10 三枚目の紙
「シリウス君。すごいねえ」
「ありがとう。人が多いね。皆に見られない所に行きたいんだけどな」
お化け屋敷で疲れた後、パシャパシャとヨーヨーで遊びながらアイスキャンデーを屋上の隅で二人で食べている。ポンポンポンとシリウス君は器用にスーパーボールを片手で三つ持つと、大道芸の人がするみたいにリズムよく投げて遊んでいた。
屋上はジリジリと日差しが照り付けて暑いけど、テントが沢山出してあって、日陰に入ると、生ぬるい風でも、涼しかった。
「アイス、溶けてる。ジュースになっちゃった」
「この、パッキンって割る、アイス。溶けても手がべたべたにならないからいいよ」
二人で一本を買って半分こして食べていると、あっという間に食べ終わりそうだけど、冷たい物ばかり食べて、お腹がぐるぐるになっても困るから丁度いいと思う。
そういえば、シリウス君はお腹壊したりするのかな。
「マオちゃん?」
「えーっとね。下の広場でウォータサバイバルっていうのがあるって。あと、シャボン玉マンがやってくるって」
私はさっき貰ったチラシを読んで、シリウス君に見せた。
「そのあと、ちょっと後だけど、花火も下でするみたいだし。キッチンカーでご飯食べる人も多くなると思う。だから、ここ、もうすぐ人が少なくなると思うよ。ほら、さっきよりもう人が少なくなってる」
「じゃあ、この隅なら人に見られないかな」
「ここなら大丈夫じゃない?入口からも見えないし、テントの影にもなってるし、奥まで来ないとバレないと思うよ?」
「うん、下よりもここがいいと思う。空が見えるからね。マオちゃんは下に行かなくていいの?」
アイスを食べ終えた私は、シリウス君のヨーヨーを借りて、両手にヨーヨーを付けると、パシュパシュパシュと交互にヨーヨーを叩いて遊びながら答えた。
「いいよ。ウォーターサバイバルって、水鉄砲で水を掛け合うみたいだし。服がびしょびしょになっちゃうもん。シャボン玉マンはちょっと気になるけど。大きなシャボン玉の中に入れるみたいだしね。でも、いいかな。今度、シリウス君、一緒にシャボン玉しようよ」
「うん。しよう」
「最近してないから、シャボン玉、楽しみ」
皆が下に降りて行き、お店の人も人が少なくなったせいか留守番の人だけになった。
「もういいかな」
「うん。よさそう」
「じゃあ、紙を出してくれる?」
「うん」
私がシリウス君の目の前に紙を出すと、シリウスが紙にゆっくりと息を吹きかけた。すると、キラキラと紙から不思議な靄が飛び出していった。
『スピカ』
シリウスが呟くと、その不思議な靄は綺麗な青白い色になって空に吸い込まれていった。
「やっぱり綺麗だね」
「よかった、無事に出来たよ」
真っ白な紙に目を向けるとは不思議な文字が前の紙と同じように浮かび上がっていた。手のひらを振って飲み込むように魔法の紙をシリウス君が消すと、シリウス君の髪の色が少し濃くなった気がした。
「シリウス君、髪の色、ちょっと変わったかも」
「ああ。魔法書が完成してきているからかな」
「そっか、よかったね、シリウス君」
「有難う、マオちゃん」
私達は屋上からシャボン玉マンや皆が戦って水を掛け合ってるのを見て楽しんだ。
夕方になり、そろそろ帰ろうかと児童館を出て、家の方のバスを待っていると、ケントがバス停の横に立っていた。
「おい」
私を呼ぶ声がしたけど無視をした。シリウス君の方を向いてケントとは顔を見ないようにしていたけど、肩をグイっと引っ張られた。
「なにすんのよ!」
パンっとケントの手を払いのけると、ケントはびっくりした顔をした後に、むっと睨みつけてきた。
「なんだよ!俺が呼んだのに無視するからだろ!」
「は?呼ばれてないけど?」
「嘘つくなよ!呼んだだろ!」
「あのね!私の名前は『おい』じゃないの!勝手に呼んで、勝手に引っ張って、なんでそんなに嫌がらせばかりするのよ!」
睨みつけながら言うと、ケントは「ぐ」っと言ったけど、今度はシリウス君を指さしてきた。
「おい!お前何者なんだよ!俺、見たぞ!お前とマオが何かやってんの!お前、大体どこの小学校なんだよ!」
「ケントには関係ないでしょ!もう、何処か言ってよ!ケント、自転車なんでしょ!バス乗らないなら向こういって!!!」
「なんで、お前、庇うんだよ!コイツ、変な奴じゃん!」
「シリウス君、変じゃないもん!ケントの方が意地悪で変!!」
「な!!なんだよ!せっかく俺が言ってやってんのにさ!」
「余計なお世話よ!」
私とケントが睨み合っていると、バスがやって来た。私はシリウス君の手を掴むと急いでバスに乗り込んでケントが見えない所に座った。
「もう!本当にケントって意地悪!!」
「……。マオちゃん、僕のせいで喧嘩しなくていいよ?」
「シリウス君は悪くないよ!ケントが意地悪ばっかり言うの!学校でも、いっつも意地悪ばかり言ってくるの。だから最近は話してないから大丈夫」
「意地悪、なのかな」
「意地悪だよ!」
バスが動き、私とシリウス君が話していると、あっという間にバス停に着いた。
「じゃあ、マオちゃん、またね」
「うん。シリウス君。またね」
バスを降りるとシリウス君は私の家まで送ってくれてその後、真っすぐ歩いて行った。
シリウス君が何処に帰っているのかも知らない。精霊だから消えているのかもしれない。
シリウス君とは夏休みに入って毎日会っているけれど、知らない事の方が多い。
でも、シリウス君は変じゃないのに。ケントはあんなこと言わなくていいのに。
「あ」
そうだ。ケントは『俺、見たぞ!お前とマオが何かやってんの!』って言ってた。
「見られた?」
私は急いで玄関から飛び出して、シリウス君を探したけど、シリウス君はもういなかった。




