↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/24

サルビア襲来

「アキコ!起きなさい!」


チグリジアの一件が片付いてから数日後、私は朝突然メイド長によって起こされる。


「ど……どうしたんですかそんなに慌てて……」


顔を見られたくなくて布団を被りながら言う私に、メイド長は「さっき使いの者から連絡があって……!来るのよ、サルビア様が!」と真っ青な顔で訴えた。


「ええ!?で、でも来るのは来週って……」


「あのお方にそんな文句を言ったって仕方ないわ!すぐに支度なさい、どやされる前にね……!」


(そんな……!サルビア、不愛想なだけじゃなくって常識までないわけ!?)


すぐに飛び起きて、朝支度を済ませる。メイド長の話では、名目上「リリーに会いに行く」ということになっているが……サルビアの真の目的は私、アキコに会うことだ。

以前聞いた「隣国の指名手配犯を調査する仕事」を請け負っているサルビアは、血眼になってその人物を探している。そこに身元不明の使用人が妹に仕えてるなんて情報が入れば飛びつくのも無理はない。


本当は会いたくないし隠れていたいが、私の顔を見て指名手配犯でないとわかれば大人しく帰るはず。少しの我慢だと思い、覚悟を決めた。


――廊下に出ると、メイドのお姉さまたちが震えながら廊下に整列させられている。


「お……はよう?」


「ああアキコ!心配してたのよ!ほら、はやくあなたも並びなさいな……!」

お姉さまの中の一人が、言いながら私の手を引き――


「いい?どんなにムカつくことがあっても反論しちゃいけないわ!笑顔でやり過ごすの。今リリー様が広場までお迎えにあがっているから、今はじっと待ちましょう。」

また別のお姉さまがそう忠告してくれた。


そこまでハードルを上げられてしまうと逆に不安になってしまうのだが……私は端っこに並ぶと、息を呑みながらその時を待つ。


心臓の鼓動とお姉さまたちの息遣いが聞こえる程静まり返った廊下に、「ギイ」と扉の開く音が響いた。


「「「おかえりなさいませ!」」」


メイド長の合図で、一斉に声を上げ頭を下げる。すると冷たい声で「ご苦労」とだけ返ってきて少しだけ顔を上げる。


あれが……リリーの姉サルビアか。吊り上がった目にリリーとは対照的な黒い髪。その風貌はまさしく悪役令嬢といった様相だ。

サルビアは品定めするようにゆっくり廊下を歩きメイドたちを見やる。私も盗み見ていたことがバレぬよう再び深く頭を下げた。


しかし、サルビアの光沢のある革靴は私の前で止まり――「顔を上げなさい」と命令される。


恐る恐る顔を上げると、サルビアはこちらを見下ろして「あなたが、例の身元不明の女ね。」と言った。


「は、はい!アキコ・サイトーといいます!」


裏返った声で名乗る私の、つま先から頭までじっくり見るサルビア。

そしておもむろにペンダントロケットを開き、私とペンダントを交互に見ている。


ドキドキしながら棒立ちする私を、メイドのお姉さまたちは心配そうに見つめていた。


「フウン。変な化粧ね、どこかの部族かしら?惜しいわね、年頃だけは近そうなのに。」


サルビアは肩を落とし、息の混じった声でぼやく。


――きっと、似ても似つかなかったのだろう。安堵して胸を撫で下ろしていると、サルビアは私の顎に扇子を突きつけ「まあ、いいわ。お前……私の荷物を客間に運びなさい。」と言いつけトランクを渡してきた。


(お前!?さっき名乗ったでしょうが!)


「ちょっとお姉さま!今日は私に会いに来たと聞いていたのに、やっぱりアキコを調査するつもりだったのね!」


サルビアの後ろを追いかけながら、リリー様が怪訝そうに意見する。


「今終わったわ、外れよ。それよりもリリー、あなたちゃんとメイドの統率を取れているの?誰一人上着を脱がしに来ない。教育不足だわ。」


そうサルビアが悪態をついたことで、お姉さまたちは焦ったように上着を脱がしにかかった。


「ほら、トロトロしていないでお前も茶の準備をなさい、私は客人なのよ。」


そうリリー様に命令するサルビアを見て、廊下の雰囲気は途端にピリつき始める。まだ出会って数分なのに、私はもうあの姉のことが嫌いだ。

じとりとサルビアを睨むメイドのお姉さまたちも同じなのだろう。


トランクを客間まで運び一礼してから部屋を出ると――メイドのお姉さまたちが私に群がり「大丈夫だった!?」と声を掛けてくれる。


「怖かったでしょう、あんな舐めるようにじっくり見られて……」

「あなたが無事で良かったわ。」


私をキッチンに連れて行くと、お姉さまたちは怖い顔で「サルビア様はね、見ての通り横柄で恐ろしい方なのよ!なるべく関わり合いにならないようにしないと!」――そう忠告してきた。


「あはは……やっぱりあの人、嫌われてるの……?」


尋ねてみると、メイド長が割り込み「いけないわ、そんなこと言うもんじゃないの。」と諫(いさ)める。


「でもメイド長……!少しサルビア様がどんな方か説明しておいた方がいいわ!」


お姉さまの一人が言うので、メイド長は「仕方ない」と言わんばかりにため息をつき、重そうに口を開いた。


「もう、アキコは知っているのよね?リリー様の使命がどんなものなのか。」


「う、うん!光の巫女、でしょ。」


「そう。リリー様の家は代々、司祭の家系。元々傷を癒したりといった浄化の能力を持つ人が多かった。」


メイド長は言い切ってから、目を伏せる。

――そこに、規格外の浄化能力を持つ少女が産まれたのだ。世界を救うほどの力を秘めた少女が。


「リリー様は闇の魔力を浄化する能力を持って産まれてきたけれど、姉のサルビア様は……コップ一杯の水を浄化できる程度の魔力しかなかったの。だからサルビア様はリリー様を妬み、顔を合わせれば嫌味を吐くようになったのよ。」


聞けば聞くほど嫌な女だ。自分に才能がないからって、リリー様に辛く当たっていい理由にはならない。


「サルビア様は使命のあるリリー様の代わりに、教会から命じられた仕事を請け負ったりしているのだけど……どこに行ってもあの態度だから、周囲から距離を取られているのは事実よ。アキコはただでさえ目立つし、あまり目を付けられないように気を付けなさい。」


そう助言された直後に、客間でリリー様とサルビアを見ていたはずのお姉さまがやってきて、「アキコ、サルビア様があなたを指名しているわ。茶菓子を持ってきてと言いつけられたのだけれど……」と言い淀んだ。


「私、行くよ!」


「き、気を付けてね!」


キッチンに用意されていたカップケーキを盆に乗せ、私はサルビアの元まで足を運ぶ。

――まあ、もう疑惑は晴れたのだから。そこまでサルビアを怖がる必要もない。


油断していたが部屋に入るなり、サルビアはゆっくり振り返る。


そして、「来たわね。念には念を入れて、あなたの化粧していない顔も拝んでおきたいと思って呼んだのよ。リリー、ホットタオルを用意なさい!今からその部族の化粧を落とすから。」と、横暴な態度で言い放ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。