始まる社交界
「ミア。ちょっといいか?」
「ハッカではないか。む? どうしたのじゃ?」
ユーリィやニリンやグラック、そしていつものように生徒のみの入場の為に侍従たちと別れ、社交界が行われる式場に入った後の事だ。
式場に入ると直ぐにハッカに呼び止められて、その顔を見て訝しむ。何故なら、その顔は真面目な表情をしていて、何かあったのかと疑いを持ちたくなる顔だったからだ。
そんな様子のハッカを見れば、正義馬鹿な彼女が何か厄介事を持って来たのではと警戒してしまうのがミアである。
「最近クロとアカとアオとアイの様子がおかしいんだ。四人に何かあったのか?」
「この間四人に頼んで水の国に行ったのじゃが、少々怖い思いをさせてしまったのじゃ。恐らくそれではないか?」
「水の国に……? 何故私を誘わなかったんだ?」
「……さ、誘う理由が無いのじゃ」
「誘えよ! 水の国は平民を差別している差別国家なんだぞ! 正義の鉄槌を水の国の王に食らわす絶好の機会なのに!」
(相変わらずじゃのう……)
などと思い乍ら、余計に誘わなくて良かったと思うミア。まあ、こんな私刑執行系女学生なんか連れて行けば、あの時の騒ぎ以上の騒ぎが起きていたとしてもおかしくは無い。連れて行かなくて正解だろう。
「と言うかクロ達の様子がおかしいと言ったのう? どうおかしいのじゃ?」
「何故か私を避けるんだよ」
「ふ、ふむ。気のせいではないのじゃ?」
「そんな筈無い。四人を鍛える為の特訓は続けてるけど、前まではあった会話が無いんだ」
「疲れておるだけではないのじゃ?」
「特訓に慣れてきて前より余裕があるのに?」
「む、むう……。一度ワシが会って話をして来るのじゃ。もしかしたらお主に不満があるのかもしれぬしのう」
「何? 不満だって?」
「どうせお主の事じゃ。正義正義と話してばかりで、四人の話を聞かなかったりしておるのじゃろう」
「失敬な。と言いたい所だけど、少し思い当たる節がある様な無い様な」
(あるんかい。なのじゃ)
半分冗談まじりに言ったのに、まさかの本人から出た肯定的な答え。ミアは呆れて冷や汗を流しすと、社交界の挨拶回りのついでに捜して何かあったのか聞いてみるとハッカに告げた。
そうしてハッカとの会話を終えて別れると、ミアはダンスを教えてあげた平民の同級生たちに会いに行く。少しして平民の同級生たちを見つけて近づくと、挨拶をする間も無く泣きつかれてしまった。
「ミアああ! 助けてええ!」
「きゅ、急にどうしたんじゃ?」
「前の社交界と違って先輩方のエスコートが無くて、もうどうしたらいいか分からないの!」
「俺も頭の中が真っ白で、このまま隅っこで丸くなりたい……」
「貴族の社交界なんて平民には荷が重すぎるのよお!」
「う、ううむ……」
(気持ちは分かるのじゃ)
前回の天翼学園主催の社交界では先輩たちがエスコートしてくれて何とかなった彼等彼女等も、それが無い今回は何ともならない。そんな雰囲気がひしひしと伝わってくる。
しかし、今後も同じように社交界が開かれる事を考えれば、そんな事は言っていられないのだ。これは自由参加では無く強制参加なのだから。
だけど、どうやって説得しようかとミアは考え、思いつく。
「そうじゃ。ワシの友人に平民が何人かおるのじゃが、お主等と一緒に踊ってもらうのじゃ」
「それってミアみたいな平民と見せかけた貴族じゃないの?」
「ありそう。ミアみたいな平民に変装した貴族が他にもいるなんて……」
「もう終わりだあ。きっと社交界が終わった後に陰でコソコソ平民が無理すんなって笑われちゃうんだあ」
「ええい! ワシを信じるのじゃ! と言うかワシは元々平民だったから貴族っぽく無くても仕方が無いのじゃ!」
うじうじで悲観的な思考に陥った同級生等に一喝して、ミアは平民の友人を探しに出る。
こんな形になってはしまったけれど、これは良い機会でもあった。何故なら、平民の友人と言うのがクロたちの事だからだ。元々後で捜しに行って様子を見るつもりでいたので、一石二鳥なのである。
「しかし、魔力を読み取れるとは言え、こうも人が多いと魔力で捜すのは魔力酔いしそうじゃ。素直に目で捜すのじゃ」
ミアは魔力を読み取れるので、クロたちの魔力を探って捜そうとも考えたけど、今この式場には全校生徒が集まっている。そんな場所では流石にきついようで、ミアは呟いて周囲を見回した。のだけど、それはそれで大変だった。
何故なら、ミアは六歳児で身長も低い。学園の生徒は全員が十一歳以上なので、当然ミアからしてみれば身長が高い者ばかりなのだ。周囲を見回した所で、場内を一望なんて出来ないのである。
ミアはやっぱり魔力で捜そうかと思い、諦めかけたその時だ。
「水の国で暴動を起こしておいて、よくも平然とした顔で私の前に出られたものだな? 成り上がりめ」
(げっ。面倒なのが出てきたのじゃ)
最悪の人物の登場。マイルソンである。
ミアから前に出たわけでは無い。態々後ろの方からミアの前に自分から現れて、マイルソンは見下すようにミアを睨みつけた。




