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時間は守った方が良い

 天翼学園の校舎は、天使の翼を思わせる純白な建物で作られた学び舎である。上空から見れば綺麗な丸の形をしていて、中心に行くほど階数が増えていく。最上階には壁が無く柱だけで、鐘のある教会のように大きな鐘が備え付けられていて、景色を一望できるようになっている。敷地内には天使の羽をモチーフにした様々なオブジェクトや、管理が行き届いて整えられた幻想的な植物たち。学び舎の上空からは羽の形をした淡く白い光が無限に降り続いている。そしてそれは、何かに振れると光の粒子となって空気に溶け込むように消えていく。

 そんな不思議溢れる神秘的で幻想的なこの地は、学び舎を中心に様々な施設がまるで魔法陣を描くように建てられていた。魔法陣の模様はもちろん天使の羽を思わせるもの。と言っても、これは高い所から眺めなければ分からない事。しかし、それでもこれは学園に通う者からすれば周知の事実で、鐘のある学び舎の最上階から見渡す事が可能である。そして、建てられた施設の一番外側、魔法陣で言う円の外郭《がいかく》が各国の寮が建てられている場所である。

 さて、試用入園の為にやってきたミア達は、天翼会の大きなリボンを頭に付けた少女の案内で、その外郭部分にあるチェラズスフロウレス寮から外に出て来た所だった。


「みんな外に出たかなー!?」

「「「はーい!」」」


 外に出ると少女が大声で子供達に確認をして、返事を聞くと「うんうん」とニッコニコで頷く。そして、魔法でスピーカーを生成して口元にあてた。


「みんなのパパとママと従者の皆さんにはリリィ、あ。私と一緒にいたお姉さんから説明を受けてるから、後で入園式に来てもらいます。みんなは私と一緒に、これから児童部に行きます。質問ある人はいますかー? ある人は手を上げてねー」


 少女がそう言うと一人が手を上げて、少女に指をさされて「はい。どうぞ」と発言を促す。


「君って僕より年下みたいだけど、天翼会って子供でも入れるの?」

「あー。うん。そう言う質問もあると思ってたよぅ。そうだよねぇ。そう思っちゃうよねぇ」


 少女は呟くと、スピーカーを一度口元から離して「こほん」と咳払いしてから、再びスピーカーを口元に戻して姿勢を正す。そして、とても真面目なキリッとした表情を見せた。


「では、この後の全校生徒の前での挨拶がありますけど、その前に皆さんには自己紹介します。私はチェラズスフロウレス寮の寮長ジャスミン=イベリスです。天翼会での階級は副会長です。児童部の幼稚舎や児童舎で会う事は無いと思いますが、皆さんが将来正式に学園に入学すれば、寮だけでなく教室で顔を合わせる事になると思います。こう見えて年は皆さんよりも結構年上で大人なんですよ」

「と、年下って言ってごめんなさい」


 質問した子供が慌てて謝罪して、ジャスミンが「気にしなくていいよ」と柔らかく温かみのある微笑みを見せて、子供は安心した様子でホッと息を吐き出した。すると、忽《たちま》ち年齢の低い子供達が騒ぎ出す。


「ちっちゃいのに大人なんだー! すごーい!」

「りょーちょーだってー。かわいいねー」

「ぼく知ってる。えらい人なんだよー」


 貴族の子供と言えど、やはり子供は子供。それぞれの学年で三人までとは言え、ミアとネモフィラとランタナとリベイアの世代の他の子供はみんな普通に子供である。この四人が落ち着いているだけで、まとめるには一苦労なのだ。だけど、ジャスミンはそれを静めようとせず、微笑ましいものを見る視線を向けるだけ。このままでは一向に話が進まない。そんな時だった。


「何やってるッスか!? 遅刻するッスよ! ご主人!」


 怒鳴り声に近い大声を上げながら、手の平サイズの二頭身が翼を広げてやって来た。その姿は、昨日チェラズスフロウレス城にやって来た水の精霊に似ている様で似ていない姿の精霊。

 綺麗なエメラルドグリーンの髪で髪型はショートヘアー。ちょっとだけつり目で、綺麗なイエローの瞳。背中には翼があるが、それは鳥のようなものではなく、どちらかと言うと楕円形《だえんけい》。天翼会メンバーの制服を身につけていて、袖《そで》を巻《ま》くってプニプニの肌が見えていた。しかし、この精霊、何やら機嫌が悪い。


「あ、トンちゃん。見て見て。みんな可愛いよね」

「バカなんスか!? んな事言ってねえで早く児童舎に行くッスよ! 入園式まで十分《じゅっぷん》もないッスよ! って言うか、児童舎担当のラテはどこ行ったッスか!?」

「うぅ。そんなに怒んなくても良いのに。ラテちゃんはお昼寝で忙しいって……」

「バカなんスか!? ご主人も子供じゃないんだからウジウジしてんじゃないッスよ! チェラズスフロウレスの児童部の責任者はボクなんスよ! ご主人が案内をやりたいって言うから変わったのに、ご主人のせいで責任を取らされるのはボクなんッスよ!」

「うぅ……ごめんなさい。なんか楽しくなっちゃって、先に寮の中を案内してたの」

「このバカご主人! ふざけんじゃねえッス!」

「ぴえ……っ。ご、ごめんなじゃいぃぃ」

「すげええ! 精霊だああ!」

「初めて見た! かわいい! 男の子かなあ? 女の子かなあ?」

「ちがうよー! せーれーさんは、せいべつがないってお本でよんだもんー!」


 初めて見る精霊の登場で余計に騒ぐ子供たち。只者では無いと思っていたジャスミンの涙目謝罪。呆気にとられて隣で目と口を大きく開けているネモフィラとリベイア。冷や汗を流して若干引き気味のランタナ。それ等から視線をスッと逸らして空を見上げ、ミアは心の中で「なんかよく分からんがカオスなのじゃ」と呟いた。尚、移動が始まったのは、これから三十分も経った頃だった。完全に遅刻である。

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