ギャルに乙女ゲーモブは難しい 前編
――私さ、中学の頃運命の出会いをしたんだよね。
寡黙で、話そうと思うと頭真っ白になっちゃって、いつも緊張しちゃって挙動不審。
なんかもう、私みたいなのがいたら空気悪いし?いない方がいいのかなーなんて思ってたりして。
1年の校外学習でさ?先生に言われて私とペアにさせられた子が「斎藤さんもっと楽しそうにしてよ!気分下がる。」って言った時ね――
「じゃあさ、うちが斎藤さんと組むよ。ペア変わろ?」
って、声掛けてくれた別クラスの子がいたの。
ワッペンだらけの改造ジャージに明るい色の髪、キラキラの爪。手に付いてるふわふわのシュシュ……
(ギャル……だ……)
校則的には超アウトだったんだろうけど、私にはそれがどんな王子様や漫画のヒーローよりかっこよく見えたんだ。
その子はその後すぐに転校しちゃったけど、私はあの姿が忘れられなくて心の中に「ギャル」を武装した。
キラキラの爪、バッチリメイク、腕に巻きついたシュシュとアクセサリー。私はギャルでいることで、自分に自信を持てるようになったわけ。これは最早体の一部って言うか?なくてはならないものなんだよね……
――――
――
……と、いうギャルへの熱い気持ちを、私は生徒会室で一生懸命語っていた。
「……その話がうちの校則を破っていい事情と関係があると言いたいの?アキコ・サイトー。」
柔らかそうなアッシュピンク色の髪をした美男子が、口角を引き攣らせて言う。
ファンデいらずの白い肌は赤く染まり、空色の瞳は今にも雷鳴が聞こえてきそうなほど陰っていた。
彼はこの学校の生徒会長「ユーリ・オリアン」さんだ。
もしごく普通の女子高生ならば、校則を守れと言ってくる男の髪色が派手なことに疑問を抱いたかもしれない。しかし……ここは異世界。
自然法則では有り得ないような会長の髪の色も、地毛で成立してしまう。
私はどうやら友達が好きだった乙女ゲームの世界に転生してしまったらしい。
目の前にいる会長のことは特によく話していたっけ……「明るいのに時折見せる寂しげな顔がいい」とか、なんとか。
しかし私に向けられたその顔は、寂しげどころか鬼のように険しい。
「え!?さっきの話がすべてじゃん!シュシュもネイルも私の一部なの!それを奪われるのは指もがれるのと同じぐらいむごいことなんだよカイチョー!」
驚きつつ口にすると、会長はため息をつきながら首を振る。
「大袈裟すぎる……ねえ、これは君の為にも言ってるんだよアキコ。君、主人のこともあってただでさえ注目されているし、更にその目立つ格好……いずれ、君や主人を良く思わない人間が攻撃材料にしてくるかもしれない。」
「いいもん、したら戦うし?魔法で、ちゃちゃっと……」
「君は身分も分からない使用人だろう、魔法なんか扱えるのか!?ったく、『リリー』の従者じゃなければどうにでもなれと放っておけたのに……!」
生徒会長が言いながら額を押さえる。言い方は悪いがその通りで、私は身分も謎、魔法の才能0の……所謂モブというやつだ。
(モブらしく慎ましやかに生きていたいのに、ギャル魂がそれを許さない……)
「とにかく、その爪だけでも……!」
会長が言いかけたところでガチャリと背後の扉が開いた。ひやりとした風が吹き抜けたかと思うと、薔薇の香りを漂わせながら、童話から飛び出したような少年が入ってくる。
白髪の彼はまさに「王子様」と呼ぶにふさわしく、白いまつ毛から覗く彼の瞳は、いちごミルクの色によく似ていた。
「……殿下、ごきげんよう。」
生徒会長は頭を下げてから私を睨み、顎をくいっと前に出す。
「ご、ごきげんよう!」
殿下……ということは、本当に王族なのか?
私も真似して頭を下げると、殿下と呼ばれた男は「頭を上げて下さい。ここでは僕もあなたがたと同じ学園の生徒ですから。」と口にする。
「流石は殿下、寛大でいらっしゃる……して、何かご用だったでしょうか?」
「その、宝石みたいな爪の……彼女について話が。」
殿下がそう言って私に桜色の瞳を向けた瞬間、会長の顔が青ざめていった。
「も、申し訳ありません!彼女に悪気はないのです、どうやら故郷の文化が抜けきらないらしく……!すぐにやめさせますので、お時間をください!」
(あれ?庇って……くれてる?)
会長がそう懇願してくれるも、殿下は首を横に振る。
「やめさせる必要はありません。この学園では特例として、文化や宗教に関わる場合であればその容姿を厳しく罰さないと定められています。このままでいいでしょう……と、伝えに来ました。」
爽やかに微笑む。すると会長は眉を下げながら「いえしかしですね……生徒たちから大量の苦情が」と反論しようとした。
殿下はそれを穏やかな笑みで「この学園は王族のために作られたから、僕が許せばそれで終わる話なのに?」と暴論でそれを封じてしまう。
「……お言葉ですが先程、殿下も我々と同じ生徒だと。」
「使える権力は使うものですよユーリ。」
「…………かしこまりました。」
私はそのまま解放された。殿下に頭を下げ「で、でんか!ありがとう……ございます!」と礼を言うと、彼は「お気になさらず、どうか頭を上げてください。」と言ってくれる。
そして「お手を触れても?」と尋ねてくるので、私は「どうぞ!」と裏返った声で返事をして右手を差し出した。
「素敵な爪ですね、見とれてしまうほど……」
と言って口が触れるスレスレのところまで私の手を近づけた。
(やっ―――――――ば……)
瞬間、脳が機能を停止して言葉を失う。童話に出てきそうな王子様に、童話に出てきそうな王子様がしそうなことをされてパニックだ。
真っ赤になっているであろう私を見て殿下はお辞儀すると、そのままどこかへ去ってしまう。
私はぼーっと右手を擦りながら、殿下の後ろ姿が見えなくなるまで廊下を見つめていた。




