第三王女の捜査 後編
「しかし、変わったお嬢ちゃんだなあ。それとも他所の国の貴族様ってのは皆こうなのか?」
「だあ! おっちゃん! 何度言わせるんだよ! 貴族じゃなくて王女様だ! あと敬語使えよ! 失礼だろ!」
「もう勘弁してくれよお! ネモフィラ様が寛大なお心を持ってるから許されてるけど、無礼にも程があるよ!」
「うふふ。良いのですよ。クロ。アカ。わたくしは気にしません」
店のおっさん主人との自己紹介が終わり、店の中。店内には釣り具や魔道具が綺麗に並んでいて、魔道具も基本は釣りに関係している物ばかりだった。
そしてそんな釣り具が並ぶこの店内にて、おっさん主人の失礼な態度にクロとアカが顔を真っ青にさせて怒鳴っていた。とは言え、ネモフィラは本当に気にしていないし、侍従たちも主であるネモフィラの意見を尊重しているので責めたりしない。のだけど、ネモフィラや侍従たちが何も言わないのは、間違いなくミアの影響だ。
聖女であるミアが身分を気にせず誰にでも等しく話している。そんな姿をいつも見ているからこそ、自分たちもこうありたいと願い、行動しているのだ。と言っても、立場上はどうしても通さなければならない筋がある。全部が全部見て見ぬフリをするわけでは無い。クロとアカは気が付いていないようだけど、いき過ぎた無礼はさせないように、侍従たちは細心の注意は払っていた。それに、このおっさん主人は流石年の功と言うべきか、そこ等辺は弁えている。口では失礼な事を言っているように聞こえるけれど、所々にネモフィラへの態度に気遣いが見て取れていた。
「それでお目当ての物は水を蓄える事が出来る魔道具だったか?」
「はい。例えば、このお店を呑み込めるほどに大量の水をしまっておける物はございますか?」
「この店を呑み込むほどか……」
おっさん主人は呟くと、店内にあるセール商品が雑に置かれたカゴの中を漁り始める。
「しかし、何でまたそんなもんがほしいんだ?」
「犯人を見つけ出す手掛かりになるかもしれないのです」
「犯人……? まあ、よく分からねえが、こう言うのならあるぜ」
こう言うのと言って取り出したのは、野球ボールサイズの表面にブツブツの粒みたいな物がついた白い玉。それは初めて見る魔道具で、ネモフィラは興味津々に目を輝かせた。
「その中にお店を呑み込むほどの水が入るのですか?」
「ああ。その通りだ。こいつは片手で握れる程に小さいが、大量の水を吸収出来るんだぜ」
質問に答えると、おっさん主人がその魔道具をネモフィラに投げる。ネモフィラは慌ててそれを受け取ると、魔道具をマジマジと見つめた。
「とても柔らかいですね」
「おっちゃん。これってどうやって使うんだ?」
「そうだな。試しに使ってみるか。ついて来な」
おっさん主人は答えると店の外に出て行ったので、ネモフィラたちはそれを追った。
外に出ると、いつの間にか少し離れた先の川底の側面に近づいていたおっさん主人に呼ばれて、ネモフィラと侍従が駆け寄る。すると、クロとアカはおっさん主人が何か粗相をやらかさないかと心配し、胃を痛め始めた。
「こうして近づくと、まるで水の壁の様にも見えますね」
川底の側面を目の前にしてネモフィラが呟くと、おっさん主人が「しかも流れる壁の水だ」と笑みを見せる。そして、流れる壁の水に手を突っ込んで見せ、ニッと歯を見せた。
「どうだ? お嬢ちゃんも壁の水に手を突っ込んでみるか? これがまた意外と気持ちいいんだよ」
「はい! やります!」
若干興奮気味にネモフィラは答えて、念の為にとメイクーが体を支えて手を突っ込む。そして、ネモフィラは目を輝かせた。
「わあ。本当に気持ちが良いです。この壁は川の水で間違いありません」
「ハッハッハッ! 違いねえ。さて、お次はそいつの出番だ」
おっさん主人がそいつと指名したのは、ネモフィラがさっき渡されて持っている魔道具だ。ネモフィラが手を突っ込んでいない方の手に持つそれを肩の高さまで上げて見つめると、おっさん主人がそれを寄こせと手で催促し、ネモフィラはそれに従って渡す。すると、おっさん主人が「ありがとよ」とお礼を言って、魔道具を川の中へと突っ込んだ。
そして次の瞬間に驚く光景がネモフィラの目の前で広がった。
「川の水が!」
「どうだ? 不思議で凄いだろ? 直ぐに壊れちまうのが欠点で今の時代では使われていないが、こいつは砂漠地帯に行く時には必須の冒険道具だったんだぜ。お嬢ちゃん」
おっさん主人がそう言い乍ら見せた光景。それは川の水の流れを丸ごと魔道具の中に吸収してしまう程の威力を見せた光景だった。この野球ボールサイズの何処にこれ程まで吸収出来るのか、その効果は間違いなく絶大だった。




