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秘術使いの理想郷─ヴィルヘルミナの物語─  作者: 智慧砂猫


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第96話「怪しいお狐様」

◇◇◇






 ヴィルヘルミナとはぐれたフランチェスカたちは、あてもなく森の中を駆けていた。追いかけてくる獣人たちの怒号を聞きながら、せめて安全に隠れられそうな場所を探そうと逃げ回った。


 そうして、以外にも三十分ほどが経った頃、ひとつの町を見つけた。石畳と瓦屋根の木造建築が並ぶ、歓楽街のような町。提灯が連なって照らし、獣人たちは酒を呑んで、大笑いをしたり、小競り合いをしたりと騒がしい。


「どうするよ、アレックス。隠れられそうか?」


「さあね。でも情報は集めたい。ミナも私たちには期待してるはずさ」


「だといいけど。ぶっちゃけ心配してると思うよ、アタシは」


 見るだけで分かる、獣人たちは明らかに強い。まともに相手をしていれば、多少は善戦できたとして、その先は? と不安に胸がいっぱいで吐き気がする。命を懸ける覚悟はあっても、それと恐怖心を抱くことは別の問題だ。


「ちくしょう、足が竦む……」


「私もだよ。とにかく入ろう。適当に見て回ったら撤退だ」


「ああ、そうだな。ヘルミーナたちを探さねえと」


 息を潜めて、建物の陰に入り、壁にかかっていた大きな布を見つける。アレックスは躊躇いなく手に取って、びりびりと破く。


「おいおい、それごみ袋とかじゃねえよな?」


「何かを覆うためのものだと思うよ。仮にごみ袋でも被るけどね」


 贅沢は言っていられない。些細なことでも見つかる危険性がある以上、多少の臭いには鼻をつまんで我慢すればいいとアレックスは笑う。本音としては最悪な気分だが背に腹は代えられない。


「大陸とは着ている服も違うけど、放浪者みたいな連中も中にはいる。襤褸を纏っていれば、私たちもさほど目立ったりはしない。わかるよね?」


「そこまでわがままじゃねえさ。さっさと行こうぜ、時間がない」


 タイミングをうかがうように顔を見合わせ、町に繰り出す。見慣れない景色に目を奪われたりもしながら探索する。ときどき不審な目を向けられても堂々としながら路地裏に入って誤魔化しつつ、あちこちを回った。


「どこもかしこも飲み屋ばかりだね。酔っていない人を見つける方が難しい。それに大した話もしてない。昨日はどれだけ呑んだとか、狩りで大きな獲物を取ったとか、そういう話ばかりだ。引き上げようか」


 既に町中は騒ぎに満ちている。飲んだくれたちも身を縮めてしまうような獣人の島の兵士たちに、いつ見つかってもおかしくない状態だ。


「ああ、大した話は聞けてねぇ。ただ領主様がどうとか言ってたけど……」


「この町の責任者みたいなものじゃないか? ここ自体はさほど広くないし、島の大きさから考えて、あと二、三か所は似たような場所があると思う」


 落下して吹き飛ばされる際、アレックスは遠くに城のような建物を見ている。いくつかの町があり、それぞれに領主がいるのだと推察した。


「領主とやらも見ておきたいけど……、今の状況ではリスクが高い」


「味方もいねえしな。でも、どうやって出ていくよ。すっかり警備が強化されちまって、町の外に行くのも一苦労しそうだぜ?」


 路地裏で身を隠しながら様子を窺う。あまりにも数が多い、とアレックスは小さく舌打ちをして、冷静になれと壁にもたれかかり、深呼吸をする。


「流石に二人はキツそうだ。私が囮になろう」


「はあっ!? バカ言うな、ンなことしたらお前が死ぬだろうが」


「そうは言うけど他に手がないだろ。キミなら逃げられる」


「でもよぉ……。仲間を置いていくような薄情にはなれねぇよ……」


 気持ちは分かるので、アレックスも強く否定できない。


「くそお、普段は強気なくせに、そんなところでしおらしくしないでくれたまえよ。なんかこう、私の中の何かが刺激される」


「キモいこと言うなよ。それよりほら、何か急いで他の案を────」


 二人の前に、ぬっ、と大きな影が差す。


「手伝ってやろうか、童たち。わちきが案内してやってもよいぞ?」


 背筋がひやりとした。目の前にいるのは、あまりに美しい見目をした獣人だ。長い金髪に、頭から生えた耳。着物の中にあるのか尻尾は見えない。敵意はないが、どこか危うさを孕んだ気配に二人は息を呑む。


「あ、あんたは……?」


「わちきは天狐と呼ばれておるよ。狐の獣人じゃ、よろしゅう」


 何も持っていない、と示すように手を広げて見せる。敵意がない割には明らかに味方という雰囲気でもない。警戒心が湧くと同時に冷や汗が額から頬を伝う。


「なんのつもりで私たちに協力を申し出たんだい?」


「興味、かのう。野良猫がおれば、その顔見たさに近づくであろう。それと同じことよ。ぬしらが町をウロウロしておるので、気になった」


 恐ろしさを感じる真っ赤な瞳が不気味だった。天狐は通りを振り返って、行きかう獣人たちの姿にくすっと微笑む。


「間抜けな奴らであろう。獣人共は特異体質を持つが、如何せん、元来の獣としての嗅覚を総じて持たぬゆえな。そこが可愛いところでもあるがのう」


 二人に向けて指を弾くと、薄桃色の花びらが一枚ずつ、ひらりと舞った。


「ボロを出さぬかぎり、ぬしらは獣人のように見える。これでいつでも町を出られるはずじゃ。────その代わりに、少しわちきに付き合うてはくれぬか?」

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