閑話㉕ー7 ルナと翠は名コンビ?
瑛士たちが七階層の異変から逃げきって安堵している横で、ルナが翠の前に立って無言で見下ろしていた。
「なあ、なんで怒っているかわかるか?」
「えーっと、なんでかな……いえ、冗談です……」
笑ってごまかそうとした翠だが、目の前にいるルナの圧に負けて床に全身を擦りつけるように反省の意思を示す。
「まったく……それで、俺が六階層にいた時にお前はどこにいたんだ?」
「えーっと、あまりにも暇だったから……通路を通って七階層でお昼寝を……」
「はあ? 七階層で昼寝していただと?」
飛び出したとんでもない発言を聞き、思わず声を上げるルナ。すると、翠が慌てて両前足でルナの口をふさぐ。
「わー! ルナさん、大声を出したらダメだって!」
「ムギュー!」
いきなり口を押さえつけられたルナは奇妙な鳴き声を上げながら、顔がどんどん赤くなる。そして、すぐに前足で押さえつけていた翠の前足を勢いよく払いのけると、大きく息を吸い込みながら呼吸を整える。
「はぁーはぁー……いきなり何をするんだよ!」
「だって、いきなり大声で叫ぶから……」
「だからといって、両前足で鼻の穴まで塞がれたら窒息死するだろうが!」
「ルナさんは強いから大丈夫だと思ったんだけど……」
不思議そうに顔を傾げながら話す翠を見て、ルナが項垂れながら大きなため息を吐く。
「お前な……どんな強い人間でも息ができなかったら、すぐに死んじゃうだろうが!」
「でも……ルナさんはウサギだし」
「ウサギだからって同じ哺乳類なんだよ! そもそも酸素がなければお前も息ができないだろうが!」
鬼の形相でルナが訴えかけると、少し俯いた翠が何かを思いついたような顔で口を開く。
「たしかにそうだね……そっか、酸素があれば大丈夫なんだね!」
「は? まあ、酸素があればたしかに生きていられるが……」
「うんうん。じゃあ今度は酸素をたっくさん用意した袋を準備しておくね! この間、ご主人さんと一緒に動画を見ていたら、缶に入った酸素を吸っている人を見たんだよ」
嬉しそうに話す翠を見て、嫌な予感がしたルナが恐る恐る問いかける。
「翠、お前が言う酸素って……細長い缶に入って口に当てて吸うヤツのことか?」
「そうそう! 息を切らした人がそれを吸ったら、すごく元気になっていたんだよ。ご主人も『迷宮攻略時には体力を使うし、常備しておいてもいいかもしれん』って言っていたからさ! それを吸えばパワーアップできるってことだよね?」
嬉しそうに話す翠を見て、ルナが真っ青な顔になって声を上げる。
「アホか! それは運動した後や体力を使い切った時、早く呼吸を整えるための物だ! そもそも、何でもないときに純酸素なんてたくさん吸ったら、酸素中毒で死ぬぞ!」
「え? でもさっきルナさんが『酸素がたくさんあれば生きていける』って言っていたじゃん」
「それは空気の話であって、酸素単体の話じゃねーよ!」
ルナが必死に訴えかけると、不思議そうに顔を傾げながら翠が聞き返す。
「そうなの? でも純酸素って純粋な酸素ってことでしょ? 水も綺麗な方がいいって言うし、酸素も余計なものがない方がすごいんじゃない?」
「あのな……俺たちの体はバランスが大事なんだよ……お前だって、飯はいろんなものを食べたいだろ?」
「そうだね。いくら美味しいものでも一つだけじゃ飽きちゃうし」
「まあ、ちょっと違うが、そういうことだ……」
目を輝かせて頷く翠を見て、大きく肩を落として耳も垂れ下がるルナ。
「ルナさん、すごく物知りだね! すごいや!」
なぜかはしゃいでいる翠を見て、ルナがため息を吐くと何かを思い出したように問いかける。
「そういえば……お前のことだから七階層にずっといたわけじゃないんだろ?」
「うん。なんか上の方から変な声が聞こえたから、様子を見に行こうと思ってちょっと先に進んだよ」
「なに? それで何かわかったのか?」
話を聞いていたルナが目を細め、問いかけると翠が少し困ったような顔で話し始める。
「途中まで行ったんだけど、唸るような声が響いてきて……ビックリして逃げ帰ってきたんだよね。通路も奥に行くとすごく暗くて、歩きにくかったんだよ」
「へえ……妙な話だな」
翠の話を聞いたルナがしかめっ面になり、顔を傾げる。迷宮内はある程度整備されているため、暗くて歩きにくいという言葉に引っかかった。そのまま考え込んでいると、突然後ろから誰かに抱きかかえられる。
「ルナ、何を難しい顔をしておるのじゃ? こっちに来ておやつを食べるのじゃ」
「キュ? キューキュキュ!」
ルナの必死な訴えも虚しく、ルリに抱きかかえられてそのまま連れていかれる。そして、近くにいた翠にも声をかける。
「翠もこっちに来るのじゃ。おやつを一緒に食べようなのじゃ」
「ニャー!」
嬉しそうな鳴き声を上げて翠が駆け寄って、ルリの隣を歩き始める。
(やれやれ……肝心なことが聞けなかったけど、大丈夫か?)
ルリに抱きかかえられたルナの心に一抹の不安がよぎった。
この直後、彼らはすぐにその答えを知ることになろうとは――まだ気が付いていなかった。
最後に――【神崎からのお願い】
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