閑話㉑ー7 ついに動き始める飯島包囲網
音羽たちが迷宮内の関係者通路を分かれて進みはじめた頃、缶コーヒーを持った飯島がモニタールームへ戻ってきた。
「ふぅ、なんかやけに外が騒がしかったけど……紀元に対応を押し付け――じゃなくて任せたから、大丈夫でしょ」
椅子に腰かけると整然と並ぶモニターの一つに目を向ける。そこに映っていたのは、警察や消防の担当者と打ち合わせをしている紀元の姿があった。
「なんか焦っているように見えるけど、何も知らない、わからないで押し通すって言っていたから大丈夫でしょ」
飯島が缶コーヒーを口に含んだ瞬間、画面に映る紀元とバッチリ目が合った。それはまるで彼女に助けを求めているかのように口を動かし始め、思わずむせ返ってしまう。
「ゲホゲホッ……な、なんでそんな目でこっちを見ているのよ! って、カメラの場所なんて誰にも教えてないし、知らないはずなのに……」
呼吸を落ち着かせてモニターを覗き込むと、必死に何かを訴えかける紀元の様子がまだ映っていた。
「……き、気のせいよね。音声までは拾えないし、何かあったとしても私には関係ないわ! それよりも、他の場所に異常がないか確認しないといけないし」
身振り手振りまで加えて訴えかける紀元の様子が映るモニターから視線を外す飯島。そして、近くに置いてあったリモコンを操作する。すると、画面が切り替わって一階層の観光エリアの様子が映し出される。
「さてさて、いーちゃんグッズの売れ行きのほうはどうかしら? ものすごい人が並んでいるって聞いていたし、もうすでに売り切れちゃっていたらどうしようかしら」
こみ上げる笑いを抑えきれず、一人でツッコミをしながらモニターに目を向けた飯島は間抜けな声を上げて固まってしまう。
「は? 何よ、これ……」
画面に映し出されていたのは、整然と並ぶ大量のグッズと従業員以外は誰もいない店内の様子だった。
「ちょっと、どうなっているのよ! さっき外の様子を見たらすごい長蛇の列ができていたじゃない! なのに、なんで一人もお客さんがいないのよ……というか、一階層のどのカメラを見ても誰も来ていないってどういうことよ!」
怒りの声を上げた飯島が入口ゲートを映しているモニターに目を向けると、顔を真っ赤にしたおっさんに詰め寄られて平謝りしている従業員の姿が目に入る。
「ははん、コイツが原因だったわけね……何かトラブったのかもしれないけど、私のお客さんを邪魔するのはいただけないわ……」
不敵な笑みを浮かべると、スマホを取り出してどこかに連絡を取り始める飯島。
「お疲れ様。迷宮の入口ゲートでクレーマーが騒いでいるから、早急に対処してくれない? うん、丁重に扱って教育してくれると助かるわ。他のお客さんが困っているからよろしく」
電話を終えると、小さく息を吐いて画面を見つめる飯島。しばらくすると黒服を着た男性が数名現れ、クレーマーの男性と言葉を交わす。するとそのまま、黒服に連れられてどこかへ消えていった。するとすぐにゲートが解放され、次々とお客さんが吸い込まれるように流れ始める。
「やっぱりアイツがせき止めていたのね。何について怒っていたのかは知らないけど、どうせたいしたことじゃないだろうし。ほんとクレーマーって迷惑なのよ!」
頬を膨らませながら文句を言う飯島だが、この姿を紀元が見たら間違いなくツッコミを入れていただろう。彼女自身も少し前に迷宮外の観光エリアで、もめ事を起こして彼から雷を落とされていた。そんな記憶など微塵も残っていない彼女が、モニターを眺めているとスマホから着信音が流れる。
「はい、飯島だけど」
「お疲れ様です、飯島博士。奇妙な動きが確認されたため、耳に入れておいた方が良いかと考えてご連絡をいたしました」
連絡してきたのは、飯島が私的に契約しているセキュリティサービスの人間だった。昔から天才と言われ続けた彼女の研究を狙う者も多く、秘密裏に危険を排除する目的で利用していた。
「へえ、それは興味深いわね。簡潔かつ分かりやすく教えて」
「はい、わかりました。単刀直入に言いますと、公安が動き始めております」
「公安が? 何で?」
「先日起きた迷宮管理団体の前理事長及び副理事長の失踪事件についてかと思われます。迷宮方面で見かけたという情報が持ち込まれたとの話です」
「ふーん」
告げられる報告に対し、興味なさげに答える飯島。そして、次の言葉を聞くと眉間にしわを寄せて答える。
「その件に関し、飯島博士に話を伺いたいという動きもあるそうです」
「私に何を聞きたいのかしら? めんどくさいわね……わかったわ、また動きがあれば報告して」
「承知いたしました。失礼します」
会話を終えると、机にスマホを置いて大きく息を吐きながら椅子にもたれかかる飯島。
「チッ……公安のヤツラが動き始めたのね。まあ、真相にたどり着けるとは思えないし、せいぜい頑張りなさい」
モニタールームに飯島の高笑いが響き渡る。
しかし、彼女はまだ気が付いていなかった――失踪事件で動き始めたのはただの始まりに過ぎないことを……
最後に――【神崎からのお願い】
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