23話。水浴びをしたらシャルロットとサフィが胸も股間も隠さないから、俺は怒る
食事を終えた俺は手洗い歯磨きをした。
ちなみに歯磨きは、炭と塩と石灰とハーブを練った粘度みたいなものが市販されていて、それを噛む。
現代で言うところの、犬用の歯磨きガムみたいなものだろうか。
植物の枝を使った歯ブラシみたいなのも存在する。
「さて。馬を待つ間、ふたりにステータスウインドウの使い方を教える。特にサフィは覚えてくれ」
俺はふたりの正面に立つ。
「みゃあ?」
「ん?」
ふたりは髪をタオル(※)で拭く手を止め、首をかしげた。
※:タオルは古代からある。ラテン語のtelaがフランス語toileを経て英語towelになった。また、フランス語toileは化粧台に置かれる布を意味しており、toilette(化粧台や、化粧をする場所という意味)に派生した。そこから後に便所という意味が生まれた。つまり、トイレとタオルは、ラテン語telaという共通の語源を持つ兄弟と言える。
「サフィ、出せるみゃ。ステータスミョープン」
サフィがステータスウインドウを出した。手のひらの上に半透明の板が浮いている。
するとシャルロットが何かに気づいた。
「あ。そういうことか。サフィ。ステータスはこうやって表示するんだ。ステータスオープン」
シャルロットがステータスウインドウを表示した……らしい。
シャルロットは手のひらを自分に向けており、俺からはウインドウが見えない。手の甲の周辺がぼんやり輝いて見える。
「ほら。サフィ。こうやって手の内側を自分に向けて、他人から覗かれないようにするんだ」
「こうみゃ?」
「そうだ」
ふたりは納得しているようだ。
だが、そうじゃない。
俺は過剰に腕を振り、声を大きくして否定する。
「違う! そうじゃない! 俺がいま言いたいことは、そういうことじゃない!」
バサバサバサ……。
どこかから鳥が飛んでいった。
「みゃ?」
「どういうことだ? 我々はもうステータスを見せあった仲だから見られても問題ないが、今後、他人がいる場所ではこうやって手で隠して……」
シャルロットやサフィは平然としているが、俺はことの深刻さをあらわすために、声を大きくする。
「ああ。それはいい。隠してくれ! だが、他にも隠すものがあるんだ。シャルロットは隠さなくても許されるが、サフィは許されないことがあるんだ!」
「みゃ? サフィは駄目みゃ?」
「ん? サフィや私は、誰かから許しを請わないといけないようなことをしたのか?」
ふたりがかなり興味を持ってきたから、俺は普段の声音に戻す。
「さっき、3人で一緒に水浴びしたよな」
「ああ」
「なんで、裸を隠さなかったんだ?」
実はさっき、ほとんど見えなかったが、裸のシャルロットがすぐ近くにいる、ただそれだけで……。
なんていうか……。
その……。
下品なんですが……。
フフ……。
興奮しちゃいましてね……。
実は非常に気まずかったのだ。
「え?」
「みゃあ?」
「隠せよ! 上も下も、丸出しだったじゃないか! 人に見られたらどうするんだ! 俺はお前たちが人前で裸になるのを許さない!」
「いや、でも、我々しかいなかったし。間近で凝視されるならともかく、暗い森の中だぞ」
「事故が怖いから、ランタンを近くに置いてただろ! けっこう見えてた!」
「見ていたのか」
平然とした返事だ。照れた様子がまったくない。
「レベル72の身体能力を活かして超高速で首だけ動かして、気づかれないようになんどもチラ見していた。『風が出てきたみゃ』『ああ。山の天気は変わりやすい』じゃないんだよ。俺の首の回転が風を起こしていたんだよ!」
「無駄なことに身体能力を活かすな! しかし、お前になら見られても構わない……。わ、私の体はどうだった?」
「美しかった! めちゃくちゃ美しかった! サフィは可愛かった! だが、そういうことじゃない! 俺以外の男に見られたらどうするんだ! サフィ。お前は猫の獣人だし、夜目はきくよな?」
「よめ?」
「ちょっと待ってろ」
俺はランタンから離れて、暗闇に入る。
「ほら。今、俺の指は何本、立っている」
「3本みゃ」
「シャルロットは見えるか?」
「いや、アーサーの体の輪郭がうっすらと見える程度だ」
俺は元の位置に移動する。
「サフィ。分かったか? 今のが夜目だ。俺たち人間は夜になるとほとんど周りが見えなくなるんだ。特にこういう森の中だと。でも、お前は見えていた。多分、匂いとか音とか、そういうのに対する感覚も鋭いから、俺たちよりもっと見えている。普段から森で暮らしているような人も、普通より夜目がきくはずだ」
「知らなかったみゃ」
「分かったか? シャルロット。裸を見られる可能性があるんだ」
「別に見られても……」
「駄目だ! 俺が他人に、お前の裸を見せたくない!」
「……?」
く~~っ。
かわいらしく首をかしげやがって!
