暗躍する者たち
※第二章開幕です。
今回は第二章のプロローグ的お話です。
豪華な装飾と貴重な物品の山。それ等を照らす明かりは蝋燭に似た照明だけ。暗がりに包まれた部屋の奥に座り心地の良さそうな椅子があり、そこに座るはチェラズスフロウレス第一王子アンスリウム=テール=キャロット。
アンスリウムの目の前には何人もの貴族たちが跪き首を垂れ、壁には侍従たちが直立して彼等を見張っている。そしてそんな中、一人の貴族だけが前に出て跪かずに立つ事を許されていた。
「メグナット。経過を報告しろ」
アンスリウムが命令をすると、立つ事を許されていたメグナットと呼ばれた男が「はっ」と返事をして言葉を続ける。
「牢にいる野盗は未だに雇い主を明かしていません。ですが、早めの処分が必要かと存じます。ヘルスターも同様ですが、奴は聖女の力を直接見ている筈です。奴の処分はそれを確認してからでもよろしいかと」
「そうだな。しかし、処分は慎重に行えよ? 聖女に勘付かれでもすれば、そこから俺まで辿り着くかもしれん」
「もちろんでございます。それから、殿下が仰っていた通りレムナケーテは聖女にどっぷりハマっているようです。あの分なら我々に気付く事もないでしょうし、危険を冒してまで処分をする必要もございません」
「レムナケーテか。あそこまで無能な男であれば、確かに放っておいても特に問題は無いだろうな。やはり問題は野盗とヘルスターか。と言っても、ヘルスターが俺の事を言うとは思えないが」
「はい。奴は二重スパイをしていただけあり口は堅い男です。国王も奴がアネモネ派の者だと信じきっております」
「ふっ。父は無能な王だ。気付くはずもないだろう。変装したヘルスターが旅商人を装って、魔装をばら撒いた事にも気づいていないのだからな。しかし、野盗は邪魔だ。いつ口を割るか分かったものではない。野盗の処分を急げ。聖女に気付かれる前にな」
「アンスリウム様の仰せのままに」
メグナットが頭を下げ、アンスリウムは微笑する。
さて、この会話で分かる通り、ヘルスターが王国騎士に捕まって連れて行かれる時に言っていた“あのお方”とはアンスリウムの事だった。つまり、全ての元凶である黒幕はアンスリウムだと言う事。そして、ヘルスターはアンスリウムの派閥でありながら、アネモネ派に裏で入会し、表ではネモフィラ派を演じていた。まさかの二段構えである。更に言えば、ヘルスターのバックにアンスリウムがいたからこそ、天翼会のみが管理している魔装を所持していた。つまりそれは、アンスリウムが魔装を入手出来る方法を持っていると言う事だ。
「あの……発言の許可を……」
アンスリウムが微笑していると、首を垂れていた一人が恐る恐ると声を上げた。その表情はかなり焦っていて、アンスリウムは思わず顔を顰めた。
「許す。なんだ? ブイドハンバル」
「ま、誠に恐縮ですが、じ、実は手柄を取りたく、野盗を既に始末したのですが……」
「始末しただと?」
ブイドハンバルの報告にアンスリウムは眉根を上げて、侍従の一人に視線を向けた。しかし、侍従が首を横に振り、アンスリウムが「報告に上がっていないぞ」と告げる。すると、ブイドハンバルは少し言い辛そうに表情を歪ませて、意を決して口を開く。
「せ、聖女が甦らせてしまったのです! この事は私以外の誰も知りません! 何故か殺した直後に聖女が現れて、“魔装の気配を感じて来て正解じゃった”と言って甦らせたのです!」
「――――っ!? そ、それは本当か!? ブイドハンバル!」
「嘘ではございません! 聖女はあの厳重な見張りの中を軽々と誰にも見られる事も無くのうのうと現れたと思えば、白金の光を放って野盗を甦らせ、その場に白金の光のみを残して姿を消したのです! ですから、野盗の始末はまだ保留にした方が良いかと存じます! 私も後少しで始末していた所を見つかっていました! 恐ろしくて私はその後何も出来ませんでした!」
「なんて事だ。それ程とは……」
まさかそんな事があったなどと思わず、アンスリウムは驚いて暫らくはそれ以上何も言えなくなった。もちろん驚いたのはアンスリウムだけでは無い。
この場にいる誰もが驚いて目を見開き、自分の耳を疑った。聖女が人を甦らせる力を持っているのはアンスリウムから聞いていたが、まさか本当に甦らせるとは思わなかったからだ。しかも、あの事件の一件以来厳重になって強化された見張りを簡単に潜り抜けた。まさに信じられない出来事で、作り話なのではと疑う程だ。
「ブイドハンバル。貴様の魔装は確か隠密に特化したものだったな?」
「は、はい。二人までであれば、五分だけ認識を阻害出来ます。その後丸一日は使えなくなりますが……」
「まさか、先日貴様からの連絡が一日だけ途絶えたのは」
「あの時は誠に申し訳ございませんでした。聖女の魔法を直に見て呆気にとられ、魔装の効果が切れてしまって出るに出られなくなってしまいました」
「もし貴様がそれで捕まっていれば、貴様も処分の対象になっていたぞ。しかし、そうか。過ぎた事だ。こうして貴様は俺に有益な情報を持って来た。褒めてやる」
「勿体無いお言葉に感謝致します」
ブイドハンバルが深々と頭を下げ、アンスリウムが頷く。しかし、その顔は晴れやかなものではない。険しい顔つきで少し苛ついていた。
「だが、状況がいいとは言えないな。野盗の処分は保留にする。やはり、優先すべきは聖女を俺の婚約者とし、手綱を握るべきか。俺の現婚約者への婚約破棄がいつでも出来るように準備を整えておけ。俺は俺で聖女の好感度でも上げておく。抜かるなよ?」
「「「アンスリウム様の仰せのままに!」」」
貴族たちと侍従が声を揃えて答えると、アンスリウムはニヤリと笑みを浮かべた。




