第4話 フロアからは見えなかった場所
「いったいどこに連れて行こうとしておるのじゃ……」
何故かご機嫌で歩き始める二匹の後ろで、額に手を当てて呆れたような顔で続くルリ。思わず本音がこぼれるが、ルナたちが気にする様子はない。暗闇が続く通路をしばらく歩いていると、前方が僅かに明るくなっている空間が見えてきた。
「ん? なんであそこだけ明るくなっておるのじゃ?」
あまりにも奇妙な光景を目の当たりにし、ルリが眉間にしわを寄せる。すると、その光を見つけた二匹がその場で飛び跳ねて、大きな鳴き声を上げ始める。
「ニャ―、ニャニャ!」
「キュー、キュキュ!」
「は? 早くこっちに来て見てほしいじゃと? 一体何が……」
ルナと翠に促されたルリが光の漏れている空間に近づき、恐る恐る覗き込んだ時だった。壁がなくなった場所が少し張り出しており、バルコニーのような構造になっていた。そして眼下に広がるのは、先程まで自分たちがいた八階層のフロアだった。
「な……こんな場所があったじゃと? しかし、フロアからは一切見えておらんかったぞ?」
目の前に広がる景色に驚いていると、見覚えのある二人が言い争う様子が目に入ってきた。
「あの二人は……まだ言い争っておるのか……しかし、おかしいのう? この位置であるならば声が聞こえてもおかしくないのじゃが、まったく何を話しているのかわからんのじゃ」
バルコニーから瑛士たちがいる場所まで数メートルしか無いように見えるのだが、彼らの会話は一切聞こえてこない。不思議に思ったルリが手を伸ばしてみるが、ガラスのようなもので遮断されているわけでもなく、遮るものは見当たらない。どんな仕組みになっているのかさっぱりわからず、眉間にしわを寄せて顔を傾げているとルナが足元にすり寄ってきた。
「ルナ、どうしたのじゃ?」
「キューキュキュ」
鳴き声のする方を見ると、ルナの隣に石を加えた翠が地面に座って見上げていた。
「はて……翠が加えておるのは小石じゃのう? これはどうしろということなんじゃ?」
意図がわからず不思議そうに二匹を見つめていると、ルナが鳴き声を上げて説明する。
「キューキュキュ、キュキュ」
「なんじゃと? 翠が持ってきた小石を瑛士に向けて投げてほしいじゃと? しかし、なにか壁のようなものがあったら、跳ね返って危ないのでは……」
「キューキュキュ」
「投げてみればわかるから大丈夫じゃと? うーむ……ルナの言葉を信じてやってみるかのう」
翠が加えていた小石を受け取ると、半信半疑で瑛士に向かって投げつける。見事彼の頭に直撃し、周囲をあわてて見回す姿が見える。何度かルリがいる方角も見て視線が合うのだが、なぜかこちらに気がつくことはなかった。
「なんということじゃ……ご主人と何度も目が合うというのに、まるでこちらの存在を認識しておらぬ……」
目の前で起こっている事態を理解できずにいると、ルナが再び鳴き声を上げる。
「キュー! キュキュ」
「すごいでしょ! ここからならいたずらし放題だよって……ははは! 実にルナらしい解答じゃのう!」
言葉を聞いたルリが思わず大声を上げて笑うと、得意げに胸を張るルナ。その様子を見ていた翠が不思議そうに顔を傾げていた時だった。何かに気がついた彼女が突然大声を上げる。
「そ、そうか! わかったのじゃ!」
「キュー?」
「ニャ―?」
いきなり大声を上げたルリに驚いた二匹が声を上げると、興奮した様子で話しかける。
「びっくりさせてしまって申し訳ないのう。すごい発見をしてしまって興奮が抑えきれないのじゃ!」
彼女が言っていることがまったく理解できず、顔を傾げる二匹。すると、胸を張ったルリがフロアを指差しながら説明を始める。
「詳しいことはよくわからんのじゃが、この空間には何らかの認識阻害効果が掛けられておる。しかも、相当強力なやつじゃと思われる……そして、先程遭遇した飯島がいたという事実から、ヤツはここからわらわたちのことを監視しておったのじゃ!」
「キュー」
「ニャ―」
ドヤ顔で語るルリに対し、歓声のような鳴き声を上げる二匹。
「ふふふ、そんなに称賛するのではない! わらわのような天才にかかればすぐに分かるのじゃよ。わずかじゃが、不可解な魔力残滓があるから間違いないじゃろう……問題は飯島一人ではなかったということじゃな。おそらくヤツラは九階層で待ち構えているのは間違いない……このまま突き進んで先手を打ちたいところじゃが、わらわ一人では厳しいのう……」
腕を組み、眉間にしわを寄せて困ったような表情を浮かべるルリ。
「ニャ―ニャ!」
「キューキュキュ!」
「協力してくれるというのじゃな? 気持ちはありがたいのじゃが……呪われた子供たちが同行している可能性が高く、ご主人たちと合流したほうがよいじゃろう。それに、不意打ちを成功させるよりもわざとヤツの策にハマったと見せかけてやるほうが面白いじゃろ?」
不敵な笑みを浮かべたルリが語りかけると、同じように笑い始めるルナと翠。二匹の様子を見た彼女は嬉しそうに声を上げる。
「ふふふ、いい顔をしておるのじゃ。そうと決まればご主人と合流するのじゃ!」
ルリと二匹の笑い声が通路に響き渡る。しかし、重要なことを見落としていたのだが……まだ彼女たちは気がついていなかった。
最後に――【神崎からのお願い】
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