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27 何れ来る終焉4

『――質問』

「……喋ったくらいじゃもう驚かんぞ」


 ターミナルからの問いかけ。

 低い、男の電子音声。勝手に女性体だと思い込んでいた仁はその点については少しだけ驚いた。

 

『喋っただと……?』

「鏡見てこい」


 対照的にエーデルワイスは驚いている様だった。

 同族で知性を持つ相手というのを見た事が無かったからだろうか。

 

『その武装は――ハーモニックレイザーか』


 答える必要はない。

 敢えて敵に情報を渡す必要も無い。

 だけど仁は何故か答えてしまった。

 

 相手の口調が質問ではなく確認だったからかもしれない。

 それに――


「ああ。そうだよ。元はアンタのだって言うのは本当らしいな」


 どうせ元のスペックは全て相手に把握されているのだ。

 大した情報にもならないだろう。

 

『理解。解答に感謝する』

「……エーデルワイス。お前アイツが喋るって知ってたか?」

『……いや』


 躊躇いの後否定が返ってきた。澪には改めて聞くまでも無いだろう。何しろ彼女は同族の事すら碌に知らない。

 

『少なくとも我の知識の中には無い』

「コイツとも、コミュニケーションが取れるなら――」


 お前らみたいに交渉の余地があるのではないかと。

 その意図が相手にも通じたのか。

 呻き声の様な思念が伝わってくる。

 

 相手の考えを読み取らない様にしても表層はどうしても重なってしまう。

 

 仁の思い付きとも言える考えに対するエーデルワイスの反応は非常に分かりやすく反対だった。


『警告。当機の優先事項第二位はクイーンASIDの討滅――翻って、全ASIDの殲滅である』


 続けられた言葉にエーデルワイスが戦闘態勢に入る。

 遠回しにではあるがお前を殺すと告げられたのだから無理も無い。

 澪の躯体からも怯えた気配と立ち向かおうとする気配を同時に感じる。

 

 守が澪を守ろうと一歩前に出たのだ。

 無論仁とてそれは同じ。思考が戦闘に切り替わる、瞬間。仁にはその前に言われた事が気になった。

 

 この何れ来る終焉は。

 宇宙を滅ぼすと言われた存在の端末は。

 今警告と言ったのだから。

 

『直ちに退去せよ。当機の最優先事項はドライバー、並びにその候補者の保護。延いては全人類の守護である』

「……おいおい」


 余りに想定外の言葉だった。

 あれだけ散々に宇宙規模の危機だと聞かされていた相手からのまさかの守護宣言だ。

 驚くなと言う方が無理である。

 

「どうなってんだこれ」

『我にも分からぬ』


 本気の困惑がエーデルワイスからも返ってくる。

 彼女にとっても想定外なのだろう。

 その反応で少なくともエーデルワイスは何れ来る終焉が宇宙を滅ぼす存在だと信じていた事になる。

 

『繰り返す。ただちに退去せよ。当方の武装は、殲滅を企図した物。ドライバーを保護したまま討滅する事は困難である』


 要するに、エーデルワイスと澪だけを撃破したいから降りろと言っているのだ。

 

「……一つ質問だが――お前からするとこいつもASIDなのか」

『肯定する。当機のセンサ類はあらゆる情報がそちらをASIDとして認識している。直ちに退去を。或いはコアユニットの停止を。アシッドフレームは当機の守護対象である』

『……アシッドフレームとは何だ?』

「人間が随分昔に使っていた機動兵器だよ……何なんだコイツ」


 来歴が全く分からない。

 テルミナスの民の母星起源だと思っていたが、今の発言は寧ろ人間の、地球でなければ得られない情報だ。

 テルミナスの民はASIDをハグレと呼ぶ。あれをASIDと呼ぶのは人類だけだ。

 

 このまま対話を続けるのも一つ、謎が解けそうではあるが――。

 

 このターミナルはエーデルワイスを、テルミナスの民をASIDだと言った。

 殲滅対象だと言った。

 

 その目的はクイーンタイプの討滅だと――澪の殺害だと言った。

 

 ならば、敵だ。

 人類を守護するという言葉が真実であったとしても、その中に娘が含まれていないのでは意味がない。

 

 百年後の人類がどう思うかなんて知らない。

 百年前の人類がどう思ったかなんてどうだっていい。

 ただこの瞬間、今を生きる仁にとって、ターミナルは敵だった。

 

「警告には感謝するよ。だが――あんたの目的を果たされると俺の目的が果たせなくなる。ここで潰えろ。終焉」

「良く分かんねえけど、人の事情も知らずに全部一括りにすんなよな!」


 守も吠えた。いくら何でもテルミナスの民までASIDと纏めるのは余りに乱暴だ。


 それに、直前までの行動を見ていると相手の言葉を鵜呑みには出来ない。

 あの時のターミナルに人類への配慮があった様には思えなかった。

 

