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19 決戦の日6

 エーデルワイスは無論、仁達の接近に気付いていた。

 

 仁達に説明したように、テルミナスの民は感覚として相手の魂とも言える何かを捉える。

 その波形から個体の識別も出来る。

 

 ただそこまでだ。

 流石にその内心までは伺い知れなかった。

 

 何度か声を飛ばしてみるが、どうも届いていない様だった。

 

(人の作った物とは外部の影響を受けやすい物よ)


 テルミナスの民の間での通信――会話は、多少の妨害では阻害されないが、人間のエーテル通信はそうもいかない。

 本能レベルで形式を気軽に切り替えられる彼女らと違い、エーテル通信のフォーマットは簡単に変えられるものではない。

 

 故に、会話する事は叶わなかったが、仁達の位置取りは彼女らにとっても都合の良い物だった。

 

 丁度挟撃の形に出来る。

 ならば、とエーデルワイスは考える。

 そのタイミングに合わせてこちらも攻め上がる時だろうと判断した。

 

 ここまでで相手の練度は大体分かった。

 率直に言って、八年前に戦った第三船団よりも強い。

 ただ悲しいかな、数が足りない。

 

 テルミナスの民も当時よりも数は減じている。

 八年前に受けた損害を癒しきれていないのだ。

 それだけではない。

 そもそもこの協力関係を否定し、参加を拒絶した戦士もいる。

 

(気持ちは分からぬではない)


 テルミナスの民はそれ自体が一つの共同体だ。

 他に同族は居ない。嘗てそうであったハグレとなったASID達とは明確に己を区別している。

 

 故に、そんな彼らからすると第三船団も第二船団も、どちらも大差ない。

 同じ人間という種族が自分たちの次代の王を攫った。

 

 まして、この戦いで取り戻せるというのならばいい。

 戦いが終わってもしばらくは人の元に預けたままにするというのが我慢ならないらしい。

 

 八年前も随分と揉めたなとエーデルワイスは思う。

 あの日、澪の願いを聞き届けたのは彼女自身だ。

 

 作戦の終了を告げて、女王の元へ帰還した時は吊るし上げ一歩手前だった。

 あそこまでの被害を出して何故退いたのだと痛罵してくる相手もいた。

 

 それらを諫めたのも女王の一声だった。曰く、あの子の好きにさせましょうと言う。

 

 その判断がやはり間違っていたという声は強い。

 

 だがエーデルワイスは逆だと思っている。

 その後も自主的に澪を見守るために移民船団の近郊に潜んでいたエーデルワイスは、日々澪の声を聞いていた。

 無意識に漏らされている彼女の心の声を。

 

 それを女王――テルミナス・セブンスに報告する度、楽し気にするのが楽しみだった。

 

 エーデルワイスは女王と同じく澪を通して人間という物を知ったのだ。

 

 色々な考えの者が居て、中には自分たちと対話を試みるものもいるのだと。

 

 だからこそ確信している。

 人は、テルミナスの民がこれからを生き延びるのに必須だと。

 

 何れ来る終焉に備えて来たが、勝ち目は薄いと言わざるを得なかった。

 何故ならば女王に伝わる話では、嘗てはハグレとなった九氏族の総力を結集して漸く亜空間へ放逐する事が叶ったのだ。

 その封印から逃れたら、一氏族のみとなったテルミナスの民に勝ち目はない。

 

 失われた八氏族。

 その穴埋めを外に求めるのは自然な事だろうとエーデルワイスは思う。

 

 この戦いはきっと、数百年後の運命を決定づける物だと。

 

 ――どうする?

 

 隣の副将格である個体、船団名称はユニコーン――そして当人も人相手にはそう名乗る――がエーデルワイスの側に寄って尋ねる。

 彼女は第三船団を襲った際にも砲撃手として大打撃を与えた存在だ。

 

 こういった多数を相手取るのに向いているのだが――エーデルワイスからすると一つ悪癖があった。

 

 ――私が突っ込んで、またまとめて撃ち落して蹂躙していくのが良いと思うのだが。

 ――お前は後ろに下がっていろ。エーテルを貯めてその時に備えろ。

 

 兎に角やたらと前に出たがるのだ。

 

 彼女の砲撃はここぞという時に取っておきたい。

 比較的遠距離攻撃手段に乏しいテルミナスの民にとって、彼女の持つ砲戦能力は貴重だ。

 彼女のリアクター供給量は砲撃能力に対して十分とは言えない。

 しっかりと溜め込む時間を作らないとその真価を発揮できないのだ。

 

 ――しかし、人の作りし義体は遠距離攻撃に長けている。

 

 アサルトフレームの事をそう称したユニコーンは今のままで大丈夫かと重ねて問う。

 

 ――現に、我が方にも少なくない損害が出ている。対処すべきでは?

