第一王女の失敗
サンビタリアは勝ち誇った顔で半裸の少女たちの前に出ると、その中でニヤついている少女に向かって「ルッキリューナ」と声を上げた。すると、周囲の注目はサンビタリアと名を呼ばれたルッキリューナに集まり、エントランスホールに静寂が訪れる。
ルッキリューナは顔を上げてサンビタリアと目を合わすと立ち上がり、ニヤついた顔をニコニコとした作り笑いに変えた。
「ごきげんよう。サンビタリア様。私に何かご用でしょうか?」
「ご用? それ以外に何があると言うの? こっちに来なさい」
ルッキリューナは驚いた顔を見せ、周囲の目を気にする素振りをすると、前を隠すようなしぐさを見せる。
「申し訳ございません。私は今この様な姿なので、あまり目立った事はしたくないのですが」
「それなら今直ぐ服を着なさい」
「生憎ですけど、ここにいる皆さんと同じで、私の服は全て何者かによって盗まれてしまいました。代わりの服が無いのです」
申し訳なさそうに答えるルッキリューナは、そう言うと再び屈んでニコリと笑む。それを見てサンビタリアは頭に血が昇り、「ふざけないで!」と怒鳴り声を上げて言葉を続ける。
「ルッキリューナ! あなたがこの事件の犯人だって事は分かっているのよ!」
怒鳴り声はエントランスホール内に響き渡り、この場にいる全員が驚いて、騒めきが聞こえ出す。そんな中でルッキリューナは一瞬だけ含みのある笑みを見せたが、サンビタリアはそれに気付かない。怒りが優先されて冷静ではいられない。だけど、ミアだけは唯一それに気が付いていた。
(不味いのう。嫌な予感が当たっておる。これは多分あ奴の罠なのじゃ。さて、どうしたものか……)
ミアはあれだけ嫌がらせで被害を受けていたのに、それでもサンビタリアの事を考えていた。でも、だからと言って行動に移せるわけでは無い。何故なら、ここには大勢の者達がいて、ミアの正体を知らない者ばかりだからだ。今この場でルッキリューナが犯人で間違いないと言っても、それを証明する為のものはルッキリューナから流れる魔力の残留だけ。そんなもの説明なんて出来るわけがないので、今のミアにはどうする事も出来なかった。
「あなたの魔装は敵の装備を消す力を持っているわ! この事件の犯人が使った魔装はそれよ! そうやって被害者の中に入っていれば、犯人と思われないとでも思ったのかしら?」
サンビタリアが勝ちを確信した顔で高らかに声を上げたが、ルッキリューナはニヤリと笑む。
「サンビタリア様。確かに私の魔装【大脱装】にはそう言う能力があります。でも、それはあくまでも武器だけです。それに、証拠も無いのにそんな事を言うなんて酷いではないですか」
「武器だけ……? それに証拠ですって? 幼稚舎でも同じ事件が起きて私はあなたの魔装を見たわ! 名前通りのあの丸い魔装をね! それが何よりの証拠よ!」
「私の魔装を? そんな筈はございません。だって、私の魔装はここにあるのですから」
ルッキリューナが魔装を出現させて宙に浮かせる。しかし、それはサイコロのように綺麗な正六面体。幼稚舎で見た丸い魔装では無かった。それを見て、サンビタリアは驚き、目を見張って動きを止めた。しかし、ミアには分かる。そこから出る魔力の残留が同じものであると。だけど、それはあくまでもミアだけ。この場にいるミア以外の誰も分からない。
「サンビタリア様。お分かり頂けましたか? 私の魔装は名前通りでは無い四角の形のものです」
「そんな……嘘よ。こんなのデタラメよ! 現に私はあの魔装の記憶をよみ取って、映像を見たのよ! こんな風に!」
サンビタリアが自分の魔装を出現させて、この場に幼稚舎で見た映像を流す。これはこの魔装に録画能力が備わっているから出来る事なのだが、今はそれが良くなかった。何故なら、それが映したのは少女の服が消える瞬間で、結果は最悪の展開だ。この場にまるで盗撮でもしていたかのような映像が流れてしまったのだから。しかし、そのミスにサンビタリアは気づけない。
「どう? これが証拠よ。あなたの魔装の記憶を読み取ったのよ!」
周囲が騒めき、ルッキリューナは今度はしっかりとした笑みを浮かべた。
「サンビタリア様。お忘れになったのですか? 貴女様の魔装は物質の記憶を見る力。魔装は登録を済ませば体の一部のようなもの。物質ではなくなります。貴女様の魔装では、私の魔装の記憶を見る事なんて出来ないのです」
「――――っ!」
ルッキリューナの指摘は当たっていた。サンビタリアは初歩的なミスをしていたのだ。クレラに見放され、焦りに焦ったサンビタリアが焦りのあまりに忘れてしまっていた。サンビタリアはそんな簡単な事も気がつかなかった自分に驚き、悔しさで顔を歪ませた。そしてこの時、ミアはスミレが言っていた本当の理由に気がついた。
スミレがあの時言っていた“役に立たない”と言う言葉は、つまりはそう言う事だったのだ。だからこそ、記憶の映像を流した時のスミレの反応が鈍かった。何故使えたのかと疑問に思っていたから。
「少女を脱がせて盗撮し、今ここで魔装を出した事でハッキリと分かりました。サンビタリア様。犯人は貴女様だったのですね」
ルッキリューナの笑みが不気味にサンビタリアを捉える。周囲の騒めきは動揺を帯び、そして、サンビタリアへの疑いの視線で溢れだした。
「違うわ! 私は――」
「最低」
「――っ」
騒めきは次第に大きくなり、非難の声へと変わっていく。
「信じていましたのに」
「王族だから何やっても許されると思ってんのかよ」
「サンビタリア様。酷いですわ」
「とんだ変態女だな」
「盗撮が趣味だったなんて」
止まらない。止められない。ここがもしチェラズスフロウレスであれば、きっと騎士達が止めに入っただろう。だが、ここはチェラズスフロウレス寮であっても天翼学園の敷地内で、王族の権威など役には立たない場所。
サンビタリアは学生たちの蔑むような視線と非難を浴び、恐怖で体を震わせた。