 今の言葉が嘘だとは思えないが――やはり信じられない。

 その為の積み重ねが無い。


『警告失敗。対象人物をASIDへの協力者と断定。保護対象から除外――これより殲滅する』

「来るぞエーデルワイス!」

『案ずるな東郷仁。我は先ほどから臨戦体勢だ!』


 先ほどまで感じていた動きの重さが無い。孔からエーテルは漏れ出しているのだが、ターミナルはそれを活用できていない様だった。

 不思議な事に、ターミナルもライテラの前でやっていた様な周囲のエーテルを取得はしていない。

 ただ己のリアクターのみで戦いを挑んできた。

 

 その出力は――やはり2000ラミィ程度。

 まるでその辺りに一つのリミットがあるかのようだった。


 失った装備の代わりに、背部から伸びた武装を両の手でそれぞれ握る。

 

 脇下を潜って伸びて来た砲身はエーテルカノン。

 そして肩越しに引き抜いたのは――長剣。

 その正体に気付いた仁が僅かに頬を引きつらせる。

 

「……おいおい」

『面白い』


 戦意の高いエーデルワイスは、相手の武装を見てむしろやる気を高めている様だったが。

 

『実を言うとだ東郷仁。我が太刀が模倣だというのは少しばかり気に入らなかった』

「そうか」

『こうして――我が太刀こそが真なるハーモニックレイザーであると名乗りを上げる機会を欲していたのかもしれない』

「そりゃあ、良かったな」


 場違いにもワクワクしているという気配を漂わせているエーデルワイスへ気の無い返事をしながら仁は相手の動きを観察する。

 

 近づけば長剣――ハーモニックレイザーが。

 距離を取ればエーテルカノンが。

 

 遠近隙が無い。

 エーテルバルカンとエーテルダガーも隠し持っている。

 

 対してこちらはハーモニックレイザー一本。

 

 別に文句はない。

 無いのだが――この終焉の模倣だというのなら武装も模倣して欲しかったとちょっとだけ思う。

 

『む、東郷仁。我が太刀に何か文句でも?』

「いいや、別に。この位。良いハンデだろ? 俺達には」


 武装の豊富さが勝負を分かつ訳ではない。

 乗り手の腕こそが最後の決め手だ。

 

 呼吸を止める。

 息をすることで生じる僅かな肺の動き。

 

 それが操縦を乱す事を恐れた。

 最初の一太刀。

 

 最高精度の一撃を決める。

 

 段々と仁もこの武装の使い方に慣れて来た。

 要はエーテルの武装と同じだ。

 その空間振動を研ぎ澄ます。

 闇雲に周囲を切り裂くのではない。

 

 その刃は薄皮一枚の厚さがあればいい。

 代わりに、何物でも防げない、無敵の刃を。

 

 長期戦何て考えていない。

 一撃で決める。

 

 だがその為には。

 それを成すために必要な生贄が――。

 

『構うな』


 躊躇いを察したエーデルワイスがその背を押す。

 

『お前たちと同じだ。プロセッサーさえ無事ならば他は修復できる!』


 その声で決断した。

 

 交錯。

 

 両者の立ち位置が入れ替わった。

 援護しようとしていた守が介入する余地もない。

 

 勝負は一瞬で終わってしまった。

 

『警告。当機と同等の機体は無数に存在すると考えられる』

「興味ない」


 エーデルワイスの片腕が切り落とされた。

 澪の押し殺した悲鳴が聞こえる。


『当機と再び遭遇した場合は――速やかな撃破を。当機が介入できるかは不明である』

「言われなくてもそうする」


 ターミナルの躯体に線が走った。

 頭部から股にかけてまで一直線に。


『最終質問。人類はASIDと和解したのだろうか』

「……少なくとも、手を取りあえる相手もいるんだって思えた」


 その線を基点にズレが生じる。

 右半身と左半身が分かたれていく。


『――了解した。当機は終焉の阻止に注力する』


 その言葉を最後に、ターミナルは爆散した。

 それを尻目に仁は呟く。

 

「あんまりややこしい事を言うな……俺は頭脳労働担当じゃないんだから」


 ゾッとする程滑らかなエーデルワイスの腕の断面を見て仁は小さな声で謝る。

 

「すまん、他に勝つ手を思いつけなかった」

『構わぬ。お前と交戦した時はもっと痛めつけられた』

「そう言えばそうだったな」


 そうして残されたターミナルの残骸。そこから健在な長剣を見つけ出してエーデルワイスが満足げな声を出す。

 

『それに、思わぬ戦利品もあった。我としては満足だ』

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― 新着の感想 ―
[一言] >「喋ったくらいじゃもう驚かんぞ」 と >『喋っただと……?』 >「鏡見てこい」 のやり取りがめちゃくちゃつぼったwww
[一言] 吃驚しすぎて感想書き忘れてました(^-^;) これはヴィクティム? ヴィクティムの同型機? やっぱり終焉機、最後まで読んでからにすればよかった(。>д<) ヴィクティムはどうなったの!? …
[良い点] ロボット物なのに武士みたいな 決着の付け方しとる!w かっけぇ! エーデルワイスさん、元がASIDだから 女性型だろうに男前過ぎません? 死ななきゃ安いを提案するとか。 [一言] もしかす…
2020/06/02 20:22 退会済み
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