きっと今、私の頬は金魚より赤い。
「第5回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞」参加作品です。
キーワードは金魚。よろしくお願いします。
「あ」
ポイが破れて、真っ赤な金魚が水槽の中へと泳いでいく。
「あー残念お姉さん。取れた金魚はゼロやなぁー」
困ったように笑う金魚すくい屋のおじさんに、私も苦笑して頷く。
私って冴えないなぁ。そんな言葉は飲み込んで。
「はぁ……」
屋台を後にし、夏祭りで賑わう人混みを歩く。
周囲に視線を巡らせれば、一人で歩いているのは私くらいしか居ない。
『ごめん、結衣。他に好きな子出来たから、別れよ』
『ごめんね、結衣。アンタの彼氏取るつもりはなかったんだけどさぁ』
大学デビューと意気込んで、東京の大学に入学して早二年。
必死にオシャレを頑張って、陽キャの輪に入った結果は大惨敗。
バカだなぁ、私。
「……っい!?」
上の空だったせいか、ドンっと背中に人がぶつかって、私は倒れ込む。
「チッ!」
苛立ったような舌打ちがやけに鮮明に耳に残った。
ああもう、本当に私冴えてない。
帰省した金沢でやってた夏祭り。来てしまった理由は、少しでも心の傷を癒したかったからだ。
でも、来るべきじゃなかった。じわりと涙が溢れる。
「――結衣ちゃん!?」
その時誰かが慌てたように駆けてきて、私はハッと顔を上げた。
声の主は懐かしい人物だった。
「郁人……くん?」
同じ塾に通っていた、受験仲間。
「どうしてここに?」
「それはこっちの台詞やわ。俺は友達とたまたま来とっただけ。金沢来てんなら、連絡してくれりゃよかったんに。ほら、立てる?」
そう言って郁人くんは私の手を引いて、人混みから連れ出してくれる。
すると誰かが彼を呼んだ。
「呼んでるけどいいの?」
「いい。泣いてる結衣ちゃんこのまま放っとけんもん」
何それ、今私にそんなこと言わないでよ。
「大学デビュー、上手くいかんかったん?」
郁人くんには東京の大学に入ったらしたい夢をたくさん話した。私の様子から色々察したのだろう。
「……うん」
あーもう、なんか情けな。必死で直した標準語も止めだ。
「そうや、今傷心。やからそんな優しくせんといて。私勘違いするやん?」
冴えない私。バカでしょと、冗談めかして笑う。
……なのに、
「いいよ、勘違いして」
その言葉に、時が止まった気がした。
「俺、ずっと好きやもん」
「は……」
驚いて郁人くんを見れば、彼もまた私を見ていた。
じわじわと頬に熱が溜まっていく。
「なんやそれ……、ずっとなら早く言ってや」
「結衣ちゃんの夢、壊したくなかってん」
くしゃりとした笑顔にドキンと心が動いた。
きっと今、私の頬は金魚より赤い。
最後まで読んで頂きありがとうございました。