王太子候補と各派閥の事情
チェラズスフロウレスは争いの無い平和の国。と言うのが、世間で知られる姿。しかし、それは間違いだった。
「なんじゃと? お披露目会からずっと命を狙われておったのか!?」
「はい。お父様とお母様とランタナお兄様は既にご存知なのですけど、わたくしはわたくし自身のお披露目会をしてから命を狙われているのです。でも、遠出をしている時に狙われたのは初めてでした」
「そうじゃったのか。し、しかし、ネモフィラ殿下は第三王女じゃぞ? 何故そのような事が?」
「わかりません。誰かに恨みを買うような事はしていないと思うのですけど……」
学園に通う兄と二人の姉が立ち去った後、残ったミアはネモフィラから命を狙われている話を聞いていた。もちろんこの場には国王と王妃とランタナも残っていて、ミアが視線を向けると国王と王妃がネモフィラの言葉に同意する様に頷く。しかし、ランタナだけは頷かずに真剣な面持ちをミアに向けた。
「この場には私達と聖女様しかいないので言いますが、恐らく姉さんか兄さんの内の誰かが裏で手を回しています」
「何じゃと!? あの三人の中の誰かが黒幕だと言うのか!?」
身内に犯人がいると聞き、ミアが驚いて声を上げると、その直ぐ後にバンッと机を叩く音が鳴る。その音に驚き、叩いた人物以外の全員が音のした方へ注目すると、それは国王だった。
「ランタナ! 兄や姉を疑うとは何事だ! 三人とも優しい兄姉ではないか!」
「父さん。残念だけど、私とフィーラだけしかいない時はそうではないんだよ。私達は王太子候補として争っているんだから何も不思議じゃないと思うけどね」
「それは……。しかし、お前達は兄弟姉妹なのだぞ」
「父さんが私達兄弟姉妹を平等に愛してくれているのは知っているよ。でも、それは私達には……姉さん達には関係無いんだ。まあ、どっちにしたって私達には私達を支える派閥がある。もし姉さんたちが犯人でなくても、誰かの派閥の人間の仕業だってあり得るんだ」
ランタナの言葉に国王は口を噤み、そこでミアが手を上げて口を開く。
「王太子候補の話など初めて聞いたのじゃ。ワシが暮らしておったダンデ村では、アンスリウム殿下が王太子と言われておるのじゃが?」
「聖女様の仰る通りです。けど、それはあくまで世間に公開している情報に過ぎません。王太子はまだ決定していないのです。今、王太子候補は私を含めて四人います。私と兄のアンスリウム。そして姉のサンビタリアとアネモネです。この事は他言無用でお願いします。と言っても、各派閥間では当然のように話しているみたいだけどね」
「そうじゃったのか……む? それでは、ネモフィラ殿下は関係が無いではないか。狙われるとしたらランタナ殿下ではないのか? 何故王太子候補でもないネモフィラ殿下が狙われる必要があるのじゃ?」
ミアの疑問は最もだった。争いの無い国で起きていた王太子候補同士の王太子の座を賭けた争奪戦。しかし、その候補の中にネモフィラはいない。命を狙われる要因になるとは思えない。だが、意外な理由がそこにはあった。そしてそれに答えたのは王妃だった。
「娘が……フィーラが一番人気が高いのが原因です」
王妃はミアの疑問に答えると、一度ネモフィラに視線を移してから、ミアに視線を戻して言葉を続ける。
「兄弟の中で一番人気が高く派閥が大きいのがフィーラです。でも、この子は争いを好まず王太子候補から辞退しました。ですが、それで関係が無くなる事はありませんでした。フィーラが兄弟の中で一番親しくしているランタナに、フィーラの派閥の貴族たちが協力し始めたのです。その結果、今はランタナが王太子になる可能性が一番高いと言われています」
「私もフィーラのように辞退しようとしたけど、どうにも私とフィーラの派閥の者たちが許してくれなくてね。それこそ暴動でも起きるかもって勢いでさ。だから、私は候補から辞退出来無い状況なんです」
「なるほどのう。理解したのじゃ。ランタナ殿下も辞退が難しい状況になって、その結果ネモフィラ殿下を暗殺すれば、一番の勢力がランタナ殿下の側からいなくなると安易に考えて命を狙っておると言うわけか」
「まあ、どちらにしても姉さん達の内の誰かが裏で糸を引いていると思うよ」
「困ったものじゃなあ」
「しかし、いくらなんでも妹の命を狙うなど……」
国王が頭を抱えて眉根を寄せる。国王にとっては仲のいい兄弟姉妹で、全員がこの国に相応しい誇りのある子供達だった。だから、この事実を受け止め難く納得出来ないでいた。だけど、王妃は違う。この現状を重く受け止めている。ネモフィラも顔を俯かせていて、この事実を受け入れていた。
「ぬぬう。しかし、何故王太子候補として競わせておるのじゃ? 世間に知らせている通り、アンスリウム殿下が王太子ではいかぬのか?」
「それについては私がお話します」
ミアの質問にそう言って真剣な表情を向けたのは王妃だ。王妃は未だに頭を抱える国王を一瞥してから、真剣な表情のまま言葉を続ける。
「元々この国の王太子はサンビタリアでした。ですが、アンスリウムが生まれてから、この人……ウルイの希望で王太子がアンスリウムへと変わったのです。しかし、それがいけなかったのでしょう。五年前に、王太子の座にアンスリウムが相応しいか疑問だと、サンビタリアから申し出があったのです。そして、ウルイとサンビタリアとアンスリウムの三人だけで話し合い、子供等全員を競わせて王太子を決めようと決定しました」
「ぬぬう」
(それでは殆ど国王のせいではないか)
聞けば聞く程にドロドロした関係。平和な国とはなんだったのか? と思う程に城内はギスギスだった。ミアは呟くと肩を落として、これからの生活と重くなったこの場の空気にどんよりした。しかし、その時だ。予想外な人物が、この重い空気を吹き飛ばす。
「やっと分かりました! ミア様が王子さまだったのですね!?」
そう。この重い空気を吹き飛ばしたのは突然大声を上げたネモフィラ。そしてその言葉と何故か期待していそうな、それでいて嬉しそうな顔に、ミアは目を丸くして驚いた。
「お、王子さま……なのじゃ?」




