勝手に怒る無礼者
自分から現れて文句を言うマイルソン。ミアはそんな彼の態度に疲れを感じて肩を落とし、面倒臭そうに目を合わせた。
「何のようじゃ? ワシは今忙しいのじゃ」
「ふん。成り上がりが忙しい? さぞ貴族や王族へのご機嫌取りに忙しい事だろうな。くだらない忙しさだ」
(ぬう。本気で面倒なのじゃ。と言うか、いつもより増して面倒なのは何故じゃ?)
マイルソンの相手をするのは基本面倒だ。ミアを平民上がりの貴族だからと馬鹿にしているし、平民と仲の良い所を見れば鼻で笑ってくる始末。正直言って関わりたくないタイプの人種で、自分から話にいこうだなんて絶対に思わない。
だから、基本は接点があまりなく、向こうからこうして話しかけてくるなんて本来なら無い話だった。しかし、その理由は直ぐに分かった。
「ミアに失礼な事を言わないで」
背後から声が聞こえて振り向けば、そこにはアトラの姿。アトラは困った表情をマイルソンに向けていて、ミアが振り向くと目がかち合い、とても申し訳なさそうに「ごめんなさい」と謝罪して言葉を続ける。
「私がマイルソンにミアとお話がしたいと我が儘を言ったの」
「納得なのじゃ」
「何が納得だ。ベギュア様の許可を得ているから見逃してやっているだけだ。本来であればお前のような成り上がりを――」
「マイルソン」
「――っ。……くれぐれも無礼な真似はするなよ?」
(お主じゃないから大丈夫なのじゃ)
誰がどう見ても無礼なマイルソンはアトラの後ろに下がり、漸く面倒なのから解放される。しかし、マイルソンはアトラのお目付役を任されているのだろう。この場から去ろうとはせず、ミアを睨んで離さない。そんなマイルソンにミアは呆れ乍らも、一先ずは無視すると決めた。
「そう言えば、こうしてアトラと学園で会うのは初めてじゃのう」
「うん。あまり会う機会が無かった」
「アトラは二年生で先輩だからのう。学年ごとに校舎が違うのじゃ。廊下を歩いてすれ違う事も無いのじゃ」
「せっかくお友達になったのに会えなくて寂しかった」
「アトラは可愛えのう」
寂しいと言われて心がホッコリしたミアは、ついつい自分よりも年上で身長もあるアトラの頭を撫でてしまう。けど、アトラも嫌では無いらしい。少し照れた表情を見せ、嬉しそうにそれを受け入れた。
そんな微笑ましい二人の光景を、マイルソンがとんでもなく不服そうに眉尻を上げて睨みつける。そして、あろう事かアトラの頭を撫でるミアの手を掴み取り、振り払った。
「無礼者が! アトラ様は成り上がりのお前と違って本物の公爵家のご令嬢だ! 汚い手で触れるな!」
「乱暴者じゃのう。それに一々怒鳴るでない。ほれみよ。周りがこっちを見ておるのじゃ」
ミアは基本何を言われても面倒と思えば聞き流す。でも、今回は乱暴に手を掴まれて振り払われたし、怒鳴られてしまった事で周囲の視線を集めたので言い返してしまった。
すると、それが余程気に食わなかったのだろう。マイルソンは顔を真っ赤にして怒り、今度は乱暴にミアの肩を押した。その結果ミアは油断していたせいで後ろに倒れて尻餅をつき、目の前でそれを見たアトラが「きゃっ」と小さな悲鳴を上げる。様子を見ていた周囲も騒めきだし、ミアは本気で面倒な事になったとため息を吐き出したくなった。
そしてそんな中、その原因を作ったマイルソンは、ミアに指をさして周りの目も気にせず声を上げる。
「私は前々からお前が気に入らなかったんだ! 今みたいに自分の立場を上に見せて、そうやって王族や貴族を騙したのだろ!」
(言っている意味が分からぬのじゃ……)
ミアは冷静だった。冷静にこの場をどう落ち着かせるのが正解かを考えた。しかし、立場を上に見せてとか騙したとか言われても、そんな事をした覚えが無い。正直意味が分からない。今は騒ぎを起こしている場合でも無いし、注目を集めるのは好きじゃない。ミアは本気でどうしようかと悩み、そして、そんなミアの悩みなんてお構いなしにマイルソンの怒りは勝手に増していく。
「そんなに地位と名誉が欲しいのか? ミア=スカーレット=シダレ。だが、お前の野望もここで終わりだ! ベギュア様はお前を警戒している! ベギュア様にはお前に私から直接手を出すなと言われたが、もう我慢出来ん! ここで成り上がり風情のお前に貴族と平民の力の違いを教えてやる!」
「のじゃ?」
本当に人騒がせな少年である。マイルソンは勝手に怒り、魔装を取り出して構えた。ミアは困惑し、思わずにはいられない。
(勝手に怒るのは構わんのじゃが、一先ず社交界が終わってからにしてほしいのじゃ)
「仕方が無いのじゃ。ミミミ、戦闘モードに移行じゃ」
「大怪我するくらいは覚悟しろ! 成り上が――――」
殺気を放ち、ミアを殺そうかという勢いでマイルソンが襲いかかる。しかし、当然の事乍らに相手が悪い。襲いかかったマイルソンは、その途中で白目を剥いて床に転がったのだった。




