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26 何れ来る終焉3

 やはり今のままでは厳しい。

 

 だが第三船団は皆未だ動き続けているライテラが作るもう一つの未来に囚われている。

 あそこから自力で脱出するのは容易ではない。

 

「テルミナスの戦士たちは……」

『無理だ。あの高出力のエーテルの波を間近で受けた。復旧には今しばらくかかる』


 となると、援軍は居ない事になる。

 澪をここに連れて来ても素人同然の彼女では戦力に数えられない。せめて少しでも戦闘のイロハが分かっていれば或いは――。

 

 結論から言うと、仁に援軍は無い。

 故にこの綱渡りの様な攻防を続けるしかない。

 

 だが停滞では意味がないのだ。

 

『回転速度がコンマ1だが増加した』

「加速、してるのか」


 それはほんの僅かな違い。

 場合によっては観測誤差として見過ごされてしまいそうな程に小さな値だ。

 

 だが確かに加速している。

 この宇宙を巻き取ろうとする動きが早まっている。

 

 流石に宇宙規模だ。後数秒でどうなるという話ではないのだが仁達には明確なタイムリミットがある。

 

 そちらに気を取られた隙をターミナルは突いてくる。

 状況をフラットにするのではなく、己の側に傾かせようとし始める。

 攻勢に転じたターミナルの突きは、いずれも必殺を企図した物。

 

 リアクターを、エーデルワイスのプロセッサーを、そして仁の居るコックピットを。

 長剣を振るい、拳で弾き、足捌きで躱し。

 致命の三段突きを今度もどうにか凌いだ。

 

 久方ぶりに感じる死線に仁は冷や汗を流す。

 

「こいつ、俺に気付いているのか」


 何れも破壊された瞬間に、今のエーデルワイスを維持できなくなる。

 リアクターを破壊されたら戦闘が継続できない。

 プロセッサーを破壊されたらこの躯体は制御できない。

 コックピットを、仁を殺されたらそこに寄りかかっている今のエーデルワイスは死に至る。

 

 だが前者二つは兎も角最後の一つを何故見破ったのか。

 或いは、と仁は思う。

 

(こいつの知っている敵はそう言う構造だった……?)


 その是非はセブンスに聞くしかない。

 それよりも問題は、最早均衡状態を保つのも難しくなってきた事だ。

 

 かくなる上は、と仁も覚悟を決める。

 

 乾坤一擲。己の全霊を賭してこのターミナルを討つ。

 

 長剣を構える。


「ハーモニックレイザー」


 その武装の名を唱える。刀身が展開して、内部構造が露になる。

 剣の形をした、空間振動兵器。

 真の姿とも言えるそれを晒した瞬間、反応は劇的だった。

 

 ターミナルが大きく距離を取ったのだ。

 警戒しているのは明らかだった。

 

『やはり、知っているのか』

「元は終焉の物って話は正しいみたいだな」


 知らなければ出来ない反応だった。

 最大限の脅威を前にターミナルは。

 

 ぶらさげたままの右腕を構えた。

 

「どう見る。あれ」

『……超広範囲に影響力を及ぼせる空間干渉兵器。としか言えないな』


 数光年先まで被害を齎すような規格外。

 まともにぶつけてはこの剣とて叶うかどうか。

 

『ハーモニックレイザーは全力運転をさせれば空間さえも切り裂く事が出来る。それならばあの槍とぶつかっても何とか耐えられよう』

「逆に言うと全力運転していない状態でぶつかるとダメって事か」

『恐らく。我ら諸共に絡め取られる』


 何とも末路が想像しにくい話だった。空間の歪みに絡め取られたらどうなるのか。

 その結果に興味はあるが、自分の身で試そうとは思えない。

 

 左腕での剣戟は今となってはジャブの様な物。

 だがそれとて必殺。

 それらを牽制としての右腕の大本命。

 当たれば絶死の一撃を、仁は余裕を持って躱す。

 

 紙一重を狙おうとすれば、その瞬間に終わるのだと直感が教えてくれた。

 

「……狙うは、槍の太刀打ち」


 穂先以外の腹とも呼べる箇所。あそこならば干渉能力も少ない筈。

 そこにハーモニックレイザーの全力を叩き込めば勝機はある。

 

 のだが。

 仁にとっては看過しがたい問題があった。

 

「やっぱり実体剣はダメだな。重さで機体がブレる」

『よし。その件については後で話し合おう』


 愛用の武器を貶されてエーデルワイスは少々ご立腹の様だったが――多少己に調整を加えた様だった。

 剣を振っても躯体が流されない様に各部のアクチュエーターへ回すエーテルを増やした。

 

「助かる」

『代わりに一撃で仕留めろ』


 中々高い要求をぶつけられたことに苦笑しながら。

 その脱力のまま飛び込んだ。

 

 相手の虚を突けたのかどうか。

 顔色すらうかがえない相手からは仁も読み取れない。

 

 だが確かな事は一つ。

 

 その穂先は――真っ直ぐにハーモニックレイザーの刀身、その腹目掛けて振るわれていた。

 

(こいつの狙いも……!)


