11 切り札
「リアクター出力上昇! シリーズエフェクト発生!」
「『ゲイ・ボルク』スタンダップ。艦首エーテルハイメガカノン分離!」
全長10キロメートルある戦艦が姿を変えていく。
艦尾のスラスターは二つに分かたれ脚部に。
艦首の主砲並びに甲板も分かたれ腕部に。
バイタルパートは胴体に。
そして艦橋は頭部に。
「全ブロック移行完了!」
「各部ドッキング。『ゲイ・ボルク』近接格闘形態に展開完了!」
全長10キロメートルの人型兵器――この正気とは思えない兵器を考案したのは移民船団最初期の人間だという。
優美香・バイロンの予言した九体のオリジナルクイーン。
その撃退を考えた時、どうしても人類側の戦力は不足していると考えられた。
特に、今後充足するであろう軍艦とアサルトフレームでは近接戦闘に持ち込まれた際に対応できない事が懸念されていたのだ。
事実、ロンバルディア級戦艦はクイーンタイプと互角に戦える戦力ではあるが、取り付かれた際の対処手段は殆どないと言える。
逆にアサルトフレームでクイーンタイプに格闘戦を挑むというのはやはり現実的では無い。
八年前のメルセクイーンの討伐時でさえ、格闘戦を挑んだのはほんの一部。
あの時はクイーンその物が砲撃型だったからこそその様な戦局が現れなかっただけだ。
そして150年ほど前の人間達は考えた。
……いっそ戦艦を人型にしてしまえばどうだろうかと。
その酔っぱらいながら考えたとしか思えないアイデアがまさか後に現実になるとは考案者も考えていなかっただろう。
発端はそんなバカげた物だったが、ロンギヌス級機動戦艦はそうした思想――即ち、クイーンタイプと殴り合うために設計された。
オリジナルクイーンの実物がロンギヌス級機動戦艦を上回るサイズだとしても関係が無い。
そもそも、想定されていたサイズその物が既にロンギヌス級を上回っていた。
その上でこのサイズを選択した理由は何か。
「これより作戦をプランK34へ移行する! 各艦は配置に着け!」
プランK34。それは『ゲイ・ボルク』による近接格闘戦と、艦隊によるその援護だ。
近接格闘形態――即ち人型形態となった『ゲイ・ボルク』の機動特性は直線的に進む軍艦の物では無い。
敢えて分散させたスラスターと人型の可動域。
それによってむしろアサルトフレームに近い機動性を獲得している。
それが何を意味するか。
軍艦としては常識外れの機動で敵の主砲を避けられるという事である。
「良い腕だ! そのまま突っ込め!」
艦長に褒められた操舵士は軽口を返す余裕もない。
必死の形相で舵を握り締めて一撃貰えば撃沈必死の攻撃を避けていく。
前方投影面積を考えれば近接格闘形態は非効率にも程がある。
故に機動力を維持できなければむしろ欠点しかないのだ。
「機関室よりリアクターの全力運転は十分までは保証するとの事です!」
「だそうだ! 出し惜しみせずに行くぞ! エーテルハイメガカノン用意!」
戦艦とは思えない程の左右の慣性に揺さぶられながら、左腕部となった主砲へとエーテルが充填されていく。
「全砲門照準! 目標敵超大型種!」
船体各所のエーテルカノンが一斉に動き出し、各々狙いを定める。
一際巨大なエーテルハイメガカノンが重々しく動いた。
それだけで重心バランスが大きく変わり、操舵士はまた機動を微調整する。
「撃て!」
これまで受けた攻撃の返礼とばかりに、『ゲイ・ボルク』の全身からエーテルの光条が伸びる。
総出力では劣っているが、その運用に関して人類はASIDに対して優越している。
故に破壊力という点ではほぼ互角。
スタルトのエーテルコーティングを突破して、その下の装甲に損傷を刻み込んでいった。
だがやはり浅い。
掠り傷程度のダメージしか与えられておらず、すぐさま再生も始まっている。
「エーテルハイメガカノン充填完了!」
「敵損傷部に向け、発射!」
エーテルハイメガカノンは単体で既に戦艦クラスのサイズがある。
本来必要な推進器、居住区画などの全てがエーテルの発振装置となった火器。
その威力は――スタルトの主砲にも劣らない。
発射の瞬間、反動で『ゲイ・ボルク』が数百メートルほど後ろに下がった。
直径が数百メートルもあるエーテルの柱がスタルト目掛けて突き刺さる。
エーテルコーティングは一瞬の拮抗も許されなかった。
着弾と同時に爆発。
表面の装甲を吹き飛ばし、更にその奥まで露出された光景を見て艦隊の中でも歓声が上がる。
初めて与えられた目に見えた損傷だ。
