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書いてみたかった記憶喪失ネタです。
本日3話同時公開です。
「私やっぱり、リード様じゃないとダメなの。どうしてお父様はクリス様との婚約を解消してくださらないのかしら。」
「そんなことを言ってはクリス・キーン殿が可哀想じゃないか。」
そんな会話をしながら男性の腕にしな垂れているのは、私の婚約者であるモーリー・サンナだ。そして腕を掴まれながら妖艶な笑みを浮かべる男性はリード・サイン伯爵令息だ。
「はぁ、またなのか。」
これで何度目だろう。夜会のたびにエスコート役の私を置いてサイン伯爵令息の元へ行ってしまう。
そして人目を避けているのかそれとも注目されたいのか、わざわざ他の人たちはあまり寄り付かないバルコニーでの逢瀬に小さなため息が漏れてしまう。
『あら、またサイン伯爵令息とサンナ男爵令嬢よ。』
『サンナ男爵令嬢には婚約者がいなかったかしら?』
『確か、キーン子爵令息よね?』
『王宮で文官として勤めるほど堅実で硬派な方より爵位の高い妖艶な殿方のほうがよろしいのかしらねぇ。』
そんな話声がどこからともなく聞こえてくる。
今日はサンナ男爵もこの夜会に参加しているからそばを離れないと思っていたのだが。
考え事をしていると、真っ青な顔をしたサンナ男爵がやってくる。
「サンナ男爵、お久しぶりです。」
「お久しぶりにございます。クリス殿…噂には聞いていたのだが、まさか我が娘があの様な愚行を本当に仕出かしていたとは。なんとお詫びすればいいか。」
「良いのです。モーリー嬢の心を繋ぎ止めておけなかった私がいけないのでしょう。」
「いえ、そんなことはございません!こちらから願い出たことなのに申し訳がないのですが、どうか娘との婚約を破棄してくださいませ。」
「ですが、それではモーリー嬢の今後にも響きます。父に婚約は白紙とするように話を通してもよろしいでしょうか。」
サンナ男爵には泣きながら感謝された。
この婚約には政治的な絡みもないし、きっと噂は父上の耳にも入って入るだろう。簡単に了承されることが想像できた。
「そうと決まれば、帰りは私が娘を連れて帰ります。必要な手続きに関してはこちらでも進めて参りますので。」
「ありがとうございます。それでは私は先に失礼します。」
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父上とは簡単に話が進んだ。
やはり噂を聞いていたのか、特に理由も聞かずに
「お前にはいらぬ苦労をさせてしまったな。」と婚約解消を了承してくれた。
そうしてわたしとモーリー嬢の婚約は白紙に戻すこととなった。
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