52話。広場で芸を始める。村人が続々と集まってくる
「さて。ステールスフィアの説明も済んだし、次の村に行こうか」
俺は歩きだす。
「ああ。困っている人を助けにいこう」 ← シャルロット
「ですね。もちろん俺もお手伝いさせてらうっしょ!」 ← ジャロンさん
「みゃあ」 ← サフィ
「ブルルル」 ← 馬たち
「ブブブブッ! ブヒヒンヒヒッ! ブヒヒヒヒッ!」 ← メルディ
「おっといけない。そうだった。この村の広場の近くにある屋敷で、何か大事件が起きているんだったな」
「そうだ。アーサーがステータスウインドウで変なことするから、すっかり忘れていた」
「あははっ。俺はこの村の事件より、アーサーさんの能力や馬の知能の方が大事件だと思うけどな」
「みゃあ。殺されかけたミャロンは忘れちゃ駄目みゃ」
「村の事件を調査に行こう。もちろん、忘れていたなんて嘘だ。メルディのツッコミ力を試したのさ。みんな。あわせてくれてありがとう」
「ブヒィ……」
「ははっ。すねるなって。メルディ。さ。みんな。作戦を考えた。聞いてくれ」
俺たちは軽く打ちあわせをしつつ、村の広場に移動した。
広場はゆるやかなすり鉢状になっていて、中央が少し低い。
野球の内野くらいの丸い空間を、背の高い木が覆っている。ジャロンさんが綱渡りをした木なだけあって、高くて太い。
広場の横に、人の背より高い石壁に囲まれた立派な屋敷がある。
中は見えない。
さっきのガキんちょの話によれば、この中に不審な人物が出入りしているらしいし、そいつらがジャロンさんをボコッたのだろうか。
元領主の息子とはいえ、現状の俺はただの庶民だから、勝手に入って調査するのは気が引ける。
今のところ、ジャロンさんの証言とガキんちょの噂話しかないし、屋敷で大事件が起きている証拠はない。
だから、ここをまた賑やかにして、不審者をおびき出す。
普段から客が集まるまでそうしているのか、ジャロンさんがボーリングピンのような形をした木を使ってお手玉を始めた。リズムに合わせて軽快に歌いだす。
「さあさ、始まる。旅の芸。ふっふ~」
何もしていないところに男がいたって客は見てくれないだろうし、こうやって雰囲気を作っていくのだろう。
なんか「バーニラ、バニラ、バーニラ、フッフ~♪」のリズムみたいで気になるな……。
「さあ。みんな。サクラを頼む」
「ああ。賑やかしは得意ではないが」
「みゃくら?」
「客のフリをした関係者のことだ。物を買ったり芸を見たりして、商売が繁盛しているように見せかけるんだ。ジャロンさんがひとりで立っていたら、ちょっと近寄りがたい。けど、シャルやサフィが見ていたら、通行人は『お。なんだ? 楽しいことやっているのか?』と興味を持つんだよ」
「みゃるほどみゃあ。それがみゃくら」
「ああ。サクラだ。……ちなみに俺の故郷では、食用という意味で馬肉を桜肉という……」
ちらっ。
俺は馬たちを見る。
「ブヒッ?!」 × 3
「あ、いや、お前たちを食うはずないだろ」
にちゃあ……。
俺は意地悪そうな笑みを浮かべる。
「ブヒヒッ!」 × 3
物騒なことを言った報復とばかりに、馬は俺をとり囲み頭髪をムシャムシャとかじった。納得いかねえ。
さて。
シャルロットとブランシュ・ネージュ以外はサクラを演じるまでもなく、ジャロンさんのジャグリングを見て目をキラキラさせている。
この様子なら村人も興味を持つだろう。遠くの方で、ちらほらと、こっちを見て足を止めている人がいる。気になっているようだ。
今は非村人ばかりだから近寄りがたいだろうが、第1村人がくれば、他の村人も気楽に近寄ってくるはずだ。
ただ、芸を楽しんでいるサフィには悪いが……。
「サフィ。ちょっといいか?」
「みゃ?」
「これから場合によっては、悪人とのバトルになるかもしれない。そうなったら、お前に頼みたいことがあるんだ」
「みゃ! 頑張るみゃ! サフィもミャーサーの役に立ちたいみゃ!」
「ああ。これは戦いとは直接関係ないが、非常に重要なことなんだ。いいか。よく聞いて覚えるんだ……」
俺はサフィにあることを教える。
そうこうしているうちに、村人たちがひとり、またひとりとやってくる。
みんな、足が折れたはずのジャロンさんが元気にしているから、先日のことを演技だと思ってくれているのだろう。
さっきのガキんちょ達が笑いながら、家族を連れてきた。
それが決め手だ。
思惑どおり、離れた位置で様子を窺っていた人たちも、まっすぐやってくる。
あっという間に、広場に100名近い人が集まった。みんな娯楽に飢えているからな。何か楽しそうなことがあれば、食いつきはいい。
会社の定時という仕組みもないから、みんな仕事を中断してでもやってくる。
ジャロンさんがジャグリングの手を止める。
ん?
へらへらした表情は変わらないのに目力が増したというか、目がキラキラと輝きだした。
ジャロンさんはその場で後方宙返りをする。
湧いたいくつかの拍手では足りぬとばかりに、両腕を大きく左右に広げて声を張る。
「さあさ、お立ち会い!
ここに現れしは奇妙奇天烈、珍妙摩訶不思議!
奇奇妙妙たる玉手箱のごとき旅芝居!
今日が今日の日、今日だけの夢興行!
新奇天賦の才溢るる俊豪アーサーを迎えての二の舞い。
唯一無二の華やぐ舞台を見ない手はない、ない!
見なきゃ損、損の怪々奇譚!
間尺にあわぬとは言わせない!
さあさ、お立ち会い~っ!」
……?
異世界語翻訳機能がぶっ壊れたか?
何を言っているのかは聞き取れるが、意味が分からない。
いや、分かるんだけど、よく分からない、奇妙な感じだ。
古文みたいな古い表現だから、異世界現代語では微妙に意味が理解でない?
つんつん。
シャルロットが肩をつついてきた。
「ん?」
「ほら。お前が呼ばれている。舞台はないが、舞台脇というか、そろそろあっちに移動したらどうだ?」
「え? そうなの? なに言ってたの?」
「ああ。古い言い回しで分からなかったか? 今回限り、特別にアーサーという演者がいるから見ないと損、と言っていた」
「なるほど。『今日のライブ配信はスペシャルゲストがいるよ~。ハッシュタグアーサーを付けて拡散してね』とエックスでポストして枠立ての告知したようなものか」
「何を言っているんだ?」
「ふふっ。なんでもない。知らない言葉を聞いたときの困惑をシャルにも味わってもらいたかっただけだ」
俺は村人集団の前に移動し、ジャロンさんの隣に立つ。




