71話。親父が戦い慣れていて、俺は思わぬ苦戦をする
親父は立ち上がる動作のまま腕を上げ、俺に指を向けようとする。
不敵な笑みを浮かべている。
何かしらの攻撃か?
奴隷スキルで俺を奴隷にしようとしている?
分からないが、ヤバい!
「ステータスオープン!」
「くくくっ。そうか。アーサーよ。貴様のスキルもステータスウインドウ系だったな」
「何っ?!」
なんだ。ステータスウインドウが開かない!
俺はスボスラの眼球を閃光で焼こうとしたのに、何も出ない!
「くくくっ。追放したとはいえ、貴様は我が子。奴隷になるのなら、命は取らぬ。さあ、我が奴隷となれ」
「ふざけるな! その件について色々と聞くことがある! 奴隷スキルで何を企んでいる!」
俺は喋りながらステータスウインドウを開こうとするが、出てこない。
上手くいかない焦りが表情に出てしまったのか、老獪な親父はめざとく俺の動揺に気づき、口元の歪みを大きくする。
「くくくっ。不思議そうだな。つまりは、こういうことだ。ダークステータスオープン……」
ダークステータスオープン?!
初めて聞く名前だが、どういう能力か分かる!
「目が! 目がああああああああああああっ!」
何も見えない!
急に視界が真っ暗になった!
「ま、まさか、俺のステータスウインドウが開かなかったのではなく、俺の光のステータスウインドウを、闇のステータスウインドウで相殺していたのか?!」
「くくくっ。よくぞ気づいたな。そのとおり」
まずい!
後出しでステータスオープンを相殺されている!
つまり、スボスラの方が、ステータスを早く正確に操作しているということだ!
いや、それよりも、今はガードだ!
俺は両腕で頭部をガード。
しかし、すぐに、相手がスキル攻撃をしてきたらガードは意味が無いことに気づく。
(触れることが条件のスキルだったら、ガードはまずい! なら!)
バッ!
ギュルルルルルルルッ!
俺はその場で、フィギュアスケートのように跳躍横回転を始める。
どうだ。これで俺に触れようものなら指がはじけ飛ぶぜ!
さすがに親父のステータスウインドウは、高速回転する俺を追尾することはできないらしく、目は見えるようになった。しかし高速回転中だから、よく見えない。
ん?
ガチャッ!
バタンッ!
はっきり見えないが、音から察するに、部屋から出て行った?
逃げたのか?
なぜ俺を奴隷にしない。
奴隷スキルの発動条件を満たせない?
何か制約がある?
分からないが、逃がすわけにはいかない。
だが、着地した俺は軽く目が回っている。
よろよろとドアに近づく。
ドアを開けると、スボスラは走って逃げているところだった。
遅い。あれならあいつが正面左右、どの扉を目指していたとしても、そこに到達する前に追いつける。首筋に気絶チョップを喰らわせて、あとで尋問してやる。
俺は駆けだす。同じタイミングで――。
「ダークステータスウインドウボール」
「くっ! シャイニングステータスウインドウボール」
目の前に闇の球体が出現したから、俺は敢えて『シャイニング』を強調して叫んだ。相殺できた。
だが――。
「ダークステータスウインドウボール乱れ打ち!」
「くっ!」
バスケットボール大の闇の球体が複数出現した。
視界が欠ける。
まるで、水着グラビアの水着部分を隠して全裸っぽくみせる水玉モザイクの逆バージョンだ。
俺にはまだ、ステータスウインドウボール(名称が長くてだんだんイラッとしてきた)を狙った位置に複数放つことはできない。
スボスラのダークステータスウインドウボールは相殺できない。
だが短い通路だ。一部の視界が欠けていてもなんとなる。俺は加速する。
ん?
スボスラが何かを投げた。
そんなもの、俺に効くか!
ドスッ!
ドスッ!
ドスッ!
「ぐあああああああああああっ! 痛い! 痛い! ガチで痛い!」
俺は思わず足を止め、勢いを殺しきれずに前に数歩進みながらも、よろめき、通路の端に寄り、壁に激突しする。
「ぐ、ぐあ、あ、ああああっ……」
ズルズル……。
俺は壁に寄りかかったまま、その場にゆっくりと倒れる。
「なんだ、このダメージは……」
ガチャッ!
扉が開く音がするから見ると、スボスラが通路右手の部屋に入っていくところだった。
さらに、その反対側にある扉が開く。
「大丈夫ですか?」
さっきの獣人の子だ。
俺が悲鳴を上げたから心配してくれたんだ。
「だ、大丈夫だ。ここは危険だ。戻って扉を閉めるんだ」
「で、でも」
「いいから! 君は自分の身を守ることだけ考えるんだ!」
「は、はい」
子供は戻っていった。
俺は通路を観察する。いったい、俺はなんの攻撃を喰らったんだ?
ん?
白い何かが落ちてる。
粉?
石?
黒い物も落ちている。
ん?
小指の第一関節くらいの小さくて白い石が、馬の頭部の形をしている?
「もしかして、チェスのコマ? なんの変哲もないコマのようだが、こんなもので俺はダメージを負ったのか? ……虚空指!」
俺は指を弾き、その風圧をコマの残骸にぶつける。
パンッ!
コマの残骸は粉々に砕けて飛んでいった。
そして、風圧で飛んだ小石が、壁面の石製タイルに細かな穴をいくつも開けた。
「そういうことか……! ただのコマだ。俺が猛スピードで突進したから、ダメージがでかかったんだ! うっかりしていた! 俺は自爆したんだ! 俺は強すぎるがゆえに、カウンター攻撃に弱い! 気をつけないと……」
俺がレベル72で防御力が上がっているぶん、速度もあがっているから自爆ダメージも上がっているんだ。だから、ただのコマがそれなりのダメージになる。
「クソ親父め。偶然か? 分かっていてやったのか? 妙に戦い慣れている気がする。さっきの部屋で俺の身体能力を見抜いて、その場にあった物でカウンタートラップを仕掛けるなんて、どういう判断力だ!」
俺は立ち上がり、服の埃を手で払う。
通路の長さを考慮すると、右側にはバスケットボールコートが余裕で2つは入りそうな空間がある。
親父はさらに遠くへ逃げた?
待ち構えている?
罠がある?
分からない。
シャルロットと合流したほうがいいか?
親父が逃げている可能性がある以上は、あまり考えている時間はない。
すぐに突入するのは確定。
さすがに同じ手は通じない。シャイニングステータスウインドウによる目くらましをする意味はない。
なら、現代知識無双、第2弾!
元ネタは漫画だがな!
ボゴオオッ!
俺は扉を無視し、壁に向かってそのまま歩き続ける。
さすがに地下なだけあって、壁は分厚い。
1メートルはあるだろう。
だが、そんなこと気にせずに、レベル72の非常識パワーを使ってそのまま進む。
ボコンッ!
やがて薄暗い、地下にしてはほの明るい空間に出た。




