悪目立ち代表国
天翼学園児童部試用入園は幼稚舎と児童舎に別れてそれぞれが通う事になるのだが、入園式は児童舎で一緒に行われる。そして、児童舎に辿り着いた頃には、既に入園式が始まっていた。だけど、原因がチェラズスフロウレス寮の寮長であるジャスミンなのでお咎めは無し。しかし、間違いなく目立っていて注目を集めていた。それもあって、チェラズスフロウレスの子供達は居心地悪そうに入園式に参加した。
「では、次にこれから三ヶ月の短い間に、君達の先生となる者を紹介する」
児童部の先生達が順番に自己紹介を始める。そしてその先生たちの中にはジャスミンも入っていて、ジャスミン以外の各国の寮の責任者達も先生として自己紹介していく。その中には、ジャスミンを叱っていたトンちゃんと呼ばれた精霊も入っていた。
「ボクはトンペット=ドゥーウィンって名前ッス。風の精霊で、児童部幼稚舎の園長ッス。基本は一番下の五歳の子と関わっていく事になるのでよろしくッス」
(ほうほう。あのちんまくて可愛い精霊が園長先生なのじゃなあ。幼稚舎も悪くないかもしれぬのう)
ミアはご満悦である。他にもリリィがいつの間にか入園式に参加していて、自己紹介の最後の方で名前と自分が児童部全体の最高責任者だと話していた。とまあ、そんな感じで児童部の先生は各国の寮から天翼会のメンバーが二人ずつ選ばれている様で、全員が各寮と関わりのある者だった。ただ、例外が一人だけいた。そしてその人物はミアのよく知る人物だった。
「はい皆さん初めまして。私はチェラズスフロウレスの保険医兼学園本校舎の保険医をしているジェンティーレです。今回児童部のテストをすると言う事で、代表して児童部の校舎の保険医を三ヶ月の間する事になったのでよろしくね」
(あ。ジェティなのじゃ。なんじゃ。奴が保険の先生なんじゃなあ。美人先生を期待しておったのに、ちょっと残念じゃ)
などとミアが失礼な事を考えているが、ジェンティーレも同種族のドワーフ達からは、ドワーフにしては珍しい百四十八センチと言う高い身長で憧れの的である。そんな憧れの的は相変わらず棒の付いた飴を銜えていた。
ミアはそんなジェンティーレにジト目を向け、ジェンティーレがそれに気がついてニッコリ笑って手を振る。手を振れば周囲も何人か不思議に思って視線を移すので、ミアは知り合いだと思われたくなくて目を逸らした。
全員の自己紹介が終わると入園式の話が再開されて閉会の時間になる。最後はこの後の移動先の説明を受けて閉会となった。
「途中からの参加でしたから、あっという間に終わってしまいましたね」
「うむ。得した気分なのじゃ」
「ふふふ。わたくしは周囲の視線が気になってしまって、話が半分くらい入ってきませんでした」
「大丈夫じゃ。ワシは聞いておったけど、聞いた事を既に覚えてないのじゃ」
「えええ!?」
ネモフィラがミアのアホな発言に驚いて、直ぐに破顔してクスクスと笑う。するとそこで、背後からルニィとネモフィラの侍従ルティアがやって来た。
ルティアはミアとネモフィラが初めて出会ったダンデ村の雑木林で殺されていた侍従で、ネモフィラの侍従の侍女長である。特徴はメガネが似合うお姉さんと言ったところだろうか。
「ネモフィラ様、天翼学園の敷地内で護衛するにあたって、只今メイクー達が説明を受けに行っています」
「そうなのですね。ルティアはその説明を聞かなくても大丈夫なのですか?」
「はい。侍女長である私やルニィは事前にここに来て説明を受けていましたので」
「まあ。全然知りませんでした」
ネモフィラが驚いてミアに視線を向けると、ミアは首を横に振った。
「ワシも知らんかったのじゃ」
「我々の問題ですし、お伝えする必要はございませんので」
「私も同じです」
どうやら侍従たちの間では当たり前の事の様で、二人とも言わなくても当然といった顔である。ミアは「確かに言う必要もないのう」などと納得しているが、ネモフィラは知りたかったらしく、少し拗ねた顔で頬を膨らませた。だけど、それも直ぐに無くなる。何故なら、ミアと一緒に手を繋いで歩き始めたからだ。ネモフィラはとてもご機嫌な様子でニッコニコである。
そうして辿り着いた移動先は幼稚舎だ。幼稚舎は日本で言う田舎の幼稚園くらいの広さはある建物で、遊具もそれなりに揃っていた。そして、ミア達より先に来ていた子供達が、興味津々と遊具に触れていたり遊んでいたりしていた。
「みんな元気じゃのう」
などとお爺ちゃんみたいな事を言うミアの隣では、ネモフィラも少しうずうずしている。だけど、そこはやはり王族の教育を受けたしっかり者のネモフィラ。しっかりと飛び出したい気持ちを抑えて、気品ある態度で立っていた。と、そこで幼稚舎の中から一人の女性……炎のように揺らめく赤い髪を持つ女性が現れた。
「幼稚園組のみんなー! 挨拶するから集まってほしいなのー!」
(さっき自己紹介をしていた魔人なのじゃ。スミレ先生だったかのう? しかし、さっきも思ったが不思議じゃのう。目の白い所が真っ黒で、髪の毛が燃えておるのじゃ)
などと考え乍ら、ミアは流れるような自然な動作でいつの間にか離していたネモフィラの手をとって、まるでエスコートする様に歩き出そうとした。これは公の場で王女をエスコート無しで歩かせない為に、自然にミアがとった動作だったのだが、それがいけなかった。
友達同士のおて手繋いでとは訳が違う。ネモフィラに心の準備が無く、突然“王子さま”にそんな事をされたので感情が高まってしまった。手を繋いで一緒に歩くのと、エスコートされて歩くのでは別物なのだ。一緒だと思う者もいるだろうが、年頃の女の子を侮るなかれなのである。と言うわけで、ネモフィラは真っ赤になってグルグルと目を回し、ぶっ倒れてしまった。
「フィーラ!? どうしたのじゃ!? まさか、こんな所でも敵襲なのじゃ!?」
はい。いつものです。周囲は一瞬にして騒然とし、チェラズスフロウレスは入園早々に悪目立ちのオンパレードとなったのでした。




