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04 宇宙を変える力2

「なんで、ここにいるの……?」

「今言っただろ。遊びに来たんだよ」

「そうじゃなくて……!」


 少し苛立った様子の澪を見て守は寧ろ笑う。

 察しが悪くて、ちょっとズレて居る姿は記憶のまま。


「ここ、危ないんだよ」

「知ってる」

「なのに何で来ちゃったの!」

 

 安心したと心中で呟く。

 数十日会わずにいたが――彼女はまだ東郷澪でいてくれた。


 機体を澪の本体へと寄せて、コックピットハッチを開放する。

 

「おーい。出て来てくれよ」


 後ろではメイが命がけの時間稼ぎをしているはずだ。

 本当は急ぎたい。

 だけど、メイにも言われた。

 澪を急かしてはいけない。

 

 守はここに、義務感で来たわけじゃないのだから。

 

「色々と預かり物とか伝言とかあるんだから、そんな引き籠られてたら困るんだよ」

「ひ、引き籠って無いし!」

「いやでもさ……何かこう過去を変える! とか言って飛び出した割に今やってることは引き籠り以外の何物でもないと言うか……」


 半分位勘で言ったのだがどうやらそれは図星だったらしい。

 妙な呻き声と共に黙ってしまった。

 

 まあいいや、と守は開き直った心境で、開いたハッチの上に腰かける。

 遠くで、戦闘の音が微かに聞こえてくる。

 

「……上手く行かなかったの」

「そうなのか」


 まあそもそも守は澪がどうしようとしていたのか知らない。

 澪曰く、自身は仁の婚約者であるところの令さんとやらの生まれ変わりであるだとか。

 そんな状態は不自然だから令さんを生き返らせようとしているだとかは知っているのだが。

 具体的にどうするつもりだったのかは知らない。

 

 だから相槌もこんな無難な物になる。

 

「私ならうまくやれるって思ったのに。土壇場でアイツに出し抜かれちゃった……」


 アイツ、というところに常の澪からは感じられない憎々しさが垣間見えて、ちょっとおかしい。

 こいつにも嫌いな奴がいるんだなと少し意外に思った。

 まあそれはそれとして。

 

「いや、それは自分を過大評価しすぎじゃないか……?」


 どうしてもそれだけは口を挟みたくなった。

 

「どういう事?」

「そんな自分ならうまくやれるって……お前結構肝心なところでドジするタイプじゃん」

「…………え?」


 心底意外な言葉を聞いたと言うように。

 澪は呆然と聞き返した。

 

「だってさ、最初に会った時からして勝負に勝つために顔面から木に突っ込むような奴だし」

「あ、あれは勝つための戦略だし」

「ドッヂボールしてた時も顔面受けするし」

「ルールがいけないんだもん!」

「中等学校では鍋食おうとするしさあ」

「校則では禁止じゃなかったもん!」

「後お前気付いてなかっただろうけど階段上る時スカートもっと気を付けろよな……」


 ついうっかり、守も言うつもりが無かった事を口にしてしまった。

 

「とーやくんのエッチ!」


 流石に聞き捨てならなかったのか。

 澪も本体の中から涙目で飛び出してきた。

 

「いや、見てない見てない。カーマインの奴が全力でガードしてたから」


 嘘である。

 一回うっかり見てしまって後でエミッサから記憶が無くなるほどしこたま殴られた。

 ちなみに視界スクリーンショットは出来なかった。


 弁明しながら、飛び出してきた澪の手を掴む。

 そこで己の失態に気付いたのだろう。

 澪も逃げ出そうとするが、もう遅い。

 単純な膂力勝負で澪が勝てたのはもう五年以上は前の話だ。

 

 訓練生として鍛えた今の守の手を振り払えるほど澪は屈強ではない。

 

「それにほら。ちょっとからかわれたらすぐに飛び出してくる」

「むう……」


 こうしてまんまとつり出されてしまったので否定も出来ず澪は唸る。

 

「ほら、これジェイクさんからお弁当」


 フリーズドライ方式の弁当箱を取り出して、澪に手渡す。

 

「お、お腹空いてないし」

「嘘つけ。お前腹減ると髪の毛萎れんだぞ」


 その言葉に澪は反射的に己の髪に手をやって。

 

「萎れてないよ! 嘘つき!」

「ああ、嘘だ。そんでもって嘘つきはもう一人見つかったな」

「あう……」


 この短時間で二度もやり込められて、澪は唸る。

 

 奇妙なピクニックだった。

 唸りを上げるライテラの頂上で。

 澪と守はアサルトフレームのコックピットハッチの上で弁当を広げる。

 

 戦闘の振動はまだ伝わってくる。メイは持ちこたえている様だった。

 

「相変わらずあの人の飯美味いよな。先輩から俺が入校するちょっと前まで訓練校に居たって聞いてすげえ悔しかったぜ」

「うん、ジェイクのご飯は美味しい……私の師匠だし」


 上手に保存されていた弁当は出来たての様な美味さだった。

 ジェイクは澪の分だと言っていたが、量的にはどう見ても二人分ある。

 その気遣いを有難く守も受け取る。

 

「それからこれ、カーマインと長谷川から誕生日プレゼントだって」

「二人、から……?」


 髪飾りと、栞と本のセット。

 それを見て澪はまた涙をあふれさせる。

 

 守は覚えていない事だったが――髪飾りと栞はエミッサと雅の二人が初めて澪に送った誕生日プレゼントと同じ物だ。

 

