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26 共に歩む者7

 サイボーグ戦隊が壊滅したとの報を受けた時。

 ハロルドは静かに目を閉じた。

 

 この十数年、計画の為に専心してくれた者達。

 生き残った者もいるだろうが、余り期待できる人数ではないだろう。

 

 その中には己の片腕とも言えるグレイスの名もあった。

 

「案ずるなパウル。お前らの願いは残さず俺の頭の中にある。契約は果たすさ。必ずな」


 願いは叶えるために最大の努力はするつもりだった。

 だがそれとは別次元の話で、ここにあの日見た何かが現れたらライテラなどそっちのけでその鹵獲にかかるだろう。

 建造されたアンタレスがこの場に居るのは、それを取り押さえるつもりだったのだから。


 二方向の壁の内一つは突破された。艦隊の対空火器もあるが、それも先ほどの小惑星攻撃で一部に機能不全。

 自動迎撃衛星アンブレラⅡは半数が撃ち落された。

 

 最早、ハロルド艦隊の防衛能力は半減以下まで減らされたと言っていい。

 

 だが――。

 

「お前たちが稼いだこの時間、無駄ではなかったぞ」


 ライテラ建造の最終工程は完了した。

 後は、エーテルを注ぎ込み過去へ情報を送るのみ。

 

「さて、東郷澪。確認だ。私は君の願いを叶える。過去の自分に送る情報の中に楠木令を死なせない様にするという条件を加えよう」

「お願い」


 仁が来ている。

 それが分かった澪は更に口数が減っていた。

 分かっている。諦める筈が無いと。

 

 だから、諦めさせるのだ。

 問答無用で、今を変えてしまえば良い。

 

 だってそれが仁にとっての幸せの筈だから。

 

「リアクターを起動します」


 超大型種『スタルト』から奪われた恐らくはこの宇宙で最も巨大なリアクター。

 これで届かなければ、最早ハロルドの理論は理論で終わるだろう。

 

 澪は自分の本体の中に身体を預ける。

 包み込むような感覚と同時に自分の感覚が広がっていくのを感じる。

 欠けていた物が満たされて行く。その充足感は代えがたい快楽だ。

 

 リアクターの組み込まれたライテラに玉座の様な箇所がある。

 そこへ澪は己を座らせた。

 その奥――オリジナルのクイーンが持つ力へと手を伸ばす。

 強引に自分を繋げて、リアクターに己の一部だと誤認させる。

 

 その掌握にかかった時間は僅か数秒。

 

「リアクター起動」


 低い唸りを上げてリアクターがエーテルの精製を始める。

 微かに漏れた輝きが淡く装置を照らす。

 貪欲に、徐々に高まっていくエーテルを悉く飲み干すライテラにハロルドは笑みを浮かべた。

 

「おお……動いている。私のライテラが」


 過去に情報を送るため。その為だけに作られた巨大建造物はその任を果たそうとすさまじい量のエーテルを飲み込んでいた。

 その光景は空恐ろしくも有り、頼もしくもある。

 これならば、理論通りに動く筈だった。

 

 だがまだリアクターの出力が最大に達するまでは時間がかかる。

 

 いきなりトップギアに入れられないのはエーテルリアクターだって同じことだ。

 

「東郷澪。あとどれくらいかな?」

「……多分後十五分くらい」


 声と同時。艦が振動する。

 急かすように何度もなる通信機を嫌そうな顔でハロルドは受けた。

 

「どうした?」

『アサルトフレーム発艦用のハッチから侵入されました! 居住区画を目指して敵アサルトフレーム部隊と人型ASIDの混成部隊が侵攻中! 止められません!』

「全隔壁を完全閉鎖だ。硬質化弾頭を使って完全に塞いでしまえ。それで多少は時間が稼げるだろう」

『し、しかしそれでは十分程度しか……』

「残りは私が稼ぐ。急げ」


 短くそう指示を出すと、ハロルドは億劫そうに肩を竦めた。別に澪に見えるわけでもないのだが何となくだ。

 

「この世紀の大事業が達成されるという時に無粋な話だ」

「……時間稼ぎ。出るの?」

「いいや、アンタレスを動かすまでもない。言葉だけで十分さ」


 その言葉に澪は気付かれない様に落ち込む。

 ハロルドがこの場から離れるというのならば、十分な余裕を持って澪が過去の令へと警告を送ることも出来たのだが。

 まあ良いかと思い直す。

 元々用意ドンでどちらが先になるかの勝負だった。

 そして澪がリアクターに繋がっている間はライテラも澪の支配下にある。

 

 ハロルドが先に情報を送れる事は無い。

 どころか送る事すら出来ない。

 

「……さて、では約束した通り五分は稼いで見せようか」


 ハロルドは不敵に笑いながら、通信機に手を掛けた。

 

 ◆ ◆ ◆

 

『教官!』

「無事だ」


 短く仁は答えた。

 咄嗟にリアクターを一基潰して、防御に全て回した。

 

 グリフォンの自爆が指向性を持たずに拡散している以上、守りを固めた同型機を撃破できないのは必然だったと言える。

 

 だが今のグレイスの自爆は、物理的な物以上に精神的に仁を打ちのめしていった。

 

『愛する人を取り戻す……例えそれが大勢の不幸を前提にしたものだとしても、だ! 考えなかったとは言わせない!』


 何度だって考えた。ただ、その天秤に乗っていたのが等しく重い存在だったから仁は今ここにいる。

 そうでなければ――今頃はあちら側に立っていた。

 

