第1話 惨劇の爪痕
視界を奪っていた煙が落ち着き始め、徐々に周囲の状況が明らかになると瑛士が悔しそうな声を上げる。
「クソッ! あと少しでヤツを引きずり出せたのに……」
片膝をついて拳を地面に叩きつけ、怒りをあらわにする瑛士。すると隣に立って周囲を見渡していた音羽は、ため息を吐くと呆れたように呟く。
「瑛士くんが悔しがる気持ちはわかるけど、あのまま戦っていたら間違いなくこっちが全滅していたわ。まったく……短気は損気という言葉があるでしょ? もう少し冷静になったほうがいいわよ」
「は? どういう意味だ? お前だって殺気立っていたじゃねーか!」
棘のある言葉を投げられ、苛立ったように瑛士が聞き返す。しかし、音羽は気に留める様子もなく、さらに話を続ける。
「そりゃ因縁の敵が目の前に現れたら、誰だって殺気くらい出るでしょ。だけど、怒りに身を任せて、暴れるような愚かな真似をするわけないじゃない」
「お前……ケンカ売っているのか? 俺が無鉄砲に飛び出そうとしていたとしか聞こえないんだが?」
「事実でしょ? 相手の姿も全く見えず、まして相手から狙われているのにやみくもに走り出そうとしていたじゃない。あの時、私が止めなかったらどうなっていたことか……」
眉間にしわを寄せて苛立った声を上げる瑛士に対し、呆れかえったような顔で答える音羽。その態度に対し、ついに怒りが限界突破する。
「あ? お前が止めなくても確実に仕留められていたんだよ! 俺の魔力探知に狂いがあるわけないだろうが!」
怒り狂った瑛士が音羽を睨みつけ、思いっきり叫んだ時だった。
「ドアホゥ!」
フロア内に怒号とともに乾いた音が響き、瑛士が横に吹き飛ぶ。そして、彼の頬には真っ赤な手の跡が熱を帯びていた。
「いってぇ……」
何が起こったのかわからず、目を丸くして周囲を見渡すと目に涙をためて口をへの字に曲げたルリの姿が映る。
「ご主人のドアホ! なんで後先考えずに突っ走ろうとするのじゃ! 魔力探知が正確じゃと? この光景を見てもそのセリフが言えるのか!」
顔を真っ赤にして目から大粒の涙を流したルリが指したほうを見て、瑛士は目を見開いたまま言葉を失った。その先に広がっていたのは、底の見えない大穴が開いていた。その近くにはなぜか黒焦げになり、穴に落ちかけているモンスターらしき屍が地面に横たわっていた。
「な……なんだこれは……」
あまりにも凄惨な光景を目の当たりにし、その場に固まる瑛士。すると、涙を流したルリが駆け寄ってきて胸ぐらをつかみ、大声で訴えかける。
「ご主人! これを見てまだ寝言を言うのか? あのまま突っ込んでいったらこいつらと同じように穴に落ちるか、炎に焼かれてあの世行きじゃったぞ!」
「……な、なんでこんな大穴が開いているんだ……」
「そんなこと知らないのじゃ! しかし、ご主人が怒り狂っているときに爆発のような音が聞こえたのじゃ……じゃから、飯島女史が何か罠を仕掛けていた可能性があるのじゃ」
呆然とする瑛士に対し、頬を膨らませて怒りをあらわにするルリ。そのまま俯くと、肩を震わせながら声を上げる。
「もしもじゃ、もしもじゃぞ……あのままご主人に何かあったら……復讐どころじゃないのじゃ……」
声を押し殺して全身を震わせるルリを見て、優しく頭をなでる瑛士。すると、隣に立っていた音羽が険しい顔で話しかける。
「ほんとにしっかりしてよね。瑛士くんがいなくなったら私たちはどうしたらいいのかわからないんだから……」
「なんというか……すまなかった……」
悲しそうな表情で二人から言葉を投げられ、ばつが悪そうに顔をそむける瑛士。すると、小さく息を吐いた音羽が目を細めながら口を開く。
「まあ、ルリちゃんは飯島女史が何かをしたといっていたけど……この大穴を開けたのは彼女じゃないわね」
「は? どういうことだ?」
彼女の言葉を聞き、我に返った瑛士が振り返りながら問いかける。すると、音羽は苦虫をかみつぶしたような顔で話しかける。
「飯島がいたと思われる場所は、この階層の出口付近だと思うの……距離にして数十メートルは離れていると予想できるわ。でもね……この大穴からはほんのわずかな魔力しか感じないし、それよりもこの匂いに何か感じない?」
「匂い……だと?」
音羽の言葉を聞き、瑛士が鼻を利かせるとかすかに覚えのある匂いが鼻腔をつく。
(この匂いはなんだ? ものすごく覚えがあるというか……魔法で爆発が起こればこんな匂いはしないはずだ……ということは、人為的に起こされた爆発?)
顎に手を当てて、考えを巡らせているとある結論にたどり着く。
「まさか……これは火薬を使ったのか?」
「ご名答。しかも相当な量の火薬を仕込んでいたみたいね……おそらくモンスターどもにちょっかいをかけていたというのは、火薬の入った機械でも仕掛けていたんじゃないかしら?」
「……まじかよ。でもどうやってモンスターに仕掛けるんだ? いくら何でもそんな爆破装置をつけようとしたら、反撃されるに決まっているだろうに」
話を聞いていた瑛士は、顔を傾げて眉間にしわを寄せる。すると、音羽が視線を動かしながら口を開く。
「そのためにあの二人を利用したんじゃないかしら? ここから先は私の予測だけど……人の道を外れた装置であることは間違いなさそうよ」
目を細めた音羽が視線を動かした先にいたのは、地面に倒れてすでに動かなくなった遥香の姿だった。
いったい彼女は何を見て、装置の正体を見抜いたのだろうか?
最後に――【神崎からのお願い】
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