくっくっ」
スボスラは上機嫌で語っている。
俺は情報収集のため黙って話を聞く。
というか、体が天井の岩盤にめりこんでいて動けない。
俺のパワーで無理して動いて崩落したら、近くにいるシャルロットや、獣人の子供が危ない。
まずは大人しくするしかない……。
スボスラは壇上にあった鉱石の残骸に触れる。
「時の牢獄結晶……」
時の牢獄結晶?!
その名前だけで、なんか「時間が止まったところで修行する」魔道具の気がする。
それか、「何もない空間で1億年耐える代わりに、力や金を手に入れる」みたいな。
「これにイーサーを放りこみ、さらに近隣のモンスターを弱いものから順に投入していった。イーサーは時の牢獄で、1000年、戦い続けた! エキサーヌ領のモンスターはほとんど食い尽くしてしまっただろう!」
「なん、だと……」
「そして完成したのだ。我が新たな肉体にふさわしき、究極の生命体が!」
「うげっ……」
スボスラはイーサーに口づけをした。
離れた位置で良かった。近くで見たくない、キモい光景だ。
スボスラの小太り肉体は倒れた。それっきり動かなくなる。
代わりにイーサーが笑いだす。
「くっくっくっ。我が新しき肉体! レベル上限開放スキルが作り出した、究極の体だ! 永遠の奴隷の誕生だ! ふはーっ! はっ! はっ! はっ! はっ! 力がみなぎってくるぞ!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ……。
謎の音が鳴り、地下空洞が揺れる。
スボスラ、いや、イーサー、じゃなくて、ハンバーグみたいな名前の魔王の力で、大地が震えているんだ。
「貴様に絶望を与えてやろう。ステータスオープン」
ブュゥン……。
俺の目の前にステータスウインドウが出現した。
名前:スボスラ・ヴァバラーグ
職業:殺戮魔王
年齢:343
レベル:251
HP:34571
MP:45720
攻撃力:3524
防御力:2028
すばやさ:12450
スキル:レベル上限開放 / 限界(レベル99)を越えて成長できる
累積経験値:+++++/ 次のレベルまで:*****
なんだ、この数値。
規格外の俺を越えてやがる。
「くくくっ。はーっはっはっはっ! 時の牢獄と、レベル上限解放スキルを組みあわせてつくった、最強のステータス! 恐れおののけ! 世界は再び、この殺戮魔王ヴァバラーグを恐れるのだ。ステータスウインドウを見ているのは、アーサー、貴様だけではない! 主要な都市の上空にも、同じ物が出現している! これが世界への宣戦布告だ! 世界よ恐怖しろ! 愚民どもよ怯えろ! 闇の者どもよ、喜べ! 我が再び世界を支配するぞ! さあ、殺戮の始まりだ! はーっはっはっはっ!」
ゴゴゴゴゴゴゴ……。
ドサッ……。
ドサッ……。
地下空洞にいた奴隷兵士が次々と倒れていく。
「最強の肉体を手に入れた今、もはや奴隷兵士は不要。くっくっくっ。奴隷化スキルを解除したとたん、我が闇のオーラに気圧されて、もは虫の息。くっくっくっ。はーっはっはっはっ! 先ずはアーステール家。次にリュミエールとノワールだ。憎き王族どもをひとり残らず皆殺しだ! はーっはっはっはっ!」
「そうはさせん!」
下の方から、決然とした声が響き渡った。
俺がぶち破った穴ではなく、扉を開け、堂々とシャルロットが入ってくる。
「殺戮魔王ヴァバラーグ! 貴様の好きにはさせん!」
「シャル! 駄目だ! こいつは俺より強い!」
「分かっている! 恐怖で足が震えそうだ。だが、ここは退けん! 殺戮魔王を地上に解き放てば、何万、何十万もの人々が死ぬ。そのようなことはさせん!」
「駄目だ! 逃げるんだ!」
今すぐ、穴から出て、シャルロットの前に立ちたい……!
だが、背中に感じる重みや、周囲の圧で分かる。
俺がこの穴から出た瞬間に、地下空洞は崩落する。
シャルロットを護ることはできるかもしれないが、獣人の子供が助からない。
それに、地下空洞にいる数百人の奴隷は、魔王に操られているだけの哀れな被害者だ。埋めて見殺しにするわけにはいけない!
ここで、魔王をなんとかするしかない!
だが、動けないのにどうやって。
俺の光のステータスウインドウは、魔王の闇のステータスウインドウには敵わない……!
どうしたらいいんだ!




