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第13話 JKとダンジョン

「あ、おはようございます。お師匠(ししょう)さん」

「……おはよう、(にわ)さん」


 早朝だ。

 安アパートのドアを開けるとやたら見た目がいい美少女が出待ちしていた。


 夏らしい涼し気なワンピース。きれいに切りそろえられた黒髪が肩上で揺れる。まっすぐな瞳が、寝起きの俺の顔をガン見していた。


「今日もあなたのマツリカが参りました、よ」

「間に合ってるって言わなかったっけ……」

「いろいろと利点は多いのです。このように朝起こしに来たりできますし。あ、ごはんの用意しますね」

「ほんっと、マジで話聞かないないよね、きみ」


 岩戸開けの配信から、数日たっている。

 今、ガサガサとスーパーの袋を持って家に押し入ろうとしているこの子は、ケルベロスの一件で知り合った女子高生探索者、(にわ)マツリカだ。

 

 俺の乱入で命を助けられたというこの子は、直にお礼が言いたいとのことで、受付のお姉さんこと三間坂(みまさか)シィさんを通して、俺に接触してきた。


 そしたら――


『感動しました。弟子にしてください』


 ときたもんだ。


 この令和の時代に弟子だ師匠だなんて仰々しい。もちろん断ったのだが、彼女は納得しなかった。それからというもの、こんな風に毎日家までやってきては、しつこく要求してくるのだ。


「……やはり人の気配はしませんね」


 庭さんは、俺のボロアパートを見回す。ワンルームのかび臭い部屋だ


「お師匠さんは、妹さんがおられると聞いてたのですけど」

「ああ、サクラは入院中なんだ。小さいころから体が弱くてな」

「入院……、そうですか」


 ならばいいです。邪魔者はいない。好都合……なんてぶつぶつ言いながら、手早くエプロンをつける。


「卵焼きと、鮭を買ってきました。朝ごはんは和風が一番……、ですよね」


 振り返った庭さんは、何がうれしいのかにんまりと笑っている。


 ◆◆◆


 バズると人生はどう変わるか?

 答えはそんなには変わらない。少なくとも普段の生活はな。


 日本にはたくさんの人間がいる。探索者配信は人気のコンテンツだが老若男女すべての人が見ているわけじゃない。東京大洞穴の深淵(アビス)層が開放されたというニュースは大々的に報じられはしたものの、開放した個人の名前まで気にする人はそう多くないんだ。


 したがって、俺が街を歩いていたって、気に留める人はいない。


 ――わけでもない。


「聞こえませんでした? もう一度言いますね。私を、弟子に、してください」

「それはだめだって言ってるだろ!」

「なぜですか? 納得できる理由を求めます」

「前にも言っただろ。俺は弟子とかなんとか、そういうのはしないの。責任持てないしな」

「責任は私が取ります。私が、それを求めているんです」

「押し強……。それでもダメだよ。何度も断ってるんだから、そろそろ諦めて」

「諦められないので、繰り返しお願いしています」

「くどい」

「そこを何とか」


 弟子にしろと繰り返し訴える庭さんが目立つ。

 もともとめったに見ない可愛い子だ。連れて歩いているだけで道行く人がちらちら振り返る。痴話(ちわ)げんか? 昼間っからやーねーなんて、ひそひそ。


「お師匠さん」

「その呼び名やめようか……」

「では、アサヒ様」

「なんで様なんだよ」

「なんでもしますから、許してください」

「人聞きが悪いわ!」

 

 足早に代々木公園ポータルに急ぐ。木漏れ日さす公園の一角には、一見避難シェルターみたいなコンクリート建ての建物があって、そこが東京が誇るダンジョン【東京大洞穴】の入り口の一つになっている。


 この時間はまだ人はまばらだな。

 庭さんみたいに夏休み期間に集中的にダンジョン配信をする人も多いが、さすがにこの時間は閑散(かんさん)としている。だが、社畜根性が染みついた俺は午前中からしっかり働くのだ。


 あの配信ではかなりのお金が手に入ったが、継続的にやっていかないと生活に困るからな。人間は仕事をしなくちゃ生きていけない。


「あのクレチャは返金しなくてよかったのですが」

「リアルの知り合いにあんな大金もらえるかよ。ていうか、あんなお金の使い方したらダメだぞ」


 庭さんが投げてよこしたクレチャ(全部で数百万あった。女子高生がそんな大金を? 配信探索者(ラビリンチューバ―)恐るべし)は全部返した。

 受け取ってしまうと、庭さんのいうこと全部聞かなきゃいけなくなる気がしたしな。「推し活なのに……」と悔しそうな庭さんは無視した。

 

「おはようございますー。アサヒさんとー、マツリカさんー。今日も一緒にご出社なのですーねー」

「はい。私は、お師匠さんの弟子ですから」

「ふふふ~、師弟仲良くて素晴らしいですーねー」

「俺は認めてないですからね」

「いえいえ。アサヒさんのようなベテランさんに、後進の指導をしてもらえると、運営側としてもとーっても助かるので~」

「ほら、DDDMも公認ですよ」

「なんで勝手に……」


 ニコニコと笑顔でうなづくシィさんと庭さん。


「アースさんと、マツリカさんの新装備、メンテナンスが終わってますから、整備部で受け取ってくださいね~」


 これはすでに裏で結託されてるとみるべきだろう。


 

 ◆◆◆


 ――――――――――――――――――――――

 -お、アサヒニキの配信キター!!

 -今日もマツリカちゃんいるじゃん

 -師匠・弟子ムーブ助かる

 -斎藤アサヒ タヒね タヒね タヒね タヒね

 -今日は何するん?

 -深層でのんびりだろ。深淵(アビス)層はまだ安全確認が取れてないらしいからな

 -安全確認とか……。アサヒニキにそんなもん要らんだろ

 -裸で投げ込んでも生還しそうな男

 -同時接続やば、まだ午前中なのだが?

 -マツリカちゃんのファンも居るからなー

 -ハル・リカはしばらく配信なし???

 -ハルカちゃんが実家にガン詰めされてるらしいからなぁ。あの子、京都の名家のお嬢さまやで

 -マジで死にかけたらしいし。しばらくダンジョン禁止食らったって

 -ハルリカのファンはこっちで補充やな

 -アサヒ要らない アサヒ要らない アサヒ要らない――

  ――――――――――――――――――――――


「今日も大盛況だな」

『アサヒが人気でアースも大満足です』


「…………」

「ねぇ、庭さん何してるの……?」

「いえ、自分のドローンからクレチャ投げようかと、朝クレチャ。朝推し活」

「また返金する手間が増えるだけだからやめろ!」

「『目の前で推しの戦い見れるとか最高か?』」

「押しかけてきたのは君だけどな」

「まぁまぁ、これも運の尽き。私という推し活モンスターに狙われたからには、あきらめてください」

「なんか、釈然としねぇ……」

読んでくださりありがとうございます。

面白いと思っていただけたなら、下の☆☆☆☆☆から、作品への評価をしていただけると励みになります。ブックマークしていただければ、更新がすぐわかりますのでぜひぜひよろしくお願いします。


楽しいお話を書いていくつもりですので、今後ともご贔屓に。

千八軒

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