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B級聖女の日常  作者: さん☆のりこ
20/23

ブラッドストーン

新キャラ登場(´ω`*)

 「ボタンの在庫が無い・・だと?」


詩乃は驚いた、この前要望が有って沢山造ったばかりだったのだ。


「あぁ~ほら、魔獣の皮の配給が始まったから、それに使う為なんじゃない?」


そうだっだ、そう言えば例の魔獣の皮がやっとこさ鞣されて、街の顔役によって公平に配られていたんだった。


「でもさぁ、全然公平じゃないよね~」


皮の配給は面積的には確かに公平だったが、皮には色と柄が有るのだ。

アン曰く、山の手のお金持ちの家には、白一色とか、黒一色とかの質の良い所が優先的に配布されているのだそうだ・・顔役達に忖度しているのだろう。

そう言われて詩乃は自分の手元をマジマジと見た、詩乃に与えられた皮は、そりゃぁ見事なホルスタイン柄だったのだ、も~~う。

アンの皮は白からベージュ~茶色とグラデーションになっていて、使いようによってはオシャレな一品に仕上がるだろう。リーのだって少し黄味がかった色と黒の斑柄は、見方によってはヒョウ柄風と言えなくもない、この世界にヒョウがいるかどうかは知らないが。ワイルドだね~。

なのに私の皮ときたら・・どないせぇと言うんじゃいホルスタイン柄とか、しかも斑が大きいんだ。

私としてはさ、男同士で家をシェアしているくせに、腐っていないと言い張っている、あのお茶の好きな国の某探偵さんが着ているコートが良かったんだが。

インパネスとか言うんだっけ?大正ロマン風の、イケるだろうか?牛柄で?



みんなでワイワイと話し合っていたら、見知らぬヒョロ長い青年が包みを持って店に入ってこようとして・・ブラシを持ったノアさんに追い立てられた。

・・うん、雪は払わなくちゃね、周りも自分も濡れちゃうし。


     ******


 ヒョロ長い青年の名前はヨイさんと言い、林業組合の木工部で彫刻などの担当をしている人なのだそうだ。シャイな感じの人でボソボソと俯いて話し、決して詩乃と目を合わせようとしない、別に喧嘩を売っている訳では無さそうだが・・。


アン曰く、彼は滑車で材木を持ち上げるなどの、力仕事には全く向いていない人で、一日中作業台の前に座ってコリコリコリコリコリ・・と木を削っているのが好きらしい。詩乃がトデリに来る前はボタンとかも作っていたのだそうだ。


『・・うわぁ、ごめんなさい商売敵だったんだね、私って!』


詩乃の出現で失業同然になっていた彼は、今回<海の女神>の彫刻の話が自分に回って来たので、息を吹き返した気分なのだそうだ。

実は、<海の女神>の制作は、得意な彫像の仕事だし、是非自分がやりたいと願い、棟梁に直談判していたそうなのだが。無情にも棟梁は、詩乃に作らせるからと言ってヨイさんを門前払いにしていたのだと言う。


『何たる仕打ち・・・それは・・何と言おうか・・御免なさい?』


それが、詩乃は石だけ造るから、像は木工部で作らせろと断って来たので・・それはヨイに取っては起死回生のチャンスとなったのだ。


「仕方無ぇなぁ、ヨイお前作るか?」


勿論作らさせて頂きますと、この幸運に喜び震え、並々ならぬ意欲を持って仕事に望んだと言う。


『それは・・知らなかったとはいえ、振り回して御免なさい』


鋭意制作する事1か月、やっと<海の女神>のモデル像が出来上がったので、この仕事を自分に回してくれた恩人である詩乃に、ぜひ最初に見て欲しくって雪の中をわざわざやって来てくれたのだそうだ。それは、お疲れ様で、大変なご苦労をおかけしました・・どれどれ?みんなで頭をひっ付け合ってヨイさんの持って来た木箱を覗き込む。




 それはそれは、大変に見事な出来な女神像だった。


『こちらの海の神様は女性なんだねぇ、海と言えばポセイドン?荒ぶるマッチョかと思っていたけれど、所変われば神様も変わるもんだぁねぇ』


女神像は腕を胸の前で緩く交差していて、そこに石を入れ込むよう工夫したそうだ。


『石は丸より楕円が良いね、オーバルカットが良さそうだ。

そして当然アクアマリン、母なる海の化身と言われているし、航海の安全を守り豊漁をもたらす守護石だからね。船乗りさんや漁師さんのお守りにぴったりだ!』


凄いね・・30センチ位の像なんだけど、豊かな髪の動きや微笑んでいる顔とか、指先の一つ一つに細かい神経が行き届いている、本当に見事な彫像だった。


『優しい感じがヨイさんに良く似ている、作品って作者に似るモノなのかな?』


とても素敵だ、素晴らしい!と女の子達に大絶賛されて、女の子に慣れていないヨイさんは真っ赤な顔をしていたがニコニコと嬉しそうだった。これで自信をもって棟梁や船長に見せに行けますと、ヨイさんそう言って、喜んで満足そうに帰って行った。良かった良かった。

