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17 ただの前哨戦2

「ダメだ。全然止まらない……」


 危険を承知で群れの真正面に躍り出ても、ASIDの群れは仁たちに見向きもしない。

 完全に無視されている。


 と言うよりも、別の何かしか視界に入っていないと言うべきか。


「『アル』! そちらは離陸可能か?」

『こちらコントロール。本艦は間もなく離陸。そちらへの援護砲撃を開始する』

「ASIDの群れの足止めは失敗だ! 速度は変わらず。退避優先を進言する」

『了解した。遅滞行動は継続。間もなく訓練生達が敷設したトラップ地帯だ。陽動部隊は退避せよ』


 相手の進路を予測して設置したトラップポイントだったが、もうそこまで追い込まれたのかと仁は驚く。

 これでは足止めどころか……。


『教官! 群れが!』

『加速しました。逃げて下さい!』

「っ!」


 ホバーを吹かして機体を滑らせる。

 訓練生たちの報告通り、群れが加速した。


 今までが駆け足だとしたら、今は全力疾走。

 一気に速度を上げられたので群れの真正面に居る仁は退避が間に合わない。


「くそっ!」


 群れの中に飲み込まれる。

 濁流と大差ない流れの中で。


 仁は前へと進む。


 ホバー移動を駆使して、追加装備された大型火器を駆使する。

 通常型のレイヴンでは使用が制限される大型砲であるエーテルカノン。


 それを流れに向かって斜めに斉射する。


 これだけの密集体勢。

 避けるスペースなど無い。


 何体かのASIDが塵と消えた。そのスペースに機体を潜り込ませて少し前進。流れに合わせて機体をスライド。

 それを繰り返してちょっとずつだが、群れの側端を目指す。


 恐ろしいと仁は感じる。


 今仁は間違いなく死にかけた。


 だと言うのに。そこにはASIDの攻撃は含まれていない。

 奴らはただ前に進んでいただけ。


 それだけで死にかけたのだ。


 この群れが明確な意志を持って攻撃してきたら。

 それはどれだけの突破力となるのか。


 考えるのも恐ろしい話だった。


『トラップポイント到達』


 落とし穴。

 俗にそう呼ばれる物だ。


 突如として現れた谷間に、ASIDは吸い込まれていく。

 吸い込まれて。吸い込まれて。そして埋め尽くされた。


 先頭の数%はその落とし穴で足止めできただろう。

 だがそれ以降の群れは引っかかった不運な同胞を足場にして前へ進む。


『数が違いすぎますね』

『教官。ちっと横から殴ってきても良いか?』

『ずるいですよコウ。私も仲間に入れて下さい』

「ダメだ。飲み込まれたら帰ってこれないぞ」


 とはいえ仁たちには打つ手がない。ここに訓練生たちを集結させて射撃しても、焼け石に水だろう。

 当初計画されていた誘引という目的は微塵も達成できていない。


 巡洋艦『アル』が進路を変えたら。群れも進路を変える。

 『アル』が目当てなのは確実だった。


『緊急連絡! ASIDにとりつかれた! 繰り返す、ASIDにとりつかれた!』

「な」


 まだ群れは到達していない。だと言うのに何故。

 その答えは簡単に与えられた。


『地下からの強襲だ! くそ、訓練生部隊が交戦中!』

「ここでの陽動を中止! 巡洋艦防衛に戻るぞ!」


 仁の決断は早かった。

 大した成果を上げられていない陽動作戦を破棄。

 ここに居る部隊も巡洋艦『アル』の守りに回す。


 これ以上速さを求めることは出来なかっただろう。


 それでも尚。


 彼らは間に合わなかった。


 最初に奇襲で取り付いた一体のASID。

 それは目当てを探す。四足歩行型の脚部を装甲に突き刺し。

 巡洋艦の表面をうろうろして。


 見つけた。


 キツツキの様に鋭利に尖った頭部を何度も叩きつけて、その装甲を突破する。

 他の地下を移動してきたASIDから攻撃を受けている巡洋艦の防御力は著しく落ちていた。


「う?」

「やべえ」


 そこは脱出カプセル置き場。


 万一に備えて避難させられていた澪と守の居る場所である。


 僅かに空いた亀裂からワイヤーを伸ばす。

 それで目当ての物を絡め取ろうと。


「東郷!」


 あっちいけと思っていた澪は反応が遅れた。

 真っ直ぐに伸ばされたワイヤーは澪の頭部を狙っていて。

 その速度を考えれば、命中すればきっと紅い華が咲いた。


 それが分かった。

 だから。


 澪は今自分が無傷なのが信じられなかった。


「……とーやくん?」


 自分の目の前に、子分1号がいる。

 自分を抱きしめている。

 胸元に。紅い華を咲かせている。


 それらのことを認識しても、澪の頭はまだ現在に追いつかない。


「なんで」


 その問いに。守は答えようとして。しかし口から漏れたのは血の塊だけで。


 ワイヤーが引き戻される。

 守の身体が離れていく。


 ASIDの元へと連れて行かれる。


「まって」


 手を伸ばす。


「つれてかないで」


