0:プロローグ、これはわたくしが紡ぐ物語
ラブコメBLです!
本日より毎日更新していきます。(最後まで執筆済み)
最初の3日間は、1日2回更新です。
今日はこのあと21:10にも更新いたします。
ラブコメBLです!安心してください!絶対BLです!
どうぞよろしくお願いいたします!
「この結婚は王命だが、私があなたに好意をもって結んだ婚姻ではない。私があなたを愛することはない。抱くこともない」
結婚式を終え、わたくしの夫となった男性は、初夜にわたくしの寝室へ訪れるなり、そうおっしゃいました。
彼の名は、ロメオ・ロマーノ様。
巷で「紫黒椿の貴公子」と呼ばれる、今年二十一歳になられたばかりの若き公爵様です。
わたくしたちが住まう国、サダヴィア王国では、成人男性の平均身長は百八十七、八センチほどと言われております。そんな中で、百七十五センチほどのロメオ様は、とても小柄な方です。
その上、大きなアーモンド型の目、幻の花と呼ばれる紫黒椿色の神秘的な瞳は眩い宝石のよう。さらさらとした指通りの良さそうなオリーブがかったアッシュブロンドに、お手入れに余念のない令嬢よりも輝いている白磁のようなお肌には、憧れてしまいます。
合わせて、小顔で手足が長く、その華奢さも相まって中性的な印象が強い、麗しいお方でいらっしゃいます。
そんなロメオ様と、ヴィターレ辺境伯家の娘であるわたくし、クラリーチェの婚約は、ふた月ほど前に王命を賜り決まったものです。
それから、顔合わせを二度ほどして、本日の結婚式を迎えましたが、それまでロメオ様――あらため旦那様は、大変紳士的な方でした。
サダヴィア王国では、夫となる方が式場や参列者への招待状、ウェディングドレスや装飾品など、結婚式に関する手配を一括して行うのが通例となっております。
ご準備をしていただけない場合、妻側が恥をかいてしまうものなのですが、旦那様は、それはもうご丁寧にご手配くださいました。
ロマーノ家は、財政を立て直すために比較的裕福な我がヴィターレ家と縁を結ぶのだと、父から説明を受けておりましたが、そのような財政難を抱えているようには見受けられず……。
ただ、旦那様は始終お忙しそうにされていたので、今この瞬間までわたくしと言葉を交わした回数が、片手で足りるような数であったことは、確かでございます。
旦那様は、二十三になったわたくしより、ふたつも年下でございます。
ですが、わたくしの父(ゴリラのような体格で怒った熊のようなお顔をしており、初対面の方は概ね怖がって引き攣ったお顔になってしまいます)とも臆することなくにこやかに歓談されていましたし、結婚式にご参席いただきました王ならびに王妃へご挨拶をされるお姿からも、若いながらもご立派な公爵様という印象を抱きました。
わたくしは、魔獣の発生が頻発する地域の辺境伯家の一人娘で、自領からあまり出ることなく育ちました。そのため、自分でも認めるほどに世間に疎いところがあります。
そんなわたくしでも、旦那様の噂は耳に届くほどでしたし、王命を賜ってから結婚式を迎えた本日までの旦那様のご様子を拝見し、このようなご立派な旦那様の許へ嫁げるなど、愛のない政略結婚を求められがちな貴族の娘として、なんと幸福なことでございましょう――と、これからの結婚生活に夢を見ておりました。
なのに、なんということでしょうか。
旦那様が今しがた発せられた言葉が上手く咀嚼できず、わたくしは暫し沈黙してしまいました。
旦那様は、そんなわたくしに向けた鋭い眼差しを緩めることのないまま、目を逸らさずにお話を続けられました。
「書類上の夫と妻であることは認める。だが、この政略結婚の利は、公爵家と辺境伯家にあれば十分。私は、公爵家当主として、その利を辺境伯家当主に求め、辺境伯家当主が求める利を与える努力をするまで。それ以上の関係や、個人間の関係を私はあなたに求めないし、あなたも私に求めないでほしい。後継についても養子を取る。あなたも知っているだろうが、ロマーノ家の現状に至るまでの原因は、私の叔父にある。だが父には二人の弟がいて、私が幼い頃、遠国に婿入りした叔父もいる。そこは、由緒正しい公爵家なので、私にとって従兄の息子を――」
旦那様の言葉が、右耳から左耳に滑り落ち、思考がついてきてくれません。
夫婦の愛を、妻になったわたくしではなく、辺境伯家当主である父に求めるということでしょうか?
