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魔法の授業

 深夜の幼稚舎に一人の影。謎の人物が侵入し、その者は幼稚舎に何かを仕掛けていた。


「うへへへ。うへへへへ。うへうへうへへ」


 謎の人物は気持ちの悪い笑みを浮かべて、黙々と何かを幼稚舎内に設置する。そしてそれが終わると額の汗を腕で拭って、下卑た笑みを浮かべた。


「これで準備は万端ね。後は私の魔装ウェポンが上手く発動してくれれば、最高のパラダイスが始まるわ」


 謎の人物はそう言うと周囲を見回して誰もいない事を確認すると、侵入した形跡けいせきを残さぬように注意しながら幼稚舎を出て行った。そして、この場には謎の人物の魔装ウェポンだけが怪し気に残ったのだった。




◇◇◇




 天翼学園児童部幼稚園組では絵本を読んだり外で遊んだりとお遊戯が基本で勉強はしない。だけど、一つだけ子供達に課題が与えられる。それは、お披露目会を迎えて使える様になった魔法の精度を高める事。もちろん魔法の得意不得意やら個人差、それから使える属性が何かによって用途が変わってくるので、全員が全員完璧にこなす必要は無い。それに期間もたったの三ヶ月なので、結果を得られなくても何かがあるわけでも無い。

 結局のところ、これは試用入園であり、ただのお試し期間なのだ。この年齢の子供達がどれ程の速さで成長してくれるか、そして、教員たちがしっかりと教えていけるかの確認なのである。


「みんなー! おはようございますなのよ~!」

「「「おはよーございます! スミレ先生ー!」」」

「うっはああ。良い返事なのよ。みんないい子なの~」


 児童部試用入園の二日目の朝。燃えているような揺らめきを持つ真っ赤な髪と白目の部分が真っ黒なのが特徴なスミレの最初の授業が始まった。


「ママやパパから聞いてると思うけど、幼稚園組のみんなには魔法を上手にコントロール出来るようになってもらうなの。だから、この三ヶ月で魔法の練習をするなの」


 スミレがそう言うと、子供達はワクワクした顔で騒ぎ出す。実に元気だ。と言っても、貴族の子が殆どだし、ましてや王族の子もいる。それに元々大人しい子もいるのだ。みんながみんな騒いでいるわけではなく、静かにスミレの話を聞いている子もたくさんいた。

 因みに、ミアとネモフィラは既にお城で実技の授業で習っているので、とくに騒いではいなかった。だけど、二人の側にいるミントは別だ。ミントはメグナット公爵家のご令嬢であり貴族だが、二人と違って勉強なんてしていない。だから、他の子供達同様に目を輝かせていた。


「まずは先生がお手本を見せてあげるなの」


 スミレが片手を前に伸ばし、目の前に赤色の魔法陣を展開して浮かばせる。そして、小さく「フレイムハンド」と呟いて、魔法陣から手の形をした炎を出現させた。それを見て子供達が目を輝かせたが、それは魔法を見るのが初めてだからなわけではない。

 この世界では魔法は当たり前に大人達が使っているので、魔法自体は珍しいものではない。だけど、今の子供たちはワクワクが止まらないのだ。


「これはフレイムハンドと言って、熱い物を代わりに持つ時に使う物なの」


 と言っているが、本当はそんな事には使わない。だいたいが拷問ごうもん用に使われる幼児たちに見せちゃいけないような危険な魔法である。しかし、このスミレは本当に拷問用には使っていないのだろう。説明した時に見せた顔はドヤ顔である。そして証明する為に実践する。

 あらかじめ用意しておいた一目で分かる程のあっつあつのお湯が入った紙コップを、魔法で掴んで子供達に見せたのだ。それを見て子供達は驚いて目を輝かせた。


「今から皆に覚えてほしいのは、こう言う生活の役に立つ魔法なの。三ヶ月後お家に帰った時に、みんなでママとパパを驚かしちゃおうなの」


 子供たちがパアッと花を咲かせたような笑顔になり、ワクワクとした表情になる。みんなが親を驚かせたいとやる気を出して、スミレもそんな子供達を見てニッコニコだ。魔法の練習開始である。

 子供たちは各国でグループになって、楽しそうに魔法の練習を開始した。でも、ミントは輝かせていた目を曇らせてしまう。


「私にも出来るでしょうか…………」


 ミントが自信なさそうにして呟きうつむくと、ネモフィラが笑顔を向けた。


「きっと出来ますよ。ね? ミア」

「うむ。一緒に頑張るのじゃ」

「一緒に……」


 ミントは顔を上げてミアの顔を見る。ミアはニコニコの笑顔をしていて、嘘をついているようには見えなかった。だからだろう。王族に失礼なミアに対する嫌悪感が少し和らいで、ミントは少しだけ口角を上げた。


「……うん。頑張ります。それに、これで良い成績がとれたら……もしかしたら、魔装ウェポンが貰えるかもしれないって聞きました」

「え!? それは本当ですか!?」


 良い成績なら魔装ウェポンが貰えるなんて初耳で、王族のネモフィラでも知らない情報だったので驚いて尋ねると、ミントは「はい」と頷いた。


「昨日の夜に寮内で噂になっていました。あ。で、でも……寮内と言っても、私の寮室の中だけですけど…………」

「ミントはわたくしやミアと違って、他の試用入園の方と一緒の四人部屋ですよね。他の方達が言っていたのですか?」

「は、はい。ルッキリューナ様が言っていたと教えて貰いました」

「ルッキリューナ……。確かサンビタリアお姉様の派閥の方ですね」

「知っておるのか?」

「はい。何度かお会いした事があるのです。ルッキリューナはロンコーリ子爵の息女で、十四歳で現役の天翼学園の生徒です」

「なるほどのう。でも、何故一般の生徒が魔装ウェポンを貰えると言う情報を――」

「やああああああああああ!」

「――なんじゃあ!?」


 突然聞こえた少女の悲鳴。ミアだけでなく、この場にいる全員が驚いて、悲鳴が聞こえた方へと視線を向けた。するとそこには、肌着と下着とくつしただけの姿の少女が立っていた。そして少女は目に涙をじわじわと溜めて、屈んで丸くなる。


「パパが誕生日に買ってくれた服が消えちゃったよお! うわああああん!」


 少女が泣き叫び、楽しかった雰囲気は一気に消し飛んでしまった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これまでに見た通常の火の玉と光のショット以外のこの魔法のデモンストレーションが気に入っています。 本当に恐ろしい目的ですが、人間が恐ろしくできないことはほとんどありませんね。 この他の使用…
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