竜のたまごを孵した聖女は穏やかに暮らしたい
「第5回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞」参加作品です。
キーワードはたまご。よろしくお願いします。
たまごから孵った黄金に輝く竜は私にこう言った。
「我が番よ。そなたの望みはなんだ」
そんなの決まってる。
「聖女なんてくそ重い役目捨てて、穏やかに暮らしたい」
☆
確かに私はあの時そう言った。……なのに、
「なんでこうなってるのよぉーっ!?」
巨大で豪華絢爛な城。
その玉座の間でズラリと傅く家臣達。
そして部屋の最奥にある立派な玉座に座る、黄金の髪がキラキラと眩しい美貌の男――。
その男の膝の上に乗せられた私は、首を振って今の状況を大いに嘆いた。
すると男は私を見て、困ったように眉を下げる。
「少々仰々しいのは仕方なかろう、我が后よ。そなたはこの我の……〝竜帝王のたまご〟を孵した、運命の番なのだから」
「そんなの知らなかったぁー! たまたま巡回先の村で見つけたたまごがまさか、伝説の竜帝王のだったなんて知らなかったぁー!!」
幼い頃からおとぎ話として語り継がれる、天空に住む竜人族を束ねる最強の王――竜帝王の伝説。
数千年に一度、世界のどこかに現れるらしい彼のたまごを孵すことが出来るのは、彼の唯一。運命の番だけ。
いつものようにヘトヘトになるまで祈りの力を使い、ぐったりと宿に戻る途中、偶然見つけた両手で抱えるほど大きなたまご。興味本位で孵化させ現れた、美しい黄金の竜に望みを言ったが後の祭り。
母国ではかの竜帝王の運命の番ということで、捨てたかった聖女よりも重い大聖女へと立場が上がり、更には天空にそびえる巨大な城に連れられ、竜帝王の后という肩書きまでついてきた。
「こんな筈じゃなかった! 私は平々凡々な田舎で穏やかなスローライフを送りたかったのにぃー!」
私の望みを叶えるって言った癖に嘘つき! と、ポカポカ逞しい竜帝王の胸を叩いていると、美貌の男は不思議そうに首を傾げた。
そして私の髪をサラサラともて遊び、思案する。
「嘘つき? 我が后は望み通り、聖女の役目から離れられたのではないのか?」
「う」
確かに肩書きは大聖女ではあるけど、普段天空の城で過ごす私に祈りの力を使う機会はない。
「それに今、穏やかに暮らしてはいないのか?」
「うう」
竜帝王の甘く蕩けるような表情に言葉が詰まる。
彼の視線の先、私のお腹……。
「……ま、まぁ、嘘つきは言い過ぎたわね」
私はまあるく膨らんだお腹を撫で、頬を赤らめた。
☆
いくつかの大層な肩書きはついたものの、今私は素敵な旦那様に愛され新しい命の誕生に心待ちにし、幸せに、そして穏やかに日々を過ごしている――。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