何も分かってない!
裸を見られてもいい文化や価値観なのかもしれないし、王族だから召使いに風呂の世話をさせていたのかもしれない。
幼いサフィも無垢だからこそ、裸を見られることを恥ずかしく思っていない。
「分かってくれよ。俺は俺以外の男にお前の裸を見せたくない!」
「アーサーの言いたいことは分かった。つ、つまり、私の裸はお前にとって価値があり、お前は独占欲が湧いているんだな?」
「ああ! おおむね、そのとおりだ!」
「わ、分かった。気をつけよう。……だが、それがステータスとなんの関係がある?」
「つまり、こういうことだ。ステータスオープン!」
俺はステータスウインドウを巨大化状態で開く。
ウインドウの上フレームが服の上から乳首の位置を、下フレームが股間の位置に来る。
「どうだ! ステータスウインドウでセンシティブな位置が隠せる!」
アニメでエッチなところを隠す謎の光を、自力で出すってことさ!
「なるほど。それでさっき水浴びをしていたときに、水面下でお前の股間が光っていたのか」
「みゃあ。アーミャーのおちんちん光っててキレイだったみゃ」
「サフィ。女の子がおちんちんなんて言ったらいけないよ」
「みゃあ」
くっそっ。気づかれていたのか!
「とにかく、俺は男だから股間だけでいいが、お前たちはこうやって、ステータスウィンドウで胸と股間を隠してくれ」
「アーサーは股間しか隠さないだろう。なぜ私たちは胸まで隠すんだ?」
「そういうもんなの!」
シャルロットが鈍いのか、王族だから鈍いのか、なんなんだ。
「とにかく、こう、でっかいステータスウィンドウで前面ガードだ」
「それだと、ステータスが丸見えじゃないか。お前みたいに股間だけガードすれば、小さいから数値が読まれる心配はないかもしれないが」
「ぐふっ……!」
ノンデリな言葉の刃が俺の股間に突き刺さる!
小さいって、「ステータスウィンドウの数字」のことだよな?
ステータスウィンドウのサイズ、つまり、その下に隠された物のことを言ったわけじゃないよな?
「いざとなったら、股間だけでも良い。とにかく頼むよ……。隠してくれ」
「どうしても嫌だとは言わないが……。裸は見られても死にはしないが、ステータスを見られたら死に直結するんだぞ。詳細を表示すると弱点属性が出てしまう。どうして、そんな……」
「そんな窮地でやれって言ってるわけじゃないんだ。例えばさっき、水浴びをしていたとき、偶然、道に迷ったおっさんの集団がやってきて、お前の裸を見たらどうするんだ。俺は殺人者になっていたかもしれないんだぞ?」
「ステータスを見せるくらいなら、裸を見せるだろう。あと、裸程度で人を殺すな」
「俺には、お前の裸はそれくらい価値があるんだよ!」
バサバサバサッ!
俺が叫んでしまったので、遠く眠っていた鳥を起こしてしまったようだ。夜中なのにすまん。
「……人殺しを覚悟するほどの価値が、私の裸に?」
シャルロットが声を小さくするから、俺も小さくする。
「当たり前だ。美しさを自覚してくれ。お前は美しい! その美しさを独占するためなら、俺は無実の民を傷つけることを恐れはしない……!」
く、ううう。自分で言っていて恥ずかしい!
「う、うん……。分かった」
小さい声だが、はっきり聞こえた。
約束成立だからな!
「ありがとう。実際、シャルロットは強いだろ。ステータスは見られてもいいじゃないか。もしお前より強い相手がいたら俺がボコる。だから、俺以外の男に裸を見せないでくれ」
「うん。私の裸体はお前にしか見せない」
「よし。じゃあ、次にサフィ。お前は股間はもちろん、乳首も必須だ。絶対に隠せ」
「みゃ?! みゃんでみゃ?」
「ロリの乳首は厳しいんだよ!」
「よく分からみゃいけど、ご主人様に従うみゃ」
よし。納得してくれたようだ。




