集められた被害者たち
「ミア! 大変です!」
サンビタリアが何の情報も得られず、悔しそうに顔を俯かせた直後。ネモフィラが慌てながら現れた。
「フィーラ? どうしたのじゃ? 随分と慌てておるようじゃな」
「大変なのです! わたくし達の寮内でもここと同じ事が、服が消えてしまう事件が次々に起きたのです!」
「なんじゃと? む? フィーラ。お主、もしや……」
「はい。わたくしも服が消えてしまって、着替え直しています」
ネモフィラが答えた通り、身につけていたのは先程とは別の服だった。そして、これは予定にはなかったのだろう。サンビタリアが驚いた。
「ネモフィラ、どう言う事? 説明なさい」
「お姉様……? なんでここにいらっしゃるのですか? あ、いえ。今はそれどころではありませんね。どうやら、魔力に反応するようなのです。寮に帰って魔法の練習をしようとして、わたくしとミントの服が消えてしまいました。それに、幼稚舎だけでなく児童舎でも同じ事が起きているようです。お兄様が児童舎で被害に会った子を侍従たちに任せて、児童部の先生方と対応に追われています。無事な子は寮に帰って来たのですが、わたくしやミントと同じように何人かが服が消える被害にあっています」
「ぬぬう。随分と大事になってきておるのう。スミレ先生、ワシは一旦寮に戻るのじゃ」
「え? あ。分かったなの。私はここに残ってもう少し調べてみるなのよ」
何故か少し反応の遅れたスミレだったが、ミアはとくに気にせずに寮へと戻る。それから、チェラズスフロウレス寮で事件が起こるのは予定に無かった事で、サンビタリアはこの事態に焦ってミア達と一緒に寮に戻った。
「フィーラ。これは大事どころの騒ぎではないのじゃ」
「は、はい。わたくしがミアを呼びに行った時よりも、大変な事になっています」
寮まで戻って来ると想像以上に大変な事になっていて、ミアだけでなくネモフィラまで驚いた。寮のエントランスホールは体育館くらい広いのだが、その広いエントランスホールが見渡せないくらいに人が集まっていたのだ。そしてここにいるのは児童部試用入園中の子供だけではない。学園に通う寮内の生徒まで集まっていて、二つのグループに別れていた。
入って直ぐ左側には、縄で縛られた少年たちが床に転がされていて、それを囲むように魔装を構えた少女たち。入って直ぐ右側には、肌着や下着姿だけの少女たちが床の上で怯えるように震えて座っていて、護るように服を着た少女たちが囲っている。そして、服を着ている集団の中にはリベイアの姿もあった。
リベイアはミア達が来た事に気が付くと、ホッとしたような表情を見せて、近くにいた少女に何か一言話してやって来る。
「ネモフィラ様。ミア様。お待ちしていました。それに、サンビタリア様も来て頂いてありがとうございます」
「リベイア。何があったのです? さっきまではこの様な事にはなっていませんでしたのに。それに、学園の生徒たちもいるようですけど……」
「実は、児童舎と幼稚舎だけでなく、学園でも事件が起きたそうなのです。学園も授業をやめて、生徒を寮に避難させようとなったそうです」
「この人数はそれが理由だったのですね」
「でも、寮内ではここ以外の場所で魔力を使うと服が消えてしまうようなのです。それに、大量に衣服を盗まれる事件も同時に起きてしまいました」
「盗難事件まで起きたのですか!?」
「はい。だから、従者がいなくて身を護る手段が無い子や、心細いと感じている子たちを集めたんです」
「そうなのですね。それでこんなにもここに人が集まっていて、リベイアたちが護っていてくれたのですね」
「側にいてあげる事しか出来ないですけど……」
「一つ確認なのじゃが、何故男子たちも集められておるのじゃ? しかも、全員服を着ておるではないか」
「それは男子だけが魔力を使っても服が消えないからなのです」
「なんじゃと? 本当なのじゃ?」
「はい。それで話し合いの結果、男子の中に犯人がいるかもしれないとなりました。それで、アリバイのある者だけが集められています」
「と言うと、無い者は別の場所におるのかのう? にしても、女子たちの男子を見る目が怖いのじゃ」
「アリバイがあると言っても、まだ疑う者はいるのです。だから、疑っている者が代表して男子を囲って警戒しています。アリバイの無い者はミア様の言う通りであれば良かったのですけど……」
「む? 違うのかのう?」
「はい。アリバイの無い者は逃げ出してしまったのです。だから、服が無事な者が捕まえに行っています」
まさかの逃亡にミアは冷や汗を流し、ネモフィラが「分かりました」と声を上げて口角を上げる。
「でしたら、その逃げ出した方が犯人なのですね」
「それが……逃げ出した男子は全部で十名以上もいるのです」
「え……? じゅ、十名以上ですか?」
「はい」
リベイアが頷くと、ネモフィラは肩を落とした。十名以上だなんて、流石にその人数が犯人だとは思えない。どう考えても無理がある。もしこの中に犯人がいたとしても、これでは誰か分からないのは明らかだった。
「なんでそんなにも逃げ出したのですか……?」
「分かりません……」
(痴漢冤罪で逃げ出す男の心理じゃろうなあ。しかし、わざわざ少年と半裸の少女を同じ場所にさせんでもええと思うのじゃが。まあ、ここにおるのは全員子供のようじゃし、そこまで考えておらんのかもしれぬのう。思っても言えぬ者もおるじゃろうし)
「あの子……よくも…………」
不意に聞こえたサンビタリアの恨みの籠った声。それは周囲に聞こえない程に小さな声だったが、ミアの耳には届いた。
ミアは驚きつつも気付かれないようにサンビタリアの視線の先に目を向ける。すると、そこには下着姿の女生徒がいた。その女生徒は他の被害者の少女たちと一緒にいて俯いてはいるが、唯一口角を上げてニヤニヤと笑みを浮かべていた。そして、その視線は周囲にいた児童部の少女たちの体に向けられている。
(ふむ。状況はよう分からんが、あの娘からあの魔装の残留魔力が漏れておるのう。さて、どうしたものか。この様子じゃと、サンビタリア殿下はまたしでかした事になるのう。ぬぬう。……少し様子を見てみるのじゃ)




