18 あと一枚
「マオちゃん!」
シリウス君が私を呼ぶ声が聞こえたと思ったら、次になんだか、ぽんっと私を包み込むような衝撃が来て、ふわっと身体が浮いたと思ったら、ゆっくりと用水路に落ちた。
「ぽちゃん」
ペタンと言う感じで用水路の中に落ちたから、水が少ないと言っても、お尻はしっかり濡れてしまった。
生ぬるい、へんな感じ。気持ち悪い。でもびっくりした時は声がでない。
「おい!マオ!大丈夫か!」
「マオちゃん!」
ケントの声と、ユウト君の声が聞こえたと思ったら、はっとして、上を見上げた。
「登れないよう」
「バカだな。なにやってんだよ!ほら、手のばせ!」
「マオちゃん、両手を伸ばして。ケントと引っ張るから」
そしたら、二人は用水路の上からしゃがんで私を引っ張り上げてくれた。
「た。助かった。ありがと」
「お前、なにやってんだよ。怪我はないのか?」
「うん。濡れちゃっただけ」
シリウス君の方を見ると顔を白くさせていた。
「シリウス君、大丈夫?」
「うん、僕は大丈夫。マオちゃん、怪我はない?」
「うん。紙もほら。無事」
「おー。不思議だな。マオが持ってると見える」
「マオちゃんはこれを追いかけていたんだね」
「うん。そう」
「とにかく場所を移動しよう。マオちゃんは汚れてしまったし、家に戻ろうか」
ユウト君がそう言って、私達はまた並んで家まで戻った。
シリウス君はその間も元気がなかったけれど、私も洋服がべっとりお尻や太ももにくっついて気持ち悪かったので、気にする余裕がなかった。
「おばあちゃーん。汚れちゃった」
家に戻って、玄関からそう言うと、おばあちゃんは驚いたけれど、怪我がなかったから注意されただけですんだ。
軽く身体を洗って新しい服に着替えると皆はまだいて、おばあちゃんが切ったスイカを食べていた。
「マオちゃん、大丈夫?」
シリウス君は心配そうにまた聞いてきた。
「うん。怪我は何もないよ」
おばあちゃんもおじいちゃんも今はいない。私は紙を出して、シリウス君に聞いた。
「シリウス君、今、した方がいいのかな?」
「うん。ケント君はもう知っているし、ユウトさんも理解あるからね」
シリウス君が紙を自分の顔の前に向け、ゆっくりと息を吹きかけた。キラキラと紙から不思議な靄が飛び出していく。
ユウト君はじっとそれを見つめてシリウスの顔を見ると頷いていた。
『ベガ』
シリウスが呟くと、その不思議な靄は綺麗な青白色になって空に吸い込まれていった。
「にいちゃん、コレなんだよ」
ケントがユウト君をちょんちょんと突きながら言うと、ユウト君はうん、うん、と頷いた。
「うん。これは魔法だね。幽霊とかそういうのとは違うと思う。今の科学では分からない事かな。だから魔法で間違いない」
ユウト君が頷いてシリウスを見た。
「シリウス君。君はこれをあと何枚集めるの?」
「あと一枚。一枚で魔法書は元通りになるんだ」
「そうか。あと一枚か」
ユウト君は何か考えるていて、その後は黙っていた。
真っ白な紙には不思議な文字が前の紙と同じように浮かび上がっていた。手のひらを振って飲み込むように魔法の紙をシリウス君が消した。
シリウス君は紙を取り込むと、ほっと、息を吐いた。
少し疲れたようにも見える。
「シリウス君、大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ。マオちゃんは大丈夫?」
「うん。怪我も無かったから」
私はユウト君とケントが二人で話しているのを見てシリウスくんにこそっと話し掛けた。
「ねえ、シリウス君が助けてくれたんでしょう?」
「うん。ちょっとね。本当に怪我が無くて、良かった。怪我を治すとかは僕、出来ないから」
「びっくりさせてごめんね。有難う」
「ううん。マオちゃんが紙を追いかけてたから。でも、あと一枚だよ」
「うん。あと一枚だね。頑張ろうね」
あと、一枚、あと一枚で魔法書は出来る。そうすれば、シリウス君はもっと元気になるんじゃないかな。