なぜ近場(?)の叔父は駄目で、遠国の叔父なら良いのでしょうか?
震える唇を噛み締めても、先ほど言われた『あなたを愛することはない』という言葉が胸を刺し、数刻前にした誓いの口付けはなんだったのでしょうか?
そのように思ったら、自然と目頭が熱くなりました。
目の縁に溜まった涙が零れそうになった時――
「だから――………………え? クラリーチェか?」
「はい?」
旦那様に名前を呼ばれて、いつの間にか閉じていた瞼を持ち上げると、旦那様はその端正なお顔で表現できる限界値で驚きの表情を作っていて。口をハクハクと何度も開いては閉じるのを繰り返していました。
その直後のことでございます。
「クラ、クラ、クラリーチェって、クラリーチェ・ヴィターレって? ヴィヴィヴィターレ家の娘って、クラリーチェ嬢しかいないはずで……え! あ?! え?! クラリーチェ・ヴィターレ……クラリーチェ・ヴィターレ?! えっとえっとえっと、……俺は? 俺は……俺は俺は俺はッ……ロメオだ! ロメオ・ロマーノだ! ロメオ・ロマーノォオウ?! なんてこった! 嘘? 嘘うそウソ?! 嘘だろ、嘘だと言ってくれ……待て待て待て、俺、もう言ってる? あのセリフ言ったか? あなたを愛することはないって言った? ……言った! もう言った! さっき言った! もう言ってる! うわー! 違う違う違う、違うんです! ごめんなさい、違います! 誤解! そう! 誤解です! うわーん! 殺さないで! ごめんなさい、俺が悪い! え? 俺が悪い? いや、俺悪くなくない? この女が悪いだろ? いや……いやいやいや! そんな場合じゃない! 悪いのは俺! 俺が悪いことにしよう! 家を潰すよりマシだ! 俺が悪い! この俺がー!!!」
突然そのように叫びだした旦那様は、まるで初めての場所に連れて来られパニックを起こした子猫のように、部屋を縦横無尽に走り回り始めました。
壁にぶつかり、うめき声を上げ、カーテンの後ろに隠れて、その布に足を取られて転んで、這いずってソファの下に隠れて、そのまま顔を上げようとして頭をぶつけ……と、あまりの騒がしさに、わたくしの涙も引っ込んでしまいました。
「あ……あの、旦那様?」
「どうか! 慈悲を! 俺に説明の機会を! 愛さないってのは嘘で! いや、嘘? 嘘……ではないな? いや! でも、本当でもないっていうか、とにかく、違うんだ! 違うんです! 本当は――キャンッ! ダッ!!」
暴れまわった旦那様は、チェストに足の指を強打し、尻尾を踏まれた子犬のような鳴き声を上げて飛び跳ねると、駆けずり回ったことで床に落ちてしまったブランケットに足を取られて、そのまま滑って正面向きに倒れ――ベッドの天蓋を支える支柱に頭を強打して気を失われました。
「だ、旦那様? 旦那様?」
ベッドに座ってその様子を眺めているだけとなってしまっていたわたくしは、お声掛けしながらうつ伏せで倒れている旦那様をひっくり返し、仰向けにいたしました。
「ッ……!」
わたくしは咄嗟に口元を塞ぎ、震える肩をどうにか抑え、素早く旦那様の頭と床の間に枕を挟み、使用人を呼ぶためのベルを鳴らしました。
直後、すぐに部屋の扉がノックされました。
「どうぞ」
わたくしが震える声でなんとか入室の許可を出すと、ロマーノ家王都邸の執事長が現れました。
「お呼びで、しょうか?」
執事長は、部屋の惨状を見て驚いたのでしょう。言葉が少し切れましたが、瞬時に切り替えることができたのは経験の賜物でしょうか。
「執事長、今しがたわたくし、旦那様から『あなたを愛することはない』と言われたわ。旦那様のこのご意向は、あなたも知るところかしら?」