「今だ! 特殊樹脂弾発射!」
艦隊の各艦に増設された実弾兵器の砲塔。
かつて、鉄で作られた弾丸が使われた事もあったらしいが、今となっては非効率なので単純攻撃に実弾が使われる事は無い。
移民船団において、実弾兵器は大きく分けて二つしかない。
一つはAE弾――対エーテル弾。
エーテルを完全に遮断する物質で作られた弾丸だ。
どんなエーテルコーティングであろうと擦り抜けてダメージを刻めるという物だが――何しろ素材自体が希少中の希少。
オマケに大型化が進むクイーンタイプに対しては破壊しつくすまでにどれだけの量が必要か分からない。
もう一つが今回使われる特殊樹脂弾。
こちらは別段目新しい技術ではない。
二種類の樹脂を混ぜ合わせることで瞬時に硬化するというありふれた代物だ。
ただ、それが再生中のASIDに使うとどうなるか。
「樹脂の硬化を確認! 再生阻害されています!」
「よし!」
ガチガチに固められた損傷部を、ASIDは再生させることが出来ない。
何れは樹脂その物も取り込むか、自ら破壊するかで再生を再開するのだが、それまでの時間が稼げる。
そして今、多くの砲塔が潰されたまま再生しないという事はそこに弾幕の隙が生まれたという事。
「この隙に突っ込むぞ。アサルトフレーム部隊全機発艦準備! 時間勝負だ! 手際よく行くぞ!」
「了解!」
一直線に『ゲイ・ボルク』が加速する。
慣性制御はアサルトフレームの物よりも強力で通常感じる事は無い。
それを振り切るくらいの速度。
もしも激突したらそれだけで船体には大きなダメージが刻まれるだろう。
「腕部先端にエーテルコーティングを多重展開!」
「総員衝撃に備えろ!」
そんな速度のまま。
『ゲイ・ボルク』は真っ直ぐにスタルトへと突っ込んでいく。
槍の様にとがった形状の腕部は元々艦首であった場所。
その先端に集中展開されたエーテルコーティング。
その意図がどこにあるかは明確だ。
この形態の名称を思い出せば尚の事であろう。
近接格闘形態。即ち――。
「野郎共! ぶちかませ!」
その槍を突き立てる。
敵の防御を突破し、装甲を貫き、更に奥深くへと。深々とその牙を喰い込ませていく。
「内部サーチ――情報通りです! 敵エーテル循環系から突入可能!」
「艦首ハッチを解放! アサルトフレーム部隊全機出撃! これより作戦はプランV76に移行する!」
その声と同時。今の突貫でボロボロになった艦首のハッチが爆発とともに吹き飛ぶ。
元より繰り返し使う予定はない。
そこから飛び出すのは――重装備のレイヴン十二機。
「教導隊第一中隊各機へ。俺達が一番槍だ。後の連中を楽させてやれ。行くぞ!」
先陣を切るのは円盤の様な物を背負った異形のレイヴン。
明らかに他よりも重装備だというのに誰よりも早い。
そこに遅れて、オービットパッケージのスラスターで無理やり加速させる十一機のレイヴン。
教導隊の中でも仁率いる最精鋭中隊がまず道を切り開く。
更に遅れて通常型のレイヴンが次々と飛び出してくる。
「……まさか本当にASIDの内部に突入できるとは」
「これだけ馬鹿げたサイズだからこそできる真似だね」
その中にはコウとユーリアの二人の姿もある。
500機近いアサルトフレーム部隊がスタルトの内部へと侵入していく。
かつて、150年ほど前の人間達は考えた。
数百キロメートルクラスのASIDを倒せるだけの戦力。
用意できない事は無いだろうが、恐らくはそれは平時から維持する事が出来ない。
ならば、その妥協案として考えられたのがこれだ。
それだけ大型のASIDであるのならば、内部構造も巨大となる。
ならば内部へと侵入して破壊してしまえば良いと。
ロンギヌス級機動戦艦。
その本質は主砲による超火力でも、人型形態になった事による高機動でもない。
ただ、突入部隊を無傷で内部に送り届ける。
揚陸艦としての役割がその本領であった。
「全機発進を確認!」
「『ゲイ・ボルク』離脱! 全速で距離を取る!」
突き立てた槍を抜き去り。
『ゲイ・ボルク』はスタルトから距離を取る。
あの密着状態で帰りを待つのは危険すぎる。
「第二次突入準備! 突入口を作り、第二陣を送り込むぞ」
次の突入は更に危険が伴う。他の艦も突貫に続き、機体だけ投下して離脱するという荒業が必要になるのだ。
それでも一機でも多く内部へ味方を送り届ける。
「……頼んだぞ」
外部からの攻撃は決定打にはならない。
この超大型ASIDを倒すのは――突入部隊である。




