72話。親父の正体! 恐るべき陰謀! 世界の危機!
広い。地底大空洞といっても良い空間だ。
そして、目の前に無数の人が立っている。
全容ははっきりしないが、体育館に集まった全校生徒の最後尾に立ったかのような状態だ。
奇妙なことに、全員、入り口の方を見たままだ。壁をぶち抜いて現れた俺に、誰も顔を向けない。驚いた様子もない。
ん?
人間だけでなく、ゴブリンもいる?
いや、ドワーフ? リザードマン? 人型の種族が大勢だ……。
みんな簡素な鎧と、剣か鎧で武装している。
兵馬俑(※)?
※:中国の遺跡(秦の始皇帝の墓)から発掘された陶製の像。兵士や馬の形をしており、約8000体ある。皇帝の死後を守る軍団として作られたという説が有力だ。
みんな青白い顔をしているが、生きているのか?
「くっくっくっ。予想外の登場じゃないか、我が愚息よ」
ここが体育館なら、校長先生が立つような位置からクソ親父の声がした。
そちらを向くと、やはり体育館のように前方が高い壇になっている。
親父の姿よりも先に、何かが見えた。
黒か濃い紫色をした鉱石。冷蔵庫よりも大きく、人間が余裕で入れそうなサイズだ。
その脇に、よくみると背の低い親父の頭が微かに見えている。
「この人たちはなんだ! お前のスキルで集めた奴隷か?!」
「くくくっ。そのとおり! 我が1000の軍勢だ!」
近くにいる兵士たちが無表情なまま、俺に剣や槍を向けた。
1000は言い過ぎだろ?
はったりだろ?
ちょっと大きい体育館くらいのサイズで、そこそこ壁から離れているし、けっこう人と人は離れているし、人口密度を考慮すると600とかじゃないのか?
こいつらの強さは分からないが、少なくともスボスラは俺を制圧できると思っているようだ。さすがにレベル72の俺の方が強いと思うが……。
不意に、背後から何か花のような甘い香りが漂ってきた。
これは、シャルロットだ!
おそらく俺が壁をぶち抜いた音に異変を感じて急行し、向こうからこちらの様子を窺っている。
音や光を出さずに、俺に知らせてくれたんだ。
なら、俺は情報を引き出すことに徹するか。
俺は両手を挙げて、抵抗する意思がないフリをする。
「俺の負けだ! 抵抗はしない! 冥土の土産に、何を企んでいるのか教えてくれ!」
「おかしな言い方だな、アーサー! お前の負け? 無能スキルだから追放した愚息が、いきなり現れたかと思ったら、この言いよう。実に奇妙だ! お前はつまりワシと敵対していたつもりか?」
細かい言葉尻を弄りやがって、このクソ親父が!
「……俺はお前の奴隷が村で悪さしているのを知った! だからその悪事を潰すことが俺の勝利! それが叶わないのなら、これは敗北だろう! だが、俺は何に負けたんだ! 父さんは何をしているんだ! それを知らなければ、死んでも死にきれない!」
「やはり奇妙だ! 『死んでも死にきれない』?! ワシが奴隷スキルを使うと知っていて、死を恐れる? 奴隷にされることではなく?」
「この軍勢を見たら死を覚悟して当然だろう! この兵士はなんだ! いったい何を企んでいる!」
「ならばさきにワシの質問に答えろ! お前はスキル授与儀式の日から、まるで人が変わったみたいだ。いったい何があった! あの日は無能スキルを授かったショックで一時的に錯乱状態になりイーサーを襲撃したかと思った。だが、今日のお前はますます威勢が良い」
「先に質問をしたのは俺だ! 答えろ!」
「くっくっくっ。いいだろう。お前のその言い方もまた、よし。今のワシは機嫌が良い。教えてやろう」
「ありがとう! 教えてくれ!」
俺は挑発、かつ、こういう物言いの方が親父好みだろうという理由でお礼を言った。
「貴様は我が子ではない」
「は?」
いや、別に、ショックじゃないが、なんでそんなことを言う?
