第二王子の婚約者(1)
「聞いたよ。お茶の時間にサンビタリア姉さんが来たんだってね。大変だったね」
「そうでもないのじゃ。しかし、あれじゃなあ。薄々思ってはおったが、フィーラはまだ五歳で幼い子供なのに、随分としっかりしておるのう。そっちの方が驚きなのじゃ」
「いや。それは君もだろ? 君もフィーラと同じ五歳じゃないか、ミア」
などと言っている彼は、とても七歳とは思えないこの国の第二王子ランタナである。お茶会の時間が終わって暫らくして、ミアが一人でパーティー会場に向かう途中でランタナに会い、二人は一緒にパーティー会場へと向かう。そしてそんな中、ランタナはミアの格好が気になった。何故なら、ミアはこれからパーティーに向かうと言うのに、随分と場違いなラフな姿だからだ。
「ミアはドレスを着なかったんだね?」
「うむ。ワシの侍従たちは相変わらず裏方仕事でこき使われているから、好きな服を適当に選んで自分で着たのじゃ」
「ははは。どうりで……。と、それよりも君に護衛が未だに一人もいないのは流石に不味いな。私の方から父さんに言って、ミアの護衛を最低でも一人は付けるように言っておくよ」
「別に気にする事でもあるまい。一人も案外気楽で良いものじゃ」
本当は一人の方が楽と言いたかったが、ミアは気を使ってオブラートに包む様に話した。すると、ミアの気持ちを察したのか、ランタナは肩をすくめて苦笑した。
「あ、そうそう。パーティーが始まる前に話しておきたいんだけど」
ランタナはそう言うと、ミアの耳元に顔を近づけて耳打ちする。
「パーティーにはアネモネ姉さんの婚約者が参加する予定なんだ。他国の王子だから、今はミアの正体を絶対に隠さなきゃいけない。あまり目立った行動をしないように気を付けてね」
「ほほお。アネモネ殿下の婚約者が来るのじゃな。まあ、安心するのじゃ。ワシは壁の花に徹してご飯をもりもり食べるのじゃ」
ミアの返事にランタナは冷や汗を流して、ミアから離れる。
「ご飯をもりもり……。面白い表現をするね。っあ。私の婚約者も来る予定だから後で紹介するよ」
「なんじゃと? お主も婚約者がいたのか?」
「私はもう七歳だからね。お披露目会の後直ぐに決まっていたよ。と言っても、相手は結構素っ気ない子なんだ。エスコートしに行くと伝えたら、父親にしてもらうから来なくていいと断られてしまったよ」
「パパっ子なんじゃなあ」
「私がたんに嫌われているだけだと思うけどね。彼女の家はサンビタリア姉さんの派閥だから」
ランタナは少しだけ顔を曇らせて話し、曇らせていた自分の顔に気がついて苦笑した。
「ぬぬう。言われてみれば王家にはそう言う面倒なのもあったのう。しかし、なんでサンビタリア殿下の派閥の者を婚約者などに選んだのじゃ?」
「父さんが私とサンビタリア姉さんの仲を外堀から埋める為に練った作戦らしい。以前母さんが呆れながら教えてくれたよ」
「難儀じゃのう」
ランタナ派の貴族とサンビタリア派の貴族の仲はあまりよろしくない。原因は王太子候補で一番人気が高いのがランタナだからだ。それは数日ここで過ごしていたミアにも既に分かる事実だった。
サンビタリアの派閥の貴族は殆どが古株揃い。そして、ランタナの派閥と支援しているネモフィラの派閥の貴族は新参や中堅ばかりで、力を持っている貴族は殆どがサンビタリア派である。そしてそう言った者達が王族に仕えて侍従をしているわけだが、城内ではたまにサンビタリア派がランタナ派やネモフィラ派を陰で嫌がらせをしている様子が窺えていた。しかも、サンビタリア派は後ろ盾が強力すぎて、ランタナ派やネモフィラ派は中々逆らえない状況。それをミアも見かけては止めに入るを何度か経験している。
国王はこの事を当然知っていて問題視している。だけど、直接注意しても「知らぬ」「存ぜぬ」「我々は仲が良い」「じゃれ合ってるだけ」などで通されるので、何か良い方法はと考えた。その結果、ランタナの婚約者をサンビタリアの派閥の娘にした。しかし、その効果は今のところ全く見えない程で、完全に手段が悪すぎたとしか言えない状況だった。
「婚約者と言えば、ミアは婚約者を本当に作る予定はないの? 一度聞いているけど、本当に結婚する気がないのかってフィーラが凄く気にしているんだよ」
「前にも言った通り、そんな予定は無いのじゃ。そもそもワシは男になど興味が無い」
「へえ。君なら選び放題だと思うけど、そのつもりはないのか」
「うむ。しかし、選び放題は言いすぎじゃ。それにそれではワシが男癖が悪いみたいなのじゃ」
「ははは。ごめんごめん。私が悪かった。あ。この事はフィーラに伝えておくよ。会うたびにそんな話ばかりして来るからさ」
「女の子じゃから恋バナがしたくて仕方が無いのじゃなあ」
どう考えても恋バナがしたいからでは無いだろうが、ミアにそれが分かる筈もなく「うむうむ」と頷いた。それを見てランタナが苦笑し、話も切りよくパーティー会場に辿り着く。
会場は流石は王族が準備させた場所だと言うだけあって、とても煌びやかな場となっていた。それからやはりと言うべきか花の装飾品が多く、まるで花を育てる温室に迷い込んだような気持ちになる。
会場を見まわすと、ルニィとクリマーテとヒルグラッセの三人も忙しそうに働いていた。と言うか、ルニィと目が合ってミアの格好を見て顔を青ざめさせたので、ミアはスッと目を逸らした。
「主役はまだ来ていないみたいだね」
「う、うむ。そうじゃな……むむ? あれは……」
「どうしたんだい?」
「なんでも無いのじゃ。ここまでエスコートありがとうなのじゃ。ワシはちと用があるので行って来るのじゃ」
「用……? 分かった。じゃあね」
ミアに出来た突然の用事と向かった場所。それは目を逸らした先に見えた会場の隅で話をしている四人の貴族女性達の許。でも、この女性達の中に知り合いがいるわけでは無い。向かったのは、そこに女性達に囲まれて、外からは見えなくなっている目尻に涙を浮かべた少女がいたからだった。
(まったく、この城に来てからこれで何回目じゃ? 本当に困ったお貴族様たちなのじゃ)




