12 何時も通りの彼女
「しっかし、惑星降下したのは初めてですが、何もないところですね」
「本当ね。こんなところで自給自足なんて出来るのかな」
海産資源は豊富のようだったが、地上は殺風景にも程が有る。
殆どが背の低い木ばかり。メイの身長と比べても半分程度しか無い。
動物の痕跡も見当たらない。
総じて、見晴らしがよく外敵の存在しない環境ということだ。
遭難中の二人にとっては幸いだった。
脱出の際に使ったゴムボートをズルズルと引き摺って内陸を目指す。
このゴムボート、屋根が付いているのでテントの代わりににもなるし、ビーコンも積んでいるため発信機にもなる。
この遭難で二人がまっさきに確保しなければいけない生命線である。
「食料は二人のキットでそれぞれ七日分。空気の心配をしなくて良いのは救いですね」
「後水もね」
濾過装置が有るので海水があれば水の確保もなんとかなる。
宇宙漂流をすることになった彼女らの教官に比べればまだマシな状況と言えた。
「コウの奴がギリギリまでこっちの軌道観測してくれているはずですし、巡洋艦もトレースしているはず。すぐに救援が来ますよ」
「そう、だよね。うん。そうだね」
つい数十分前に死に瀕していたユーリアはまだ動揺しているようだったが、己の頬を叩いて気合を入れ直す。
「非常食が有るって言っても、なるべく節約しなくちゃね。現地調達しましょ」
「それはいいんですがユーリア。何が食べれるか覚えてます?」
「……覚えてない」
「奇遇ですね。私もです」
それなりに量の有るデータだ。
探索時はアサルトフレームのデータベースとリンクして採集する予定だった。
つまり、オフラインではそのデータベースは使えず……。
「どうしましょうか」
「どうしようかしらね」
二人して顔を見合わせて途方に暮れる。
そこでユーリアが傍と気付いた。
「いえ、待って! まだ機体は生きているはずよ! 沈んでるけど!」
「言われてみれば確かに。ちょっと接続してみますね」
ユーリア機は通信が不調のため、失敗。
しかしメイ機の方は。
「お、来ましたよユーリア。流石は真空でも動く機体。水圧程度には負けませんでしたか」
「そのうちダメになるとは思うけどね。今のうちに食べれるもののデータ落としちゃいましょ」
そうして二人して食べることが可能な植物を集める。
火をおこして、石を集めて竈の様に積み上げる。
「丸っこい石ばかりで積みにくいですね」
「適当でいいわよ。鍋を置けるくらいの物になれば」
汲んできた海水を濾過した水で湯を沸かし、適当に野草などを茹でる。
味付けは海水から取れた塩。
まあ美味しいとは言い難い食事だったが、我慢して飲み込む。
「降下成功したとしても、10日間食事これって言うのは結構キツイですね」
「ちゃんとした調理をすれば多少はマシじゃないかしら。多分」
塩が有るだけマシだと思いながら、火に薪をくべる。
「あんま燃えないわね」
「結構湿ってましたからね。雨でも降ったのかも知れません」
そうして日が暮れて。
二人共体力温存のために眠りに就く。
危険な陸上生物が居ないことは分かっていたので、躊躇うことなく二人揃って寝る。
「それじゃあおやすみなさいユーリア。明日はもうちょっと美味しいものを作れるように頑張りましょう」
「えっと、メイ。その……」
あっさりと自分のテントに潜り込もうとするメイを、ユーリアは呼び止める。
「……一緒に寝ない?」
「えぇー。ユーリア。これ一人用ですから二人入ると結構キツイですよ?」
言っても成人男性一人なので、小柄なメイと女性であるユーリアならばちょっと窮屈で済むだろう。
「だってその……何か目閉じたら落ちてたときのこと思い出しそうだし。こう、人肌恋しいと言うかなんと言うか」
「やれやれ。コウを先に行かせなくて正解でしたね。ここに居たのがコウでもユーリアは同じ事を言った気がします」
「いやいや。流石にそれは……無いヨ?」
ちょっと断言できないのが自分でも悔しい。
今大分メンタルがギリギリである自覚ありなので、もしかしたらコウで妥協していたかもしれないとユーリアは思う。
「まあ良いですよ。エロユーリアが可愛そうなので一緒に寝てあげましょう」
「そこまで言われることはないと思うんだけど!?」
いつもの掛け合いをしながら、二人寝転ぶとユーリアはメイに抱きついた。
「うーん。暖かい……」
「言っておきますけどユーリア。エロいことしたら本気で怒りますからね」
「しないわよ。なんだと思ってるのよ」
「年中発情期の恋愛脳」
「後半はともかく前半は撤回しなさい」
「後半は良いんですか……」