事情通のアンによると、女神像はヨイさんのお母さんの若い頃に似ているんだそうで、ヨイさんにマザコン疑惑が持ち上がったのだが、


「男なんか、皆マザコンよ」のノアさんの一言でそんなモノかと納得した。

・・私はシスコン男も一人知っているけどね、詩乃はそう思ったが空気を読んで黙っていた。それから、アンの理想はゴリマッチョなんだそうで、それはそれで皆びっくりした。


   ****


 結局外套はピーコートになった、牛柄のピーコート(笑)。

なんか、この柄の間抜けさ加減が自分に合っている気がする。

襟には季節によって着脱出来る白い毛皮を付けたので、ひいき目に見ても結構可愛いデザインだと思う。それからこれまた着脱のできる裏地を、分厚いのと薄いので二通りフエルト風の繊維で造り、小さなボタンでコートに取り付けられる様にしたので、厳冬~冬~夏前の雨季まで使える、オールシーズン対応の優れものになった。


裏地を付ける事によって、服の暖かさを調節する発想はこの世界には無かった様で。だからか皆、こぞって真似をしたがった・・便利だよね裏地。特許も無い世界だし、どうぞ~どうぞ~と作り方をレクチャーした。フエルト風の繊維は、フワフワ草とか言う名前の植物の繊維をすり潰して和紙みたいに漉いたもので、お金持ちのお布団とかに使うらしい。湿気も吸収して保温性も高い優れもので、お布団だけに使うのはもったいない。

フエルト作りは寡婦組合の小母さん達の冬の仕事で、大量の受注に嬉しい悲鳴(物理)を上げていた。何か申し訳ない気がしたので、陣中見舞いに小さな甘い系のパイを沢山作って持って行ったら非常に喜ばれた。小母さんの1人に、是非息子の嫁にって言われたけど・・まだ7歳じゃんお坊ちゃま。お坊ちゃまは口の周りに盛大にクリームを付けて、パイをパクついていた(笑)



 そんな事をしつつ、余った皮で帽子も作ってみた。

某探偵のデザインを狙ったのだが、寒いので裏にモフモフの白い毛皮を付けたらロシアの兵隊さん?みたいになった、頭が大きく見えるのがちょっとだけダメだ。


 ピーコートのデザインは目新しかったのか大変な人気で、仕立ての依頼が漁業組合の独身男性から殺到した。もともとどっかの海軍さんの服だったしね、ボタンの数も多いからそこもポイントが高いらしい。ノアさんの所には、ピーコートを仕立ててくれって、仕立て依頼の筋肉さん達が押しかけて来たけれど、ブラシの洗礼を突破した強者だけがノアさんからOKを勝ち取っていた。



吹雪の日はアクセサリーを造ったり、ボタンを造ったり。

ノアさんとおしゃべりをして、言葉を直してもらったり。

これまでにない平和な日々を過ごしていた、流氷が沖合に徐々に去りはじめ、雪突き破り草が顔を出すまでは・・・。



     ****



「なんじゃー!!こりゃぁー!!!」


思わず叫んじゃったよ!

女神像がS・M・L・LLの4種類?全部合わせて356体って、何なのさ!


「驚いたか!トデリ林業組合・木工部の実力は、どんなもんじゃあ」


鼻を膨らませてドヤっている棟梁さん、説明してもらおうか?作りすぎじゃない?トデリに船は何艘あるのさ?これじゃ多過ぎでしょ。


この冬、木工部は大量の仕事を抱えていた、女神像もその中の一つで。

注文をこなす為に街全体で取り組んだそうなのだ、雪で外にも出られないしきっと暇だったのだろう。現役を引退した爺様から見習い前の子供達まで集めて、大雑把に彫像の形を削り取ったところまで作らせ、細部の難しい所はヨイさんを含む手先が器用な精鋭達とその嫁さんが担当。仕上げのヤスリかけとニス塗りは、おばあちゃん達が夜なべをしながら頑張ったそうだ。


見事な流れ作業・・作業の効率化を改善しながら頑張りました!

