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How About You  作者: 春隣 豆吉
Extra edition:Sing Sing Sing
22/22

5:I've Got You Under My Skin

愛妻の日に思いついた番外編。出遅れました…

”僕は君に首ったけ”みたいな意味だそうです。

 打ち合わせを終えた担当の灯ちゃんが、そういえばという感じで手をぽんとたたいた。

「蒼葉先生、今日は愛妻の日らしいですよ」

「はあ?愛妻の日~?」

 私のけげんそうな声に灯ちゃんはスマホの画面を見せた。

「1月31日の語呂合わせとは…強引といえば強引なこじつけね」

「いい夫婦の日の11月22日に比べると知名度は低いらしいんですけどね」

 いい夫婦の日、というのは私でも知っている。毎年芸能人などの著名人で素敵夫婦な活躍をしている人たちを表彰してるアレだ。まあ、「いい夫婦」という定義は人それぞれだから、本人たちが「自分たちはいい夫婦」なのだ、と思っている(もしくは思わせたい)場合の絶好のアピールにはなるな。

 じゃあ、私たちはどうなんだろう…と、典くんの姿を思い浮かべる。彼はもともと私の担当編集者で、なんか気づいたら結婚していた感じ。あ、でも一応私たちは恋愛結婚だから恋愛を経てるのか。 自分で作品を書いていて言うのもなんだけど、恋に落ちるよりも結婚したいって気持ちはそれに比べると結構明確なはずだ…ん?ちょっと待て。私、彼との恋愛も結婚もなんか気づいたらしてたような…いや、いちおう告白とかプロポーズはされたけどさ。


「木ノ瀬さんは愛妻の日って知ってそうですよね」

「え~、そうかなあ」

「そうですよ!!木ノ瀬さん、うちの部署では愛妻家で有名ですよ。独身の間では蒼葉先生にどうしたらああいう人と結婚できるのか聞いてみようという講演という名目のお茶会をしたいと要望が」

 灯ちゃんの発言に飲んでいた紅茶をふきそうになる。

「はああ~?私だったら、高額納税者のミステリー作家に溺愛される気分を聞いてみたいわね。どうなのよ、灯ちゃん」

「へっ?!いやそんな溺愛なんてぜんっぜんありませんから!!」

「え。そうなの?森川先輩が結婚までもうちょっとなんて言ってたから」

「そそそそんな話でたことないですよっ」

 灯ちゃんの動揺っぷりがますます怪しい。でもツッコミをいれるなら神谷先輩のほうがいいだろう。その際は森川先輩にも声をかけたほうがいいかしらね。

「もし、結婚することになったら蒼葉先生には絶対報告します。きょ、今日はこれで失礼します」

「うん、楽しみにしてる。気をつけてね」

 灯ちゃんがぎくしゃくした様子で会社に戻って行った。うーん、悪いことしちゃったなあ。次回の打ち合わせのときは彼女の好きなケーキを用意しておこう。


「はい、蒼葉さん」

 家に帰ってきた典くんは玄関で出迎えた私に差し出したのは淡いピンクや赤いバラにグリーンも鮮やかな陶器に入ったブリザーブドフラワーだ。

「ありがとう。とってもきれい。どうしたの、これ」

「今日は愛妻の日だっていうから、ちょっと乗ってみたんだ」

リビングに移動して、テーブルの上に花を置いた。おお、部屋が華やかになった。

「蒼葉さん」

典くんが私に手を伸ばす。あー、典くんのにおいだ。ちょっと嬉しくなって背中に手をまわしてみる。

「典くんは最近忙しかったね」

「神谷先生の取材につきあうのは楽しいし勉強になるけどね。そんなわけで、僕は蒼葉さんが足りてない」

「へっ?!夕飯の準備しよう、夕飯!」

「今日は竹倉と打ち合わせって言ってましたよね。ということは、甘いものを食べたでしょう。2人のことだから1個じゃありませんよね、蒼葉先生?」

 うっ、なぜ分かる。今日は灯ちゃんがシフォンケーキをホールで持ってきたんだけど、それがとっても美味しくて結局2人でホールを食べつくしたのだった。

「な、なんで、急に先生ってつけるの?それに、その口調」

「ふふ、それとも先輩って呼びましょうか?僕にそう呼ばれて以前嬉しそうでしたよね」

「うっ…そ、それはっ」

 以前、典くんの卒業アルバムをみていたときのことと、その後のことも思い出してしまう。

「知ってます?安心できる相手とハグすると脳内からオキシトシンというホルモンが出て、幸せな気分になるそうですよ。でも僕は欲張りなので、もっと幸せを味わいたいわけです」

「い、いや今もじゅーぶん幸せで」

「それに、まだおなかすいてませんよね。夕飯ならあとで2人で作りましょう」

 ああ、私が何を言っても典くんは準備万端ってやつですか。なにそのよどみのない反論。確かに典くんとハグするとすごく安心して幸せな気分になるけどさ…

「すこし手加減してくれる?」

「善処します」

 こういうときの典くんの笑顔は、非常にあやしい。


 結局、夕飯をメインで作ったのは典くんだった。

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