第1話 犬猿の仲は変わらなかった
ルリたちと合流した瑛士たちは六階層に続く通路を歩いていた。
「この通路だけはどの階層とつながっていても変わらないんだな……」
岩を削り取ったような壁、一定間隔で備え付けられた松明に薄暗い通路……自分が今何階層に向かっているのか見失いそうになるほど、同じ景色が続いていた。
「ふむ、ご主人の言う通りじゃな。エリアボスのいるフロアに続く通路には休憩スペースがあったのじゃが、よく見ていないと素通りしてもおかしくないからのう」
「まあ、あのスペース自体も無理やり作った感があったからな。そう考えると、翠と一緒に駆け込んだシャワールームは不自然だな……」
腕を組んで顔を傾げた瑛士の脳裏に浮かんだのは、翠と出会った直後に駆け込んだシャワールームだった。排水機能も整備されており、室内は明るく、定期的に清掃が入っているのかものすごく清潔に保たれている。一番不自然なのが、迷宮の公式アナウンスにそのような設備があるとは謳われていなかったことだ。難しそうな顔をして考え込んでいると、隣を歩いていた音羽が声をかける。
「まーた難しそうな顔して、何を考えているのよ? 別にラッキーだったと思えばいいんじゃない?」
「まあ、そうなんだが……そういえば、お前はなんであの部屋の存在を知っていたんだ?」
「へ? えーっと何のことかしら?」
思いもよらぬ問いかけに対し、目をそらしながらとぼける音羽。そんな彼女の様子を見逃さず、さらに問い詰める瑛士。
「別に大したことじゃないんだけどな……ロッカールームに見慣れた隠しカメラを発見したんだよ」
「へ、へえ……そうなんだ。で、でもそんなところにカメラを仕掛けるなんて、何を考えているのかしら?」
「……迷宮内は治外法権だって言って、人の着替えを覗くなんていい趣味をしているよな」
瑛士が視線をそらした瞬間を見逃さず、音羽が畳みかけるように話しかける。
「ほ、ほんとよね! いくら何でもシャワールームの中にまで仕掛けるなんて……いったい何を考えているのかしら!」
こぶしを握り締めた音羽が声高々に言い放った時だった。冷めた目で彼女を見つめる瑛士がゆっくり口を開く。
「ほう……やっぱりシャワールームの中にも仕掛けられていたんだな」
「そうね。まったく人の着替えだけでは飽き足らず、中にまで仕掛けるなんて……」
「ところで音羽? お前さ、なんでシャワールームまで仕掛けられていることを知っているんだ?」
自信たっぷりに語る音羽を見て、瑛士の眼光が鋭くなる。
「なんでって、さっき瑛士くんが言っていたでしょ? 隠しカメラが仕掛けられていたって」
「ああ、たしかに話したな。ロッカールームには仕掛けられていたって」
「そうでしょ! だから……って、あれ?」
大きく頷いていた音羽だが、矛盾点に気が付くと一気に血の気が引いた顔になる。その隙を瑛士が見逃すわけもなく、さらに追及の手が厳しくなる。
「どうしたんだ? お前はすごいよな、まるで見ていないはずの室内に隠されたカメラを言い当てるんだし」
「……」
「異様な気配がしたから、最初に使おうとした場所の隣を使ったんだがな。ところで音羽……ずいぶん顔色が悪いみたいだが、どうしたんだ?」
目が泳ぎ、頭から滝のような汗を流して固まる音羽。そんな彼女の顔を覗き込み、満面の笑みを浮かべて話しかける瑛士。さらに踏み込んで問いただそうとしたとき、瑛士の後頭部に衝撃が走るとともに顔面から地面に激突する。
「イデッ!」
地面にめり込む勢いで瑛士が倒れこむと、背後から勝ち誇ったような鳴き声が響く。
「キューキュキュ!」
「テメェ……不意打ちとは卑怯だろうが!」
顔を上げた瑛士が睨みつけた先にいたのは、怒りに満ちた表情で四つ足をついて座るルナ。
「キュキューキュ」
「あ? 音羽さんをいじめるとは何たる不届きものだ。成敗してくれるわ……じゃねーよ! なんで俺が悪者になっているんだよ!」
「キュー! キュキューキュ!」
「うるさい! お前は地面にはいつくばって許しを請えばいいんだよ……だと? テメェ……どうやら本気で成敗されたいらしいな!」
お互いの視線がぶつかると、火花のようなものが散り始める。一触即発の雰囲気が漂い始めた時、瑛士とルナの脳天にげんこつが落ちる。
「ギャー!」
「ギュー!」
ほぼ同時に悲鳴を上げ、頭を押さえた二人の後ろには能面のような顔をしたルリと音羽が立っていた。
「お主らは……ちょっと目を離すとすぐケンカしおって……」
「仲がいいのはわかるけど、もう少し穏便に話し合いとかできないの?」
こぶしを握り締めたまま、あきれたように話しかけるルリと音羽。すると、痛みに耐えながら瑛士とルナが抗議の声を上げる。
「いたた……お前らこそもう少し平和的な解決方法は思いつかないのかよ……」
「キュ……キューキュ」
「は? 言葉で言っても聞かない瑛士くんに、どうやって平和的な解決を促せと?」
抗議の声を上げた瑛士を見下ろし、ゴミを見るような視線を向ける音羽。
「……もとはお前が原因ってわかっているのか?」
「ねえ、ルリちゃん。瑛士くんたちも静かになったし、今後の予定を話し合わない?」
ジト目で見上げた瑛士が話しかけるが、音羽は何も聞こえていないようにルリへ話しかける。
「そうじゃな。そろそろ配信も再開したいしのう。それにのんびり攻略しておる時間もなさそうじゃからな」
問いかけられたルリが腕を組み、大きく頷きながら答える。
彼女が言う時間がないとはどういうことなのか?
最後に――【神崎からのお願い】
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