22 共に歩む者3
気色が悪い。
ユニコーンは率直にそう思った。
アサルトフレームは当然ながら工業製品だ。
その見た目に差があってはならない。
それはテルミナスの民からすると、全く同じ容姿の人間が無表情で一塊になっているような印象を受ける。
人工的に作られたのだと言っても、それはクイーンが産んだのと何が違うのかという話になる。
彼女らにとって悪意に満ちた見方をすれば、アサルトフレームとは態々人間そっくりの人形を作っているような物なのである。
それを気色悪いと思わない方がどうかしているとさえユニコーンは思う。
こんな相手と手を組むことを決めた女王も、同輩のエーデルワイスも。
だがそれが命令だから従う。
態々反逆するつもりもない。
それでも嫌悪感だけはどうしようもない。
群れ成してなだれ込んでくるグリフォンに片っ端からエーテルの弾丸を喰らわせる。
だが数が多い。
頻度が多い。
十分なチャージ時間を与えられていないユニコーンの砲撃は今一威力を欠いていた。
彼女自身が欲張ってまとめて撃ち落そうとしているので威力が拡散しているのも原因だろう。
――気持ち悪い。
何よりも気持ち悪いのは、余りに痛みに対して鈍感である事だ。
手足を飛ばしても、何の痛痒も無くこちらに向かってくる。
知性無きハグレなら兎も角、人という物はまあ自分たちと同程度の知能は有るとユニコーンも認めるのは吝かではない。
ここにいるのは、直接見た人ではないが同種のハズだ。
ならば当然知性があって。己の死を恐れるという物がある筈だ。
なのになぜ。
こいつらは自分の命も捨てて構わない様な戦い方をするのか。
アサルトフレームが、本来の身体でない事は百も承知だ。
その本体が自分たちとは比べ物にならない程矮小で、脆弱な物であることも。
それを気遣う同輩が少々目障りであったというのは今関係ない話だが。
胸部の辺りに、その本体がある。
そこを狙えば脅えて然るべきだろう。
その一瞬の怯みを期待しているのに、構う事無く前に進んでくる。
牽制が牽制にならない。
死を恐れずに、進んでくる。
――何なのだお前らは!
ユニコーンは、ハロルド艦隊が何を目指してここにいるのかは知らない。
エーデルワイスが説明していたのだが、興味が無かったので聞いていなかったのだ。
御子を攫った憎き仇。
それが分かっていれば十分。その筈だった。
故にこの必死さが分からない。
その姿は八年前に自分が見せていた物。そして本来なら今も持つべき物。
大切な物を奪われまいと、己の存在を賭けて挑む姿だ。
拡散させていたエーテルの弾丸を一機に集中させる。
テルミナスの民の中でも唯一と言っていい砲撃型として生まれたユニコーンにとってその程度の弾道制御はお手の物だ。
十数発の光弾が叩き込まれていく。
吹き飛ぶ脚部。
潰される頭部。
だがそのグリフォンは、コックピット周りを腕でガードしてその弾幕を突破してきた。
奇しくも、少し離れた場所でコウが見せた物と同じだ。
腕部に集中させたエーテルで、致命傷だけは避けて来た。
距離を詰められたとユニコーンが思った時にはもう遅い。
既にここは敵の間合い。
抜き放たれたエーテルの刃。
あんな物は、人と戦って初めて見た。
ただ飛ばすだけならまだしもどうやってあんな風に刃の形に維持しているのか。
理屈は分からずともその脅威は確かな物だ。
――舐めるな!