・・良い笑顔のヨイさんが言う・・改善とか、何処の企業じゃ。


「いやいや、そう言う問題じゃないんだぜ?神殿が、神官が、既得権益が」

「はあぁ?せっかく作ったのに、余所に売り出さんでどうするんじゃい!」

「そりゃあ、トデリに神官は居ないけど、バレたら確実に破門案件だぜ?」

「破門?どこの門を壊すんじゃ?また、子爵んとこの安普請か?」


話が通じない・・どなたか~話の分かる方は~おられませんか~。

心の中でアナウンスしていたら、奥様の紹介で会った事のある商人・ビアロさんだったか?と、知らない高級そうな衣装を着た恰幅の良いお兄さんにオジサンが少し掛かっている人がやって来た。



    ****



「そもそも貴族と平民は、同じ大地に存在していても、水と油の様に離れて暮らしているのです」


恰幅のいい商人はパガイと名乗り、領都から王都まで手広く商売をしていると自己紹介した。林業組合の応接室、お弁当を食べる休憩室とも言うけどね・・其処でパガイさんの説明が始まった。


パガイさんは王都で手広く商いをしているけれど、貴族との直接の接触はしないそうだ、貴族の持つ魔力に平民は耐えられないからだとか。御用を伺うには、平民に落ちた魔力の弱い元貴族出身の商会員を介してか、文書でやり取りするのが一般的らしい。そもそも貴族は平民になんら興味がなく、平民は必要な物資を供給する道具の一つに過ぎないと思っているそうだ。平民の動向を気にする貴族は、行政の仕事をしているごく一部だけなんだって。


「だから、この女神像を平民の世界に広く供給しても、貴族からの横槍が入る事はありません。ご心配なさっている神殿の関係も、彼らが王都から出る事はまずありえませんから大丈夫です。そもそも神官はとても人数が少ないのですよ、神殿と聖女を守って体裁を整えているのが精一杯でしょう」


そうなのか?王宮にはウロウロ結構いたぞ?聖女と聞いて喉が詰まる。

聖女様もいろいろ大変なのかな?詩乃が心配したところで、せんない事だが。


「だからシーノンさんは安心して石を造って下さいね、納期は遅れずにお願いします、海開け前にですよ。まずは公爵領とその周辺の貴族領に売り込みましょう、良い噂は既に流されていますからね、皆さん興味津々です。完売間違いなしですよ!平民も自分達を守るお宝を、貴族に取り上げられてはたまりませんから達ね、シーノンさんの秘密は守られるでしょう、受け合いますよ」


ニッと悪い顔でパガイさんは笑った。


「輸送費や販売経費など、諸経費がありますから」

パガイさんは指を4本出した。

「純利益の4割を此方でいただきます」


・・・・決定案か越後屋め。

詩乃は組合長をチラッと見たが、厳かに頷いている相場通りなのだろう。

詩乃は椅子にふんぞり返って、ポケットに手を突っ込み偉そうなポーズをキメた。


「では、おれらの取り分は残り6割。俺と組合で半々でどうだぜ?」


言葉が悪化している、詩乃的には商売相手に舐められない様に強く出ているつもりなのだが。皆苦笑いを堪えている、魔獣相手?に子供が威嚇している様だ。


「おれ 3割、条件ある。

まず1割 金は、余所の珍しい品物 現物支給くれ。香辛料とか、珍しい穀物とか、米とか、大豆とか。食べ物 良い。変わった植物の種 良い。手数料 利益から取る 良い。

次の1割の金は、海難事故で無くなった船員の家族で、金に困った家族がいたら生活の支援に使う事。女神像を売る時に、利益の1割は同業者の家族支援に使われると伝えるんだぜ。それからあまり値段を高くしてくれるな、誰にでも買える金の方がいい・・・。」


「あなたの取り分が少ないように思えますが?」

「海に出たら、頑張るのは船乗りと神様。そちらの取り分だ?」


「それから最後の1割の金は<空の魔石>で払ってくれ。石の材料 なる。在庫が無くなれば造れない」

「それは、難しいですなぁ。空の魔石は貴族に伝手がないと、なかなか手にはいら・・」


<バチッ!> 


突然の大きな音で、みな驚いて固まった。何の音だ!?静まり返る。自然の音しか聞こえない世界で、耳慣れない音は恐怖を感じさせるのに十分の様だ。ポケットに手を突っ込んでいた詩乃が、ため息を吐いてゆっくりと立ち上がる。


「パガイさん、あんた嘘を吐いたね。嘘を吐く奴とは取引しねえ」


パガイはハッと息を止め、じっと詩乃を見つめた。


「嬢ちゃん、いきなりどうした?嘘ってなんだ?」と、棟梁。

「さぁ、解んない。でも・・・」


詩乃はポケットから石を取り出し、皆に見せた・・石が割れている。




ブラッドストーン・・・人に騙されたり、貶めらる危険から守ってくれる。

               純粋無垢な魂を守護する聖なる石。


石が割れると、願いが叶うともいいますが・・・どっちだ?

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