会話の流れがおかしいぞ。
「この肉体の精によって種づけられたという意味では我が子かもしれぬがな」
「何が言いたい」
「我が名はスボスラ・ヴァバラーグ。くくくっ。貴様ら人間には、殺戮魔王ヴァバラーグと名乗った方がわかりやすいか?」
「誰だ! 知らん!」
「教養のないガキめ! やはり貴様は我が子にふさわしくない」
俺は一応、転生者だぞ。
知るわけねえだろ!
(300年前、この地に奴隷帝国を築いた魔王だ……)
小さな声が聞こえた。
シャルロットがささやいた?
脳に直接聞こえたような気もする。何かの魔道具の効果か?
いや、違う。愛の奇跡だ。
「我はこの地を支配するアーステール家の者を滅ぼし、奴隷帝国を復活させる。これはその尖兵となる軍勢だ!」
なにい……。
つまり、どういうことだ?
(おそらく殺戮魔王は、その奴隷スキルを使い、人格レベルで他者を完全なる奴隷にして生きながらえてきたのだ。そして、この地を支配しようとしている)
なるほど。
つまり、300年前の魔王が、奴隷スキルを工夫して転生を繰り返していたってことか。
「お前はさっき1000の軍勢と言ったが、見栄を張っているだろう! せいぜい500人だ! たったそれだけで戦争に勝てるつもりか? 屋敷を襲った牛頭巨人がどうなったか知っているか? ニュールンベージュに向かった後、討伐された! すぐ近くに王国騎士団がいるぞ! たかが500の軍勢で勝てるつもりか?!」
「くくくっ! どうやら貴様の目は節穴のようだ」
「なにいっ!」
「我が配下には、不滅の十人将として恐れられた、超級醜悪顔地底人すらいるのだぞ」
……不滅の十人将?
なんかどこかで聞いた名前だな。
(私と会った日に、お前が倒したやつだ!)
そ、そうか!
「くっそーっ! そんな強敵がいるのか! だ、だが、騎士団はもっと強い……! 国民を護るために限界を超えた力を発揮して、悪しき者を倒す!」
俺はクソ親父から情報を引き出すために、敢えて知らんぷりをした。
「くくくっ。お前は勘違いをしている。我が軍勢は負けても良いのだ」
「なに?」
「代わりに王国騎士団を我が奴隷にすればよいのだ。この1000人は我がスキルを使うための時間稼ぎができればそれでよい」
俺は何か言い返そうとする。だが、スボスラの言葉はまだ終わりではなかった。
「だが、もはや不要――」
「なに?」
「王国騎士団を奴隷にする必要も、この軍勢を使う必要もなくなった。我が愛する息子が最高のスキルに目覚めてくれたおかげでな」
「なんだと?」
俺は周囲の警戒を強める。俺を奴隷にするつもりか?
「スキルガチャというのだろう? 当たりを引くためにいいったいどれだけの女に我が子を産ませたか分からん。くくくっ。奴隷化して操った女とまぐわっても反応がなくてつまらんからな。かといって、我が操ってよがり狂わせるのは、実に情けなくてつまらん。どうするとおもう?」
「なにを、言っているんだ、お前……!」
「奴隷化したあと、300年生きた俺の性欲を満たせるような変態プレイをし、それから奴隷スキルを解除するんだ。くくくっ。貴様の母は股から垂れる大量のムカデを見て、失禁しながら精神を壊したなあ」
スボスラの不愉快な言葉を聞いた瞬間、こめかみの血管がビクビクと内側から跳ねた。
「てめえっ! ぶっ殺してやる!」
今までは軽くぶちのめしたら、法の裁きを受けさせればいいくらいに思っていたが、こいつは、許せない。
とんでもない邪悪だ。
俺のこの手で始末するしかない!




