安堵
ふーっと長めに大きく息を吐き出す。
そしてお互いに目を合わせ、頷き合い、ゆっくりと立ち上がる。
もう話し合いたいことだらけだ。
正直俺はヤス兄に聞かなきゃいけないことすらある。
「とりあえず入りますか?」
口元を緩ませたヤス兄が、ファミレスに親指をむけた。
「ですね」
俺も少し笑いながら、そう返事をする。
ヤス兄から一応、と言われ渡された帽子を被り、店内へ入る。
幸い、山が近い都心部からは離れた場所のため、客数は少なく、俺たちの顔だけで気がつく様子はなさそうだ。
空いていた一番奥の角席に座り、ドリンクバーを注文する。
「うわぁ、ドリンクバーなんて何年振り?」
「はは、ほんとそれな」
二人でそんなことを言いながら、各々好きな飲み物を持って席に戻った。
が、お互いの飲み物を見てまた少し笑い合う。
「あはは、二人してコーラって!」
「どんだけ喉乾いてんだよ俺ら!」
緊張を解き合うように笑う。
「いやぁ……実際喉カラカラだって」
ため息まじりに笑うヤス兄がコーラを飲んだ。
「いやまじな話さ、殺されるかと思ったわ」
そう言いながら、グラスをテーブルに置く。
「とりあえず明日何聞くかまとめとかないとなぁ」
口を尖らせ、クルクルとストローでコーラをかき混ぜる。
「あ、七瀬お前さ、俺たちが森にどうやって入って出たか理解できたか?俺全然わかんねーんだよなぁ」
軽口をつくようにペラペラと喋り続けるヤス兄は、俺に喋る隙を与えないようにしているのか。
俺に質問されるのを避けているようにも見える。
「なぁ、ヤス兄」
「んー?あ、やべ。コーラ飲み切っちゃったわ!ちょっともう一回注いで……」
「萩家ってなんだよ?」
逃げるように立ち上がるヤス兄を止めるようにそう聞いた。
「いや、何って……俺らの苗字?」
目を泳がせそう話すヤス兄は、様子を伺うに俺を見る。
「なんで俺らをあしらおうとした二人が、その苗字だけで足を止めて、話まで聞く気になったんだよ」
「俺らが有名人だから、とか?」
「はぁ!?今更何とぼけてんだよ、そんな訳ないだろ!名乗った理由次第では許さないみたいな雰囲気まであったし。まじで殺気感じるレベルだったじゃん」
「……はぁー、だよなぁ。誤魔化すのは無理あるよなぁ」
大きなため息混じりに笑うヤス兄は、やっと座り、俺の方を見た。
「実はさ、本当に俺も知らないんだよな」
「は、はぁ?いやだから、今更そういうのいいから……」
「いやまじで」
食い気味にそういうヤス兄は、とても嘘をついているようには見えない。
「知らないって……じゃあなんであそこで名乗ったわけ?」
「……父さんにさ、昔言われたんだよ」
「父さん?」
実は、両親が亡くなってから父さんと母さんの話は俺たちの間であまりしたことがない。
大きな理由はないけど、当時12歳ほどだった俺を気遣ってか、ヤス兄が直接両親の話を俺とすることを避けていたんだと思う。
「……もしも変なことを言われたり、すごい超能力のような力を見せてきたり、そんな大人がお前に声をかけてきたら直ぐにその場から逃げろってさ」
言いながら、残ったコーラを飲みきる。
「んで、もしも逃げきれなかったり、捕まりそうになった時は【萩家の者】と名乗りなさいって」
「なにそれ、どういうこと?」
そんな話は初めて聞いたし、俺はされたこともない。
「わからない。何でか聞いても父さんは理由を教えてくれなかったし、そう言えとしか聞かされてなかったからな。ただ、一年に一回くらい定期的に念押しされるように言い聞かされてたんだよなぁ」
溶け出した氷をストローで吸い、ズココっと音を立てる。
「まあ、父さんが死んでから何年も経つし、すっかり忘れてたんだけどさ。……院長とマスターの戦闘とか、吉岡さんのゲート開くみたいな変な力とか、霊力だのなんだのって見てたら、その忠告をふと思い出したんだよ。で、追い出されそうになって、もしかしたらと思って言ってみたらあの様子じゃん。マジで俺が一番ビビったって!」
自分の言ったことで、まさかあそこまでの反応になるとは思わなかったとヤス兄が少し青ざめたような表情で立ち上がった。
「という訳で俺は喉がカラカラなんだよ!」
「あ、ごめんごめん」
はは、と笑いヤス兄がドリンクバーへ行くのを阻んでいたことを謝る。
もう一度ドリンクを持って戻ってきたヤス兄は「お前は父さんからなんも聞いてなかったのか?」と座った。
「うん。俺は一回も聞いたことないと思う」
「そうか。マジでなんなんだよ【萩家】って」
「それもそうなんだけどさ、院長に何て言う?何も知らないって言ったら何かしらの処罰っぽかったけど。いやまず処罰って何?」
分からないことだらけの状態に、また分からないことが増え、頭がどうにかなりそうだ。
「まあ、でも……状況的に父さんは院長達と同じ力を持つ側の人で、すごい家系だった……?的な?」
「だよなぁ……俺もその可能性が一番高いと思ってる。あとマスターも力持ってる側の人間だったってことだな。あとはユキちゃんもその可能性が高い」
「そうだな……そもそも……」
「そもそも?」
ヤス兄も霊感があると分かった今、ユキの病院での話をしても今なら信じてもらえるんじゃ?
そう思い、思い出すように目を閉じた。