自分がただ、撃つだけが能の置物だと思うなと気を吐く。
彼女が持つ砲塔は、それ自体が一つの打突兵器だ。
質量の有るそれを振り回して、今度こそ胸部を叩き潰す。
横合いへと流れていくグリフォン。その背後から現れたのは――無傷のもう一機のグリフォン。
何と、とユニコーンは驚愕する。
最初から仲間を捨て石とする前提の作戦。
敵陣の奥深くまで切り込んで、生きて帰れるというのは楽観が過ぎる物。
恐らくはこちらも決死の覚悟。
訳が分からない。
何故こいつらは容易く命を捨てられるのか。
一度失われたらもう二度と戻ってこない物だと言うのに。
そんな疑問が、彼女のプロセッサーを駆け巡り。
自分の頭部――即ち、急所にエーテルダガーが突き立てられ様とするのをカメラでとらえ続け。
そこに何かの背が入り込んだ。
『こんっの!』
間一髪で割り込めたユーリアがシールドでグリフォンのエーテルダガーを真っ向から受け止める。
拮抗したのは一瞬だけ。
シールドのエーテルコーティングを突破して、グリフォンのエーテルダガーが装甲材を貫通してくる。
そのまま肘を貫き、横向きに斬り広げられていく。
左腕が脱落し、そのままコックピットのある胸部へと光の刃が進んでいく。
『きゃああああっ!』
機体が爆発する。
その衝撃で流されていくユーリアのレイヴン。
そこでユニコーンも状況を理解した。
今自分は、この人に庇われたのだと。
そしてそのお陰で不意を打たれた事で生まれた隙は潰せた。
残るのは無防備に腕を突きだした命知らずだけ。
その胸部へ再び砲身を叩きつける。
最早杭付きのハンマーめいた一振りは内部で生存する可能性を一撃で刈り取る位に胸部を圧縮した。
そのまま、砲撃に移っても良かった。
別に頼んだわけでもない。
庇ったように見えたのだって偶々かもしれない。
こいつ等だって、自分たちをあのハグレと混同して恐れている。
だから、助ける筈何て無い。
そう思っているにも関わらず、ユニコーンは己の盾となったレイヴン――ユーリアの姿を探す。
いた。
このまま放っておけば戦場外まで流されて……まあ運が悪いとそのまま見つけられなくなっていただろう。
面倒な、と思いながらその軌道を蹴り飛ばす事で変える。
一応、後方の艦隊に向くようにはしたので余程運が悪く無ければ救助される。
『え? 何、今の何?』
声が聞こえる。
自分を助けた小さいモノの声。
ほんの戯れ。
『何故助けた?』
『えっと、ユニコーンさん?』
『お前たちはそう呼ぶ』
頷いて。だが相手には見えていないだろうと思いなおした。
ユーリアのレイヴンは機能停止していた。先ほどの被弾の影響だろう。
コックピットの至近におぞけが走る様な溶解跡が残っている。
『だって、私達仲間じゃない。仲間がピンチだったら助けるよ。私の友達がしたみたいに』
その友達が誰かというのはさておいて。
ユニコーンが気になったのは一点だ。
『……仲間?』
『そうでしょ?』
まあ確かに。一応肩を並べて共に戦っているのだから仲間と呼ぶのだろう。
少なくともユニコーンもこれが同族ならばそう呼ぶ。だが。
『我らが怖くないのか?』
『怖い? どうして?』
人はテルミナスの民を恐れているのだと思った。
『だって私、澪ちゃんを知ってるもの。私が知ってる中でもとっても優しい子。その子の姉が怖い筈なんてないでしょ?』
『姉』
『あれ、違った? みんな女王から生まれたって言うからそうなのかなって』
間違ってはいない。
澪――いずれ自分たちを導く御子に人が与えた仮の名だ。
そうか、とユニコーンは思った。
この人間も御子と会ったことがあるのかと。
『分からない。御子が人間では無いと知ったはずだ。何故、変わらずにいられる。何故恐れない』
見ている前でユーリアのレイヴンが再起動に成功する。
動き出した機体から聞こえてくる声が一際大きくなった――様に感じられた。
『そんなのは決まっているわ――愛よ!』
恥ずかしげもなく。
堂々とその単語を叫ぶ。
『あ、い?』
『そう! 愛は全ての源! 愛があれば何だって信じられる! 幸せになるには愛が必要なの!』
八年経っても、ユーリアはユーリアだった。
むしろその信仰振りは磨きがかかっていると言っても良い。
何しろ同期は結婚しているので少々焦っている。
『澪ちゃんが悪い子のハズないもの! むしろ純粋過ぎて心配になる位。きっと今回だって悪い科学者に騙されたに決まってるわ』
『あい……あいとは何だ……』
良く分からないが凄い物らしいという事だけは分かった。
万物の源。原初の一。凄そうだ。
『それは後で教えてあげる。それよりも、手を貸して欲しいの。協力してくれる?』
『あ、ああ』
勢いに押されて、つい頷いてしまったユニコーン。
ユーリアの恋愛脳は遂に、異星の知性体にまで轟く事となったのである。




