40話。悪党の古物商を成敗する。ざまあ!
案の定、古物商の店主は村を出ると、ゴミ捨て穴に飛び込み、貝殻を拾い、革袋に詰め始める。
あーあー。あんなに慌てて。手を怪我するぞ。
店主は店に戻っていく。いや、違う。シャルロットが滞在すると告げた教会堂だ。
よし。俺も教会堂に行こう。
「馬! みんなで教会堂に行くぞ!」
「ブルルルル」 × 3
「ブヒブヒ」
教会堂は20人が入れそうな、石造の建物だ。村で最も背が高く2階建ての高さがあるが吹き抜けになっており、階層自体はひとつだ
俺たちが教会堂に到着すると、まさにクライマックスだった。
「古物商よ。お前はただの貝殻を海竜の鱗と偽って、私に売ろうと言うのか!」
「言いがかりはよせ! これは本物の海竜の鱗だ! 買うと言ったのはお前だろう! さっさと金を出せ! 教会堂で罪を重ねれば、神罰が下るぞ!」
あー。シャルロットが村に滞在している間は剣を装備していないから、ただの女に見えているらしく、古物商は調子に乗ってるな。
「よくぞ言った。ならば、人としての罰を与えてやろう」
あ。チャンスだ!
「レインボーステータスオープン!」
俺は教会堂に途中し、色硝子の反射を利用し、虹色の輝きで古物商の目をくらませる。
「うわああああっ! 目が、目があああああっ!」
店主が顔面を押さえて仰け反る。
俺は密談のためにシャルロットに近づく。
声をかけようとすると、先に言われる。
「アーサー。お前のステータスオープンは、使うたびに器用になっていくな。虹色のステータスなんて初めて見たぞ。とんでもないやつだな、お前は」
「望遠鏡としての使い方もさっき発明したが、そんなことはどうでもいい」
「なんだって?! どうでもよくはないだろ! 何を言っているんだお前?! 望遠鏡?!」
「盾を貸して」
「あっ、ああ。望遠鏡……? ステータスウインドウで?」
「話はあとだ! 盾!」
「私的には小悪党の処分よりも虹色ウインドウや望遠鏡を編みだすお前の化け物じみた発想の方が気になるが……。前例がないんだしおそらく有史始まって以来の使い方だぞ……」
「う、ううっ……。今の光はいったい……」
古物商がまぶたをゴシゴシしている。視力が回復してきたようだ。
ならば!
俺は盾を頭上に掲げ、ステータスウインドウの反射光で輝かせる。
「ええいっ! ひかえいっ! ひかえおろう! この紋章が目に入らぬか! こちらにおわすお方をどなたと心得る! 恐れ多くも、ラドゥール王国の現王弟の令嬢にして先の王国騎士団第一団長シャルロット・リュミエール様であらせられるぞ! 頭が高い! 頭が高ぁぁい!」
「ひ、ひいいいっ!」
男は慌てて跪き、頭を下げた。
低い姿勢になっただけで、額が浮いている。
「頭が高い! 頭が高ぁぁい!」
「ひ、ひいいいっ!」
俺が改めて言葉で圧をかけると、男は額を地につけた。
俺は視線でシャルロットに発言を促す。
シャルロットが頷き、一歩出る。
「その方は、我が王家の紋章が刻まれた盾の裏面のみを見て、買い取り鑑定をした。海竜の鱗の真贋も見極められぬ。鑑定スキルがないのは明白。真面目に生きる人々の足下を見て品物を安く買い取るなど、言語道断! この地での古物商営業を禁止とする! あくらつな取引をしたエナに謝罪し、正当な買い取り価格を支払った後に、その鍬を使い汗水をたらして畑を開墾しろ!」
「……ッ!」
「これにて一件落――」
俺は締めの台詞を言おうとするが――。
男が立ち上がる。そして、腰に提げてあったナイフを抜いた。
「くくくっ。偽物だ! 偽物に決まっている。王族を偽る者を捕まえれば、俺が報奨金を貰える! 仮に本物だったとしても、死んでしまえばただの骸!」
「お、おお……。正体が分かっても抵抗するパターンか」
シャルロットが剣を抜く前に、俺は手で制止し、盾を渡す。
「順番が逆になったが、『こらしめてやれ』と俺に命じてくれ」
「いや、相手は武器を持っている。お前は素手だ」
「いいから! シャルロットは自分の身に危険が迫ったときに敵の攻撃をあしらうくらいはしてもいいけど、基本的に俺に命令して戦わせろ!」
「なにか腑に落ちないが、分かった。こらしめてやれ!」
「はっ!」
「なにをごちゃごちゃと!」
男がナイフを振ってくる。
「ダーン、ダーン、ダンッ! ダダダッ! ダダダッ! ダーン、ダーン、ダーン! ダ~~~ンッ!」
俺は殺陣のシーンで流れる曲を口ずさむ(※)。
※:水戸黄門のノリで紋章を見せつけているのに、《《暴れる将軍が活躍する時代劇》》の曲を口ずさんでいるのは、完全に勘違い。
俺は男とにらみあい、お互いに隙を窺い、円を描くようにじりじりと横へ移動する。
しかし、狭い教会堂だ。すぐに木製ベンチに脚をぶつけた。
男が突進してくる。
俺は攻撃を避けて手首にチョップをしてナイフを落とさせ、男の首筋にチョップして昏倒させたから、もうやることがなくなった。
くそっ!
まずい!
もっと、ダーン、ダーン言いたい!
俺は男の元にかがみ、襟元をつかんで起き上がらせて、自ら背後に倒れる。まるで、男に押し倒されたかのような動きだ。
「くっ! まだ抵抗するか!」
そして横へ回転し、男の上になり、さらに逆回転して男の下になる。一進一退の攻防だ。
「ダーン、ダダーン! ダダンッ、ダダンッ! ダッ! ダッ! ダッ、ダダーン!」
俺は気分良く歌いながら、男の手首をつかみ、ナイフを落とさせないようにしながら、俺の喉に近づけさせる。
ヒュッ!
敢えて俺は力負けして、ナイフを振り下ろし、ギリギリのところで首を横に曲げて避ける。ナイフが地面に突き刺さる。
俺は男を跳ねあげて立ち上がらせ、背後に回って首に腕を回して、倒れないようにしながら、絞める。
「観念しろ! ダーン、ダダ、ダダン、ダダー……」
「……アーサー。何をしているんだ。そして、その歌はいったい……」
「こいつが抵抗するから……」
「攻撃力2400防御力1800のお前と互角に戦える人間がいてたまるか! どこの魔王か古竜だ! まったく、もう」
「あ。可愛い。もう1回ちょうだい」
「ん?」
「まったく、もう、ってやつ」
「……まったく、もう」
「最高! 可愛い!」
「……え。えへっ……。わ、わたしももっとほしいな」
「ん?」
「可愛いって言って……」
そうか。そういや、綺麗よりも可愛いって言われたいんだよな。
「可愛い!」
「もっと!」
「可愛い!」
時代劇ごっこはどうでもよくなったから、男は放り捨てた。
これにて一件落着!




