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2:強いていうなら前世の記憶というやつ(前編)

BLです。最後まで執筆済みです。

毎日更新しております。


 クラリーチェ嬢は、愛されなくても構わない――


 俺が昨夜思い出した、俺が俺として生きていなかった時に見たと思われる話のタイトル。略してクラ愛と呼ばれていた。


 辺境伯家の箱入り娘、クラリーチェ・ヴィターレは、王命によりロメオ・ロマーノ公爵の元へ嫁ぐことになる。

 ロメオは、紫黒椿の貴公子という二つ名を持つ優秀な若公爵として名高い男であったため、クラリーチェは結婚生活に胸を膨らませて、初夜を迎えた。

 だがそこでクラリーチェは、ロメオから「この結婚は王命だが、私があなたに好意をもって結んだ婚姻ではない。私があなたを愛することはない。抱くこともない」と宣言されてしまう。

 ロマーノ家の使用人たちも、クラリーチェを認めることはなく……クラリーチェは、ロメオの幼馴染であるエリザベッタ公爵令嬢にも散々たる嫌がらせを受ける。

 そして失意の中、クラリーチェは病を患い命を落とす。

 しかし、目覚めると、ロメオとの初夜の日まで時間が巻き戻っていた。

 ロメオに前回と同じセリフを言われ、全てを思い出したクラリーチェは、ロメオと離婚し、ロメオに復讐することを決心する。


 そんな話だ……ったと思う。

 クラリーチェ嬢は、愛されなくても構わないとか言っておきながら、初手で俺に愛されなかったことを切っ掛けに恨んで復讐してるくせに、何なんだ?!


 ロマーノ家の使用人たちも、クラリーチェを認めることはなく……ってのも、そんなん当たり前だろうが!

 散財茶すすり無責任女を公爵夫人と認めるような質の低い使用人なんぞ、叔父と一緒に追い出したわっ!


 ……というのは、一旦置いておこう。

 いちいち腹を立てていては、整理が進まない。

 まずは、なぜこんなことを思い出したかだ。


「なぜ、思い出したか……? なぜとは……?」


 いや、さすがにその問いの答えは出せないな。

 頭をぶつけて思い出したとかなら、それが切っ掛けかもと思えるが、話をしている最中に突如蘇った記憶だ。これはもう、天啓と言っても過言ではないだろう。


 でも、強いていうなら前世の記憶というやつなのだろうか?

 とは言え、クラ愛という話の内容は思い出せたが、俺自身が何者だったとか、そういった記憶は一切ない。

 名前も、性別も、家族構成も、住んでいた場所など、そういった記憶は……とりあえず今のところは何ひとつ思い出せない。


「まあ、前世の苦しいこととか辛いこととか、来世まで覚えて生きるのは拷問だしな。だから人間は忘れるようにできてるとか――」


 その知識も、たぶん前世の記憶だろう。

 そういった、知識っぽいことは浮かび上がってくるが、前世の俺個人については……、視線を脳に向けるように上へ持ち上げて、ぐるりと記憶回路をさらってみたものの、差し当たってそれらしいものは見つからなかった。


 クラ愛が、あくまで俺が俺ではない俺として生きていたその世界に存在した物語であった、ということは分かった。

 その理屈で言うと、俺は今、物語の中に存在しているということになる。


「なんかそういう話なかったか? 本の中に吸い込まれるみたいな……」


 ぼそりと呟いて寝返りを打つ。

 特定の話ではなく、似たような話が何個か思い浮かんできた。でも本の中に吸い込まれた記憶もないし……。

 これは――もしかして俺は、異世界の物語を思い出す能力を授かったということなのだろうか?


「うーん……」


 何か思い出せないかと念じるようにして、眉根を寄せて唸ってみる。


「あ!」


 なんて、思わず声を上げてみたが、新しく思い出せたのは、イギリスという国では、ロメオをロミオと発音するということくらいだった。


 どうでもいい。


 しかも芋づる式に、クラ愛は中世イタリアを基盤にした世界観設定をしてるのに、なぜか平均身長だけはオランダなんだよな(笑)という、誰かのコメントも思い出した。


 これは……どうでもよくないな?


 もしクラ愛がきちんとイタリアという国に準拠した設定で創作されていれば、俺はこんな低身長扱いされなかった可能性があるということか?

 それは、許せない!

 イタリアの平均身長の記憶、出てこいやっ!


 ……と意気込んでも、その記憶は出てこなかった。

 前世の俺が学ばなかった知識はそもそも所持してないから出てこないとか?


 日本という国では、アニメやマンガと言ったサブカルチャーが発展していて、クラ愛はそれに該当するっぽいことも思い出した。

 なんか三種類くらい顔があると思ったら、そういうことか。

 ウェブ小説というもので書かれた話が、紙の本になって、マンガ化され、アニメ化され。どうやら俺は、それらが混ざった状態で思い出しているようだ。


 ウェブが何かは分からないけれど、この世界にも小説はある。

 印刷技術も発達していて、本が貴族にしか買えない高価だった時代は、とうの昔に過ぎている。貴族向けの書店はもちろん、市井にも書店、古書店、どちらも多くあり、それだけ本は身分問わず広く普及している時代だ。市井では、絵本なんかも出回っている。

 俺が俺ではない俺として生きていた世界で見たマンガというのは、この絵本が一番似ていると思う。もっと細かい絵がたくさん描いてある本のようだが……。

 あとは、アニメか。これは、なんかちょっと仕組みが見当もつかないが、絵を動かせる印刷技術が異世界にはあるということなのだろうか?


 まあ、いい。

 とりあえず、思い出せる限りの範囲で言えば、マンガ化、アニメ化とやらはたくさん絵を描かねばならないから、小説の内容をたくさん省略しているっぽいということ。

 原作と言われるウェブ小説の内容が、俺が思い出した記憶の中で、一番浅いこと。

 幼馴染であるエリザベッタ、特にマンガ化された彼女が推しだったこと。


「え?」

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次回、2:強いていうなら前世の記憶というやつ(中編)

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