 何時かと同じ様に。


「やめて!」


 大事な人を奪わないでほしいと願って。


 その願いは聞き届けられた。


 澪達を狙っていたASIDが一撃で両断される。

 外に放り出される寸前だった守の身体が床を滑って止まった。


「おとーさん?」


 自分を助ける相手といえば、澪にとっては仁だった。

 だからこそ、そう問いかけて。

 しかしそこに居たのは。その隙間から澪を覗いていたのは。


 隻眼の紅い視線。


「黒騎士!」


 既に巡洋艦『アル』の装甲は突破されていた。

 その亀裂に陣取っているのは――因縁深い相手。


 一度は殺し合い。

 一度は状況からすれば助けられた。


 そしてここに居る必然性がこれっぽっちもない。

 唐突に現れた相手。


 人型ASIDのクイーンクラス。

 黒騎士と呼ばれる個体が惑星メルセに突如出現した。


 おそらくはオーバーライトで来たのだろうがその理由が分からない。


 それでも仁が襲いかかると、距離を取って後退を始める。

 向かう先はメルセに出現した群れ。


 あれが合流されたら第二船団のサイボーグ戦隊が危うい。

 元々クイーン一体に苦戦しているのだ。そこにもう一体匹敵する個体を投げ込んだら今の拮抗も破綻する。


 故に仁には追撃の選択しか無い。

 合流されないようにするしか無かった。


『とーやくん! とーやくん!』

「……澪?」


 何故か。澪の鳴き声が聞こえてくる。

 それは仁の幻聴では無いようで。


『澪ちゃん?』

『守がどうかしたのか!』


 メイとコウにもそれは聞こえているようだった。


「笹森訓練生! そこの亀裂から中に入って救助を! 他は笹森機をカバー。後は臨機応変に対応!」


 仁は最後に指示を飛ばす。

 黒騎士相手ならば、全力を傾けなければ戦いにもならない。


 加速しながら離れていく二機を尻目に、コウのレオパードはコックピットハッチを開けて中へ飛び込む。


「守!」

「どうしよう。血、止まんない……」


 表情を強張らせながら。

 澪は守の傷口を手で抑えて出血を防ごうとする。


 だがそれではどうにもならないほど傷が深い。

 既に出来た血溜まりが澪も朱で彩っていた。


「衛生兵! 早く来てくれ!」


 叫ぶが、コウも分かってしまう。

 傷が深すぎる。

 出血が多すぎる。


 今すぐ医療用ナノマシンで治療すれば間に合うかも知れない。


 だが衛生兵が到着して。

 守用にナノマシンの調整をして。


 そんな事をしていたら間に合わない。


「にい、ちゃ……」

「守! 俺はここに居るぞ!」


 焦点の合わない守の瞳がコウへと向けられる。


「大丈夫だ。兄ちゃんがなんとかしてやる」


 そう言いながらコウは守の手をぎゅっと握りしめる。

 冷たくなっていく手に自分の熱を分け与える様に。


「とうごう、ぶじ……?」

「みおは平気だよ。とーやくんが助けてくれた」

「よかっ……た」


 そう呟くと守は力なく瞳を閉じる。


「おい……おい守。嘘だろ。おい!」

「……だめだよ」


 澪はうわ言の様に呟く。

 何時も以上に茫とした瞳で。


「居なくなっちゃダメ」


 その瞳は何時もは見えていないものを捉えていた。

 触れる。理解する。

 きっとこうすれば守を助けられるのだと。


 澪は本能で理解していた。


 何故そんな事が出来るのか。

 それに対する答えは澪にも分からない。


 ただ重要なのは守を助けるということ。

 それだけだ。


「とーやくんを返して」


 澪の命令が下される。

 守の中に残されていたナノマシン――ASIDが遺していった生体侵食用のそれのコマンドが書き換えられる。


「とーやくんは澪のなの」


 元より、第三船団のナノマシンはASIDのナノマシンから生まれたもの。それ故に、同じ事が可能だった。

 即ち、医療用ナノマシンと同じ機能を実現する。


 本来肉体をASIDに変えるはずだった機能が、傷口を塞ぐ機能に変わる。

 出血が止まる。

 致命的な結果をもたらす寸前で。


 衛生兵が到着する。


 体内に残留したASIDのナノマシンが、偶然医療用ナノマシンと同じ機能を発揮したことに驚き、口々に奇跡だと称える。

 そしてその表情には安堵の色が浮かんでおり。


「もう大丈夫だ。この子は助かる」


 そう太鼓判を押されてコウは顔を抑えて崩れ落ちた。


 そして澪は。

 守の血で真っ赤に染まった自分の手を、恐ろしいものの様に眺めていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン な黒騎士w そして邪魔者排除しに行くのかな?
[一言] あわわわ、なんかもう何て言えばいいのか、色々なに?!
[一言] あ、助かった。ダメかと思ったのに でもやっぱり、澪ちゃんはASIDのクイーン相当か。黒騎士の群れのクイーン? 船団の裏路地にいたのは……オーバーライドかな
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