 同じ、武器破壊。

 唯一こちらで脅威となる存在を真っ先に潰しに来た。

 判断の速さに驚くが、ここからは寧ろ仁の腕の見せ所だ。

 

 一秒を何分割もして、引き延ばされた感覚の中で、機体を己のイメージに合わせていく。

 そのイメージはエーデルワイスの共有できている。

 仁が動きやすいように、躯体の各所が動く。

 

 ターミナルもそれに合わせて細かく動く。

 ある種、陣取りに近いような動きになる。

 僅か一秒の間で交わされた攻防。

 

 互いが互いの武器の破壊を狙ってのやり取り。

 それを後から見せられて理解できる者がどれだけいるのだろうか。

 

 その最中で仁は悟る。

 

(一手足りない……!)


 ターミナルが先んじて動いた分、仁の対応が遅れた。

 無防備な剣の腹を狙って穂先が突き立てられる瞬間。

 

 両機だけがいた世界に割り込んでくる存在。

 予想外の展開に仁も、そして正面の敵に注力していたターミナルも一瞬動じた気配を見せる。

 

(澪!?)


 その躯体から伸びた髪が、ターミナルの槍を全身を締め上げた。

 仁と対峙しあっている一瞬の隙を突いた拘束。

 その機の盗み方は偶然だって澪には出来ない。

 

 ならば必然、それを行ったのは澪以外の誰か。

 守の問いによって、エーデルワイスと同じように自分の躯体を守に操縦させることを思いついた澪の妙手。

 戦力外だった二人が、この盤上においてジョーカーに化ける。

 

『一発、かましてやったぞ。この野郎……』


 ほんの一握りだけが入ってこれる領域の戦いに、たった一回だけの援護。

 東谷守という男が、紛れもない己の力を示した瞬間。

 

 絡み付いたワイヤーはそのまま輪切りにしようとするがコーティングの強度を破れない。

 澪の髪、ワイヤーとて生半可な威力ではない。

 高速振動するエーテルを流し込まれたワイヤーはエーデルワイスのハーモニックレイザーに一本一本の威力では劣る。

 だが束ねるなり編むなりすればその威力は条件次第では上回る。

 

 それを易々と防ぐターミナルに澪の方が驚いている。

 どころかそのまま髪諸共澪を巻き取ろうとするが、遅い。

 

 常人には目にとめる事すら出来ない戦いの果ては――。

 

 ハーモニックレイザーが、槍を両断する。振り下ろされた刃が相手の空間干渉の薄い部分を断ち切って、本体にまで到達する。

 

「よし!」


 狙い通りの一撃に仁は快哉を叫ぶ。


『収縮も止まった……やったな』


 エーデルワイスの言葉にもどこか弾むような色があった。

 宇宙規模の現象。それも停止した。

 

 という事はつまり、やはりあの武装が原因だったという事だ。

 恐ろしい話である。ゆっくりとではあるが宇宙滅亡までの時間が刻まれていたというのは。

 

 ASIDと同列の存在ならば、あの武装も再生するかもしれない。

 

 だがその隙も与えずに攻め続けることが出来れば。

 いや、と仁は思いなおす。

 出来ればではない。

 

 しなければ行けない。そうしなければ人類にとっては滅亡の道しかないのだから。

 

 破壊された槍が脱落し、その下の腕部が露になる。左右対称の姿。

 即ち、あそこにも恐らくは同じようにエーテルダガーがあるのだろう。

 その腕を、見慣れない物を見るかのようにターミナルは青いカメラアイで見つめていた。

 

 まだ澪のワイヤーが巻き付いている内に止めを、と次なる一撃を繰り出そうとする。

 渾身の一撃からつなげる一閃としては上出来だろう。流れを切らさずに返された刃は、これ以上を望めない。

 

 だが避けられた。

 ワイヤーを力任せに引き千切り、自由を取り戻したターミナルは大きく飛びのいて距離を取った。

 

 最早拘束は存在しない。

 

「今度は両腕か……」


 完全フリーになったターミナルを見て仁は呟く。

 片腕で互角だった相手が両腕を使ってくる。

 だが今度はこちらにも援護の手がある。

 少なくとも足手まといにはなるまい。そんな事を考えていた仁の耳に声が届く。

 

『――質問』

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― 新着の感想 ―
[一言] 『――質問』 『お前が壊したあれ、いくらしたと思う?』 多分コメ欄大喜利大会
[一言] シャベッタァァァァァ!! 彼氏は力を見せたようだが、父親はそれを認めるのかな!?
[一言] とーや君、婚前交渉() ってシャベッタァァァァァ⁉︎ 誰が聞いてきてるのか……ん?そういえば黒の方でレゾナンスを動かしてたのは……
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