礼をしたまま沈黙を通す執事長。
わたくしはそれを肯定と受け取り、「そうですか」と頷きました。
そこから、現状を説明することにしたのですが――
「旦那様は、そのご意向をわたくしに説明している間に、ご様子がおかしくなり、部屋中を駆け回りながら、わたくしに謝罪をいたしました。ですが、ッ……壁にぶつかり、カーテンを引っ張り破って……ソファの、下で頭を、ぶつ……ぶつけて……ふふ、フッ……あはっ、フハッ! ご、ごめんなさい、フフッ……」
わたくしは堪えきれなくなって、はしたなくもシーツに顔を埋めて、生まれて初めてと言っても過言ではないほど、お腹の底から声を出して笑ってしまいました。
「そ、それでね……最後、フフッ、チェストで足の指を強打して、フフフッ、あはっ……飛び跳ねたら、それに足を取られて……この支柱に頭をぶつけて……じめ……自滅され……ああ、お腹痛い……ふふ、フッ……お顔……お顔が……、旦那様のお顔、見て…おねがっ……見てちょうだい」
滲み出た涙を拭うわたくしの言葉に、執事長は床の上に横たわっている旦那様のお顔をそっと覗き込みました。
「ん、ゴホンッ」
そうでしょう?
いくら公爵家に仕えて長い執事長と言えども、耐えられるものではないでしょう?
旦那様は、「紫黒椿の貴公子」の二つ名がつくなど到底思えないような……具体的にお伝えいたしますと、白目を剥いて、舌を出した状態で、どうやったらそのようなお顔で倒れこむことになったのか説明してほしいほどコミカルなお顔で、お眠りになっていたのです。
「軽い脳震盪だと思いますが、頭は少し心配だわ。医師に診てもらった方がいいでしょう」
なんとか笑いを収めたわたくしは、執事長にそのように指示を出しました。でも、頭は心配という言葉が、打った場所が頭では心配という意味で受け取ってもらえたかどうかは、口にしてから少し考えてしまいました。
ですが執事長は、「かしこまりました」とひと言で頷くと、旦那様を抱き上げました。
執事長もサダヴィア王国の平均的な男性らしく百八十五センチぐらいの身長です。それなりに年も重ねているでしょうに、旦那様を軽々と持ち上げる姿が旦那様の華奢さを際立たせます。
男性は、筋肉量も多いため、同じ身長だったとしても女性よりも重たいことが多いのに、なんだかわたくしよりも旦那様のほうが軽そうです。
きちんとお食事とか召し上がっているのかしら? などと余計なことを考えていると、執事長から声がかかりました。
「奥様もどうぞこちらへ。この部屋でお休みいただくのは難しいでしょうから、客室となりますが、別室へご案内いたします」
「そ、そうね」
そう言われて、改めて荒れた部屋に目を向けてしまい、せっかく落ち着いた笑いがまた溢れてきてしまいそうになりました。
執事長に続いて部屋を出て、わたくしは改めて思いました。
とんでもなく面白い家に嫁いできてしまったかもしれない――と。
さて、今この瞬間、わたくしのお話を聞いてくださった皆様は、お気づきでしょうか?
これは、わたくし、クラリーチェ・ヴィターレの物語ではございません。
これは、わたくしが紡ぐ――ロメオ・ロマーノの物語でございます。
皆様におかれまして、この『ちんちくりん貴公子』であらせられる旦那様が、笑って泣いて、懸命に歩む波乱万丈な物語を、わたくしと共にお楽しみいただければ幸いでございます。
それでは、はじまり、はじまり~!
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次回、1:俺は、ロメオ・ロマーノ(前編)




