家族同然な主従関係
夕食を食べてお風呂に入り寝間着に着替えたミアは、ベッドの上でごろんとだらしなく寝転がっていた。いつもであればルニィが注意するけど、今は食事休憩をしていてこの場にいない。クリマーテは基本何も言わないし、ヒルグラッセも無言で立っているだけなので、寝間着を着崩して自由にだらだらしていた。その姿は聖女とは程遠く、寝転がったままグッと背伸びして、大股を開けてだらしなく大きなあくびをする。
「う~む。どうやって引きこもりしようかのう。悩みどころなのじゃ」
「以前言っていた引きこもりのお話ですか?」
「うむ。これは崇高な未来の前哨戦じゃからな」
「お部屋の中に閉じこもるだけじゃ駄目なんですか?」
「もちろんなのじゃ。ワシの目指す引きこもりは、自給自足で誰にも邪魔されないストレスフリーの環境なのじゃ」
「引きこもりなのに自給自足なんですか? 私たち侍従がいますし、全部任せて下さればいいじゃないですか」
立場を考えれば間違いなく正解な答えだが、ミアはそう思わない。ヒルグラッセが首を縦に振ったが、ミアは首を横に振った。
「それでは駄目なのじゃ」
「何故ですか?」
「甘えてばかりおっては、ワシは何も出来ない一人では生きていけない駄目な大人になってしまうのじゃ。仮にお主等が何らかの理由でいなくなってみよ。何も出来ないワシは生きていけなくなるのじゃ。だから、自給自足は引きこもり計画の絶対条件なのじゃ」
「確かに私たちがいなくなったら、それまで任せっきりの生活をしていては何も出来ませんね」
「ミア様なら代わりの侍従が用意されるだけなので、何も心配いらないのでは?」
「「…………」」
ヒルグラッセの意見で目が点になってミアとクリマーテが口を閉じて視線を向ける。そして、少しの間だけ沈黙が続くと、ミアは上半身を起こして窓の外を眺めた。
「星空が綺麗なのじゃ」
「ミア様、良かったですね。何もしなくて良さそうですよ?」
「ぬ、ぬぬう。でも、それでは一人の時間が作れぬではないか。ワシはもっと誰の目も気にせず暮らしたいのじゃ」
本音である。と言うか、元々引きこもり計画は一人暮らしでするつもりだったので、痛いところを突かれてしまいミアは心底へこんだ。まあ、顔には出さない……ちょっと出てるけども。
「ふふふ。では、こうやってだらしなくしているのは私達を認めてくれたと思って良いのですね」
「む? ううむ。そうじゃな。クリマさんとグラッセさんはもう家族みたいなものなのじゃ。一緒にいると落ち着くのじゃ」
「――っ。ミアお嬢様……ぅう。どんなお褒めの言葉よりも嬉しいです」
家族みたいだと言われたのが嬉しくて、クリマーテは目を潤ませて喜んだ。それはヒルグラッセも同じで、表情は変えていなかったけど犬尻尾が勢いよく揺れている。だけど、クリマーテは直ぐに少し悲しそうな顔をした。
「ルニィはそうでは無いのですか?」
「もちろんルニィさんも家族みたいに思っておるのじゃ」
「ふふふ。良かったです」
クリマーテはルニィと仲が良いので、ルニィも同じように思ってくれている事に喜び笑顔になる。でも、そんなクリマーテにミアは少し言い辛そうな顔で目を逸らした。
「でも……」
「でも……?」
「ほれ。ルニィさんはワシの母上と似ておると言った事があるじゃろう? 本当にあの口煩い感じが瓜二つなのじゃ」
「そんなにお母様はルニィと似ていらっしゃるんですか?」
「めちゃくちゃ似ておる。怖い目で睨んで叱ってくるところなんかそっくりじゃ。母上もよくワシに言っておった。座る時はスカートが捲れて下着が見えるから股を閉じろだとか、スカートで木の上に登るなだとか、言いだしたらきりがないのじゃ。本当に一々細かくて煩いのじゃ。風呂上がりに裸でコーヒー牛乳を飲んでいたら怒られた時もあったのじゃ。あれはスッポンポンで飲むからこそ美味いのじゃ! これは男女差別なのじゃ!」
「すっぽんぽん……っぷく」
スッポンポン発言に笑いがこみ上げ、口元を押さえて笑いを堪えるクリマーテ。この場にいない母親に抗議するミアを見て、ヒルグラッセは冷や汗を流した。
「男女差別は関係ないかと」
「――っ!」
不意に聞こえたルニィの声。いつの間にやら帰って来ていたルニィが眉根を吊り上げてミアを見つめ、ミアは「ひえっ」と顔を真っ青にさせた。
「ミアお嬢様、ここではその様なはしたない行動は絶対になさらないで下さい」
「う、うむ。それよりルニィさんはいつから聞いておったのじゃ……?」
「私がミアお嬢様のお母様に似ていると言っていたところです。口煩い所がとてもよく似ているそうですね」
「なんでもう少し前の方から聞いて無いのじゃ!?」
「仰っている意味は分かりかねますが、ご期待にお答えしたいと存じます」
「ひぃっ。しなくていいのじゃ」
今のミアは大股開けてベッドに座っている状態で、部屋着もだらしない感じになっていて、最早言い逃れが出来ない状況。慌てて姿勢を正すがもう遅い。ルニィの説教が開始され、一緒にクリマーテも怒られる。ヒルグラッセは「誰かに見られたら不味いので」と言って、部屋から逃げるように外に出て見張りした。
(ワシは間違っていたのじゃ。ルニィさんは母上と違って怒鳴らず静かに怒るから、ある意味では母上より怖いのじゃ)
「ミアお嬢様。今の聞いていましたか?」
「ひぃっ。聞いていたのじゃあ!」
「ねえ? ルニィ。私は何で怒られてるの?」
「ここはお城ではないのよ。今の時間は突然部屋にお客様がいらっしゃる可能性があるから、貴女も注意しないといけないからでしょう?」
「あ、あははは」
「笑って誤魔化さない」
「はい……」
「はっはっはっ。クリマさんも失敗する時があるのじゃなあ」
「ミアお嬢様もですよ。と言いますか、誰のせいだと思っているのですか?」
「ごめんなさいなのじゃ……」
侍従たちを家族で例えるなら、口煩いルニィが母親で、一緒に怒られちゃうクリマーテが父親で、逃げるヒルグラッセが兄だろうか。ミアにとって侍従たちは、まさに本当の家族のような関係になっていた。尚、ルニィがここまで口煩くなったのは、アホなミアが想像を絶するダメダメだからである。頑張れルニィ。