 ――不要だ。見ろ。奴らが来た。

 

 今正に、後背を突こうとしている仁達を示すとユニコーンは僅かな懸念を示した。

 

 ――彼らは、信用できるのだろうか。

 

 ユニコーンはどちらかと言えば今回の計画には反対よりの中立だ。

 あくまで女王が命じるから人の付けた名も名乗るし、協力もする。

 だが、女王が方針を変えたらそれにすぐさま追従するだろう。そして女王の命令以外の箇所では恐らくは何もしない。

 

 今回も女王が命じたのに加え、どの道御子を奪還する必要があるから来ているだけ。

 人と積極的に協力する気もそれを信用する気も無い。

 

 ――まずは我らからそれを示すべきだ。

 

 こちらから歩み寄るべきだとエーデルワイスは言う。

 人からするとこれまで何百年とハグレ――ASIDと戦ってきたのだ。

 テルミナスの民も系譜としてはその流れの中にいる。

 それ故に、抵抗感は自分たちよりも強いだろうとエーデルワイスは推測していた。

 

 お互いに反対派を抱えているのだ。

 ではそこでさようならとしないためにエーデルワイスは人知れず尽力していた。

 一人一人に根気強く、その必要性を説くのだ。

 

 ――人も一枚岩ではない。手を携えることが出来る一派は確かにいる。

 ――そこまでして、手を組む必要があるだろうか。

 ――我らとて一塊ではないのだ。意見が違うモノを拒絶していては、行き詰まる一方だろう。

 

 今こうしているユニコーンとて、それは分かっている。

 だがやはり拒絶反応がある。

 御子を攫った相手と同じ種。

 それだけで信用できないのだと。

 

 皮肉にもそれは人類側の反対派――つまりはASIDの一派何て信用成らんという意見と全く同じなのだが。

 

 ――タイミングを合わせて少し散らせ。良いな?

 

 エーデルワイスはユニコーンにそう指示を出す。

 不服そうながらもユニコーンは頷いて、己の砲へエーテルを注ぎ込んでいく。

 

 ――戦士団よ。これより反撃に移る。総員突撃用意!

 

 一瞬でエーデルワイスの意思が軍勢に伝播する。

 高まっていく戦意がリアクター出力として表れる。

 

 近接戦闘型が多い理由――テルミナスの民はそもそも長射程の武器という物を余り持たない。

 女王が産み落とした時に付随している者が扱える程度だ。

 曰く、当人がそれを望んでいると女王は言うのだがエーデルワイスにはその辺りは良く分からない。

 

 故に、それぞれが持つ武器というのは生まれた後に与えられた物。

 己に最も馴染み、最も力を発揮できる物を選んでいる。

 

 敵集団――サイボーグ戦隊の背後に仁達が食らいついた。

 それに合わせてエーデルワイスは再度号令をかけた。

 

 ――総員、突撃!

 

 待っていましたとばかりにテルミナスの戦士たちが一気に距離を詰める。

 元々テルミナスの民の個々の能力は普通に戦えばアサルトフレームを凌駕している。

 

 ただ戦術レベルの話となると、途端にお粗末な物だ。

 同族同士で戦う事もなく、獣じみたハグレ相手ではそこまで磨く必要も無かったのだ。

 

 故にその戦術は非常にシンプル。突撃か否か。

 そして今はその攻め側に回ったのだ。

 

 槍が斧が、剣が。

 それぞれが持つ武器にエーテルが注がれて輝く。

 振動する事で威力を増す物。

 エーテルの弾丸を放ち、中距離戦を挑む者。

 石突から光を放ち、投げられた槍が複数のグリフォンを貫こうと宙を駆ける。

 

 画一的な武装など無い。

 それはこういう乱戦となった時に真価を発揮する。

 何しろそれぞれがそれぞれで全然違う攻撃をしてくるのだ。

 

 ほぼ初見ばかりで対策が取れるはずもない。

 背後の混乱と、濁流の如き正面の攻めで一気にグリフォン部隊を削り取る。

 

 だが敵もさるもの。

 上手くその死地から逃れつつ、エーデルワイス達と仁達をぶつけようとしてきた。

 

 ――嫌な事をするやつだ。

 

 多分そう言う厭らしさが自分たちには欠けているのだろうと思い、参考にはさせて貰うが。

 

 グレイスが判断したように、第三船団とテルミナスの民の協力関係は見た目よりも脆い。

 互いに反対派を抱えたまま時間に追われて出撃したのだから仕方ない。

 

 だから正念場はここからだ。

 こうして一群となった時にどこまで協力できるか。

 

 ここで瓦解する様では――将来の協力関係など夢のまた夢だろうとエーデルワイスは思っていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ユニコーンさんは変形しますか?
[一言] 突撃癖のある砲撃手、時々いますよね ゲームでもだけど、現実でも あ、僕は戦艦で突撃する派です(w
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