「二人とも怒ってたぞ」


 そう言うと、澪は怯えた様に身を竦める。

 ある意味予想通りの反応に、守は少しだけ笑みを浮かべた。

 

「怖がるとでも思ったのかって長谷川の奴が。カーマインは思い込みが強いだってさ」

「……え?」

「それから卒業旅行の行先、決められなくて困るから決めて来いってさ」


 言いながら仮想ディスプレイに表示した広告を澪にも送り付ける。

 

「ちなみに俺も荷物持ちで行くことになったから。飯美味い所が良いな」

「……それ、だけ?」

「ああ、あと良く分からないんだけどカーマインがあの写真を俺に見せるだとかなんとか」

「エミッサ消したって言ってたのに!」


 顔を真っ赤にして悲鳴をあげる澪。

 

「……戻ってこいよ。みんな待ってる」

「………………ダメ。私にはやるべき事があるんだから」


 随分と長い沈黙の末に、澪はそう絞り出した。

 

「やりたい事じゃなくてやるべき事かよ」

「だって、私はおとー……仁の幸せを奪った」


 表情に浮かんでいるのは強い自責の念だ。

 澪はずっと自分を責め続けている。

 そこに澪の意思が介在する余地何て無かったと言うのに。

 

 令が死んだのは、スタルトのせいだ。

 澪が生まれたのは、セブンスのしたことだ。

 

 だと言うのに澪はその二つに在りもしない責任を取ろうとしている。


「東郷の親父さんの婚約者の事か?」

「知ってたんだ」

「まあ概略程度は」


 知っているからこそ。そして関係のない人間だからこそ言える。

 

「だったら分かるでしょ……私は、仁から本来あるべきだった生活を奪った」

「その本来あるべきってのが良く分かんねえんだけどよ」


 何と言うか、何時も通りの澪だなと守は思う。

 なまじ頭がいいので自分で結論を出せてしまう。


 そして今回はその結論を後押しする存在がいたのが今回の騒動における不幸か。

 顔も知らない相手だが、守もハロルド・バイロンが嫌いだった。


「その本来あるべき生活にお前は居るのかよ?」

「……居ないのが、正しいの。仁と、令さんの元には偽物じゃない二人の子供が居て」

「だと思った」


 そこに澪は居ない。

 それだけで守にとっては澪の言う本来あるべき姿がくだらないものに思えた。

 

 だから守は今ここにいるのだ。

 

 彼だけ意識を失わなかった――つまりは今重なっている可能性の世界に心奪われなかったのはそこにどうしたって彼の願う人はいなかったから。

 

「なあ、東郷。お前本当にそんな世界にしたいのか? 自分が居ない世界に」

「そうだよ。私はそうするべきなんだから」

「……お前現代文のテスト苦手だっけ?」


 したいかどうか聞いているのに、澪はするべきとしか答えない。

 いや、それこそが澪の本心なのだろう。

 

 無意識であろうが――これは澪の願いではなく義務感でしかない。

 

「俺はお前がしたい事を聞いてるんだよ。するべき事じゃなくて」


 ずかずかと、守は澪の心中へ土足で上がり込んでいく。

 この遠慮の無さは逆に仁では難しかっただろう。

 どうしたって、仁は澪を大事に扱ってしまう。

 

 そのある種宝物の様な過保護っぷりを見ている守としては、こんな勘違いをしている澪が歯がゆくて仕方ない。

 仁が、澪よりも守にとって顔も知らない婚約者を優先するとは思えないのだ。

 

 大きく息を吸い込んで、心構えを造った。

 その息を吸う音がよく聞こえる――戦闘の音はもう聞こえない。

 

「俺のしたい事は決まってる」


 きっぱりと守は告げる。

 

「東郷の親父さんより強くなる。強くなって勝つ。それが俺の一番やりたい事だから」

「………………?」


 何で、という顔をしている澪を見て守はちょっと緊張する。

 と言うか今の発言だけで通じて欲しかった。

 ちょっと心が折れかけた上に、まるでネタの説明をする芸人の様で締まらない事この上ないが通じていないのだから仕方ない。

 

「お前覚えてないみたいだけど、親父さん昔言ってたじゃんか。お前を任せるには親父さんより強い奴じゃないとダメだって」

「言ってたね」


 何故それを覚えているのに通じない……!

 そう思うと同時、そう言えばこういう抜けた奴だったと守は思いなおす。

 

「だから! 俺はお前の親父さんにお前の事任されたいの! 平たくいうと付き合いたいの好きなの! 分かる!?」


 一瞬、澪は何を言われているのか分かっていなかったらしい。

 数瞬ぽかんとして。顔を赤くして青ざめさせた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公より主人公らしいってどういう事だよw あー、早く仁と澪の誤解が解けてほしい
[一言] 【悲報】仁、完全に男としては守に負ける 澪、早く動かないと、よしやり直そうと思った瞬間に ハロルドがそれは困るなあ、とか言いながら 守を後ろからザックリ刺しにくるぞーw 梅上さんはそう…
2020/05/10 20:39 退会済み
管理
[一言] よし、これで仁には勝った とーや君、澪ちゃん貰ってOKだね(w 澪ちゃんがドジっ子なのは周知の事実w そういえば仁の夢(?)の中でとーや君の反応が鈍かったけど、それって当人が飲み込まれず…
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