意外な協力者
「どうしたなの?」
スミレが慌てて心配し乍ら泣き出した少女に近づくと、少女は涙をぽろぽろと流しながら顔を上げた。
「魔法を使おうとしたら、大事な服が消えちゃったの」
「消えちゃったなの……?」
スミレは驚いて周囲を見回す。するとそこで、ミアが「スミレ先生」と名前を呼びながら腕を引っ張って、スミレの顔がミアの顔に近づく。そして、ミアはスミレの耳元で周囲に聞こえないように話しだした。
「その子から魔装の残留魔力を感じるのじゃ。恐らく何者かの攻撃を受けて服を消されたのじゃ」
「――っ。ミアちゃんはそんな事まで分かるなの……?」
スミレは驚いて小さな声で聞き返す。すると、ミアが首を傾げた。
「魔装を使えるのであれば、誰でも分かるのではないのか?」
「そんなわけないなのよ。魔装を使用した時に残る魔力なんて、よっぽど優れた者しか分からないなの」
「……し、知らなかったのじゃ。ジェティはそんな事一言も言っておらんかったのじゃ」
「ジェティ? ああ。ジェンティーレなの。そう言えば、ミアちゃんはジェンティーレとお友達だったなのよ。きっと言う必要が無いと判断したなのね」
スミレはため息を吐き出してから首を振る。それから直ぐに天翼会の制服を一枚脱いで、半裸の少女にそれを羽織らせてあげた。だけど、これで少女の対応が終わりと言うわけにもいかないし、このまま魔法の授業をするわけにもいかなくなった。
直ぐに少女の従者を呼んで預けて、他の子供たちも一緒にそれぞれの従者に預ける。だから、この日はこれでお終い。子供たちは寮内で待機だ。試用入園は二日目にして最悪の結果になってしまった。
「スミレ先生はこれから犯人捜しをするのかのう?」
「そうなの。みんなが安心して幼稚舎に通えるようにしなきゃなの……って、あれ? ミアちゃんは帰らなかったなの?」
「うむ。ちょいと気になってのう。ワシも手伝うのじゃ」
「ええっと……」
スミレは困惑しながら周囲を見回す。ここに残っているのはミアとスミレとミアの侍従だけ。ネモフィラはミントと一緒に寮に帰って行ったので、他には誰もいなかった。今朝報告を受けた聖女の秘密を知る者だけだ。それを確認すると、スミレは少しホッとした表情をしてから微笑する。
「聖女に手伝って貰えるなら私も助かるなの。お願いしていいなの?」
「うむ。それでさっき話しておった魔装の残留魔力なのじゃが……」
呟きながら、ミアは先程被害にあった少女が立っていた場所まで歩いて行く。そして、その近くにあった荷物入れの棚に視線を向けた。
「ミミミ」
この場に現れると、ミミミが「ぶー」と鳴きながら宙を舞う。
「話はジェンティーレから聞いていたけど、それがミアちゃんの魔装なのね。可愛いなの」
「おお。お主にも分かるのか? うむうむ。ミミミは可愛いのじゃ」
ミアとスミレがミミミに微笑んで撫で始めて、ミアの侍従のクリマーテも微笑んだけど、ルニィとヒルグラッセは冷や汗を流した。
「こほん。ミアお嬢様、犯人捜しをするのでは?」
「っ。そ、そうなのじゃ。ミミミが可愛すぎて、つい愛でてしまったのじゃ」
「危なかったなの。私もつい愛でてしまったなの。ミアちゃんの侍従がいなければ即死だったなの」
何が即死なのか分からないが、スミレの言葉にミアが「うむ」と頷いて、二人は出てもいない額の汗を腕で拭った。そんな二人を見てルニィが何か言いたそうな顔になり、クリマーテが笑いを堪えて、ヒルグラッセは冷や汗を追加する。すると、そんな時だった。
「あら? やっぱりいたのね。ミア」
不意に聞こえた高慢な声。振り向けば、扉の前にサンビタリアが立っていて、その背後には側近のツェーデンの姿もあった。
「聞いたわよ。ここで子供の服が消失する事件が起きたのでしょう? どうせ目立ちたがりのあなたの事だから、事件を解決して手柄を立てようとしていると思って来てみたのよ」
「手柄云々は置いておくとして、ワシは寧ろ目立ちたくないのじゃが」
「ふん。どうだか」
ミアが苦笑して答えると、サンビタリアはミアを睨みつける。その様子や昨日の第一職員室での出来事で、二人の関係をだいたい察したスミレは困惑し、二人の侍従に視線を向けた。だけど、それは意味が無い。
聖女に対してのサンビタリアの態度は良くないと思って視線を向けたけど、二人の侍従は慣れたもので無反応だ。唯一ルニィだけが首を横に振っただけで、侍従は干渉しない雰囲気だった。そしてそれは本来であれば問題になるところだけど、聖女であるミアの昨日の言動やらを考慮すれば、これがミアの望んだ事だとも考えられる。そんなわけで、スミレも横から口を出す事はせず、一先ずは黙っておく事にした。
「まあいいわ。この事件は私もスミレ先生に協力します」
「……え? ええっと……手伝ってくれるのは嬉しいけど、サンビタリアは他のクラスの授業があるし忙しい筈なの」
「ふふふ。遠慮はいりません。仮とは言え、可愛い生徒たちが危険に晒されているのです。私の授業はクレラ先生に相談して何とかしていますから、ご心配なさらないで下さい。きっと、ミアよりも役に立ってみせますわ」
「そ、そうなの……。そう言う事なら手伝ってもらうなの」
と言いつつも、先に手伝うと言ってくれたミアに視線を向ける。と言うか、ミアより役に立つとか、聖女に対して失礼すぎてスミレは本気で困惑してしまう。だけど、ミアは全く気にしない。
スミレの視線に気がつくと、ミアはなんの曇りも無い笑顔を見せた。
「うむうむ。人数が多い方が心強いのじゃ」
スミレはサンビタリアよりよっぽどしっかりとしていそうなミアにホッとした反面、二人の複雑そうな関係にドッと疲れて肩を落とした。