ぎゅっとメイを抱きしめて。ユーリアは自分の顔を見られないようにした。
「本当にありがとうメイ。助けに来てくれて」
「言ったでしょうユーリア。チームメイトを助けるのは当然。友達を助けるのは当然です」
「それでも、よ。絶対にこの恩は忘れない。アンタがピンチのときには必ず助けに行くから」
その言葉にメイは居心地悪げに身じろぎした。
「んー私の時は助けに来なくていいですよ」
「何言ってんのよ。絶対に行くわよ」
「いやあ。正直来られると迷惑と言うかなんと言うか。自分の身を優先してほしいと言うか」
「ちょっと。さっきと言ってること違うじゃない」
何とも歯切れ悪く、自分を見捨てろと暗に言うメイにユーリアは困惑と怒りの入り混じった声音で追求する。
「私達チームでしょ。友達でしょ。何でアンタが助けるのが良くて私が助けるのはダメなのよ」
どう言い繕うか。メイはしばし迷って……正直に話すことにした。
今話さなければ、どこかでメイがミスをした時にユーリアはきっと宣言どおりに助けに来ると分かってしまった。
それこそ命を賭けて。
それはダメだ。
メイとしては決して許せることではない。
「私とユーリアの命は等価値じゃないからですよ」
「何よ、それ……」
腕の力が緩んだ隙にメイは顔を出して、ユーリアの瞳を見つめる。
「ごめんなさいユーリア。ずっと隠していたことがありました」
「それはこの前の笹森と揉めていたこと?」
「そうですね。その関係です」
親友がずっと隠していたことを話そうとしていてくれる。
それは素直に嬉しいのだが、このタイミングというのがユーリアは気になる。
直感が囁いている。
きっと、楽しい話ではないと。
その直感は当たった。
「私は違法クローンです」
そうしてメイはユーリアに語る。
かつて仁に語ったことを。
そしてコウとの確執を。
残された時間を。
残り14年の命と、70年近い命。それが等価値であるはずがないと。
「というわけなので、私の為に無理をされると心苦しいと言いますか。命までは賭けてもらうのは申し訳ないと言いますか。そんな感じなので程々に助けてもらえると……」
「何よそれ」
話を聞き終えたユーリアは相変わらず憤慨していた。
納得なんてしていなかった。
「そんな事! 私が友達を見捨てる理由にならない!」
言い切る。
何の躊躇いもなく。
「クローンが何よ。寿命が何よ! その人の生まれなんて私は知らないし、残り時間なんてもっと知らないわ!」
「えっとユーリア?」
「私だってもしかしたら明日急に死んじゃうかも知れない。十年後子供を生む時に出産に耐えられなくて死んじゃうかも知れない」
「それ去年流行った映画の話ですよね」
「茶化さないで! 私怒ってるんだから!」
「え、はい。ごめんなさい」
ちょっと釈然としない物を感じながらも、メイは素直に聞く姿勢を続ける。
「もしもそうなることが分かっていたとしたら、メイは私を助けなかった? 寿命、私のほうが短いから仕方ないって諦めた?」
「いえ。そんな事は無いです」
「なら一緒よ。気付いてよ。私がそんな事を理由に友達を諦められるわけがないって」
「そんな事って……酷いですよユーリア。私達これでずっと悩んでるんですから」
「そんな事はそんな事よ。残り時間が短いなら、その短い時間を全力で行かなきゃダメよ。ペース落としちゃダメよ」
ユーリアはメイとコウが抱えてきた問題をばっさりと一刀両断にする。
それは部外者だから無責任なことを言っているのだろうか。
否。
ユーリアは心の底から思っている。
友人に、どんな事情があってもそれは自分が態度を変える理由にはならない些末ごとだと。
「それに、14年もあればその間に技術の進歩だって有る。もしかしたらもっと長生きできるかも知れないんだから。諦めちゃダメだよ」
「もう、ユーリアはダメダメばっかりですね」
「だってメイは自分から不幸せになろうとしてる。そんなの、ダメに決まってるよ」
ああ。そうかも知れないとメイは思う。
だって残り十四年しか無いのだ。
中途半端な時間に自分は居なくなる。
だったら、他の人へなるべくなら傷は残したくない。
そう考えていたのは事実だ。
コウにも言われた。
長生きしてほしいと。
でもその願い。自分はどれだけ真剣に受け止めていたのだろう。
「じゃあユーリア。私はどうするのが幸せなんだと思いますか? 自分でも分からないんです。教えて下さい」
「決まってるわ」
その自信満々なユーリアの顔を見て、メイは次に言うことを予想した。
そしてそのとおりの言葉が飛び出してきた。
「恋をするのよ!」
ユーリアは何時もどおりユーリアだった。
例え親友の過酷な運命を知ったとしても。