「行くぞ。敵の守りは崩れた」


 その事実から目を逸らし続ける。

 相手の覚悟とは裏腹に、まだ仁の心は頼りなさげだった。

 

 ユーリアとユニコーンの狙撃を背景に、仁達は敵の防衛圏を突破していく。

 

『なるほど。先ほどの小惑星はこの局面でも有効だったか』

「敵艦にぶつかったりした破片はこの辺りに漂うからな。いざとなれば盾としても使えると思っていた」


 大半は最初の加速のベクトルのまま後方へと流れていった。

 だが破砕され、その力の向きが変わった破片は艦にぶつかり更に勢いを減じて、この宙域に小規模なデブリ帯を作っていた。

 遠い将来はそれらが寄り集まってまた新たな小惑星となるのだろうが……遠すぎる未来の話だ。

 

 今は仁達の盾として活用されていた。

 破片によって破壊された対空火器の減少。

 それによってデブリ諸共撃ち抜くほどの火力が発揮できていない。

 

 衛星兵器の撃破とその後の突入まで考えた仁の策だった。

 ――無論、そのデブリ帯を容易に突破できるだけの腕が無ければ自分たちも入り込めないという有様になる類の策だが。

 

 必然的に、今この場にいるメンバー以上の増援は無い。

 残念ながら鹵獲体と戦っている戦力は当てにできない。

 

 最初は人任せにしたいと思っていたのに、最前線を突っ走っている自分に可笑しさを覚える。

 だがその決断も誰かに言われて漸くの物。

 結局自分は自分では大事な事を決められないのかもしれないとさえ思えてくる。

 

「っ! 高出力リアクター反応。これは……!」


 通信障害がよりひどくなる。

 急激に高まっていく出力。今正に眼前に居るロンバルディア級から感じられたその反応。

 

『波形パターン照合……やべえぞ教官。超大型種の固有パターンと一致だ!』

『唯我の炉か。あの方が動かしているのならば……出力は更に上がるぞ』


 澪がスタルトのリアクターを起動した。

 最早一刻の猶予もない。

 

 撃つなよ、と後方を睨む。

 この通信障害に、味方の位置。

 敢えて仁は自分たちをハロルド艦隊のロンバルディア級と第三船団艦隊を結んだ線の上で進ませていた。

 

 撃てば貴重な戦力である自分たちをまとめて失うぞという、己の身を盾とした脅しだ。

 

 それを無視されたらもうどうしようもない。が、仁は己の価値を大分高く見積もっていた。

 後は上層部がどう考えるかだ。

 

 自分たちに賭けるか。

 テルミナスの民と今度こそ全面戦争覚悟で撃つか。

 

 後方からの砲撃は来ない。

 

「エーデルワイス! そこのハッチだ!」


 アサルトフレームのカタパルト。

 その奥にある格納庫に通じるハッチを指し示すと、御子を守る黒き騎士はその長剣を抜き放った。

 

『陛下より託されし、我が剣。とくと見るがいい!』


 大上段に構えた姿勢のまま更に加速して一人ハッチへと突撃する。

 その刃が振動を始める。

 その震えが一気に加速し、空間さえも震わせ始める。

 自分自身さえ傷つけかねない嵐を携えて、エーデルワイスは秘匿されたその名を告げる。

 

『いざ見よ! これこそが模倣終焉! ハーモニックレイザー!』


 刀身が弾け飛ぶ寸前に一瞬で振り下ろす。

 その斬線の上にあった物は全て消し飛んだ。

 空間を伝播する振動波が跡形も残さずに粉々にしたのだ。

 

 まさしく塵すらも残さない一撃。

 仮にも戦艦の装甲を紙を破る様に引き裂いた事に仁は恐々とする。

 対峙していた時にはここまでの威力は発揮していなかった。

 

 アサルトフレームでこんな物を受けたら機体の破片すらも残らないだろう。

 

 振り切った姿勢のまま、エーデルワイスは声を発する。

 

『しばらくうごけん。先に行け』


 今のはやはり、エーデルワイスにとっても奥の手だったらしい。

 膨大なエーテル出力を誇る彼女であっても、即座に動けない程に消耗している様だった。

 

「動けるようになったら追いかけて来てくれ! 頼んだぞ!」


 彼女の復帰を待つほどの時間はない。

 先に仁達が突入する。

 

 格納庫ではノーマルスーツを着た整備士たちが泡を喰って避難していく。

 ロンバルディア級の内部構造は共通だ。

 

 リアクター反応は居住区。そこまでの道は仁の頭の中にだって入っている。

 メンテナンス用のシャフトを進んでいくと次々に隔壁が閉鎖されていく。

 

「邪魔だ!」


 エーテルダガーを使って隔壁を突破する。

 刀身を押し付けて、その装甲を溶解させていく。

 

 一枚の隔壁を突破するのに凡そ一分。

 

 後何枚これを破れば良いのか。そして後どれだけ時間が残されているのか。

 焦りを抱えながらも仁達は前へ進んだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] どっから持ってきたんだよ、それぇ( ´Д`) 八年前も使ってたけどさぁ ホントどっから……(´д`|||)
[一言] よく模倣できた、とは思うけど……通常必殺技だったからな、それ…… 本当の奥の手のアレとアレが……
[一言] ハ!……ハーモ! ハーモニッ! あばばば!
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