ジェイド
嘘はいけませんよね。
はははははは・・・突然の馬鹿笑いに、詩乃は鼻に皺を寄せた。
「これ、女の子がそんな顔するんじゃねぇ」
むぅ?このところ、どうも行動が筋肉寄りになっているようだ。
パガイさんは目の涙を拭いながら、膝を曲げ詩乃の目線に合わせて言った。
「これは、ご無礼な事をしました。いやぁ、神殿など平民が知らない知識が有るのに、意外なほど常識はお持ちでないご様子だ」
褒めてんだか、けなしてんだか、どっちなんでい!
「どうです?夕食にご招待しますから、共に食事でも取りながらお話をしませんか?私が知っている情報なども提供できると思いますよ?あなたには必要な事でしょう?」
・・虎穴に入らずんば虎子を得ず・・ってヤツですかい?
そもそもトデリにお食事処(御接待高級バージョン)なんかあったっけ?兵士の入り浸ってる店なら知っているが。
「テイの家、ノアさんの御実家がトデリでの私の定宿でしてね、テイは私の船の乗組員をする事もありますから。お母さんは料理上手だし、部屋は清潔だし、他の街の宿よりよほど居心地が良いんですよ」民宿か?
取り敢えず契約は保留として、後日改めて話し合う事となった。
組合長は大層不満そうな顔をしていたが、あれだけの在庫を抱えて居たら気が気では無いんだろう、詩乃に相談もせず勝手に増産した方が悪いのだ・・自業自得って奴だ同情はしない。
心配そうな組合長の肩をポンっと叩いてパガイさんが笑ったら、苦笑いをした組合長は何も言わずに引き下がった・・信頼関係が有りそうで何よりだ。
自宅に帰った詩乃は、今夜ノアさんの家でパガイさんと仕事の話をしながら食事をする事になったと告げご一緒しようと誘った。ノアさんはちょっと・・かなり困った顔をした、どうやらパガイさんが苦手のご様子。あのオッサン押しは強いし胡散臭いものね、苦手意識が有るのは誠に持って同感だ。
「パガイさん 商人だ、手仕事組合の組合長のノアさん、これから一緒に仕事 する間柄になるかもしれぜ?同じ商品を扱う仲になるど、商人は商人の考え方 儲け ある。組合員を守る為も、相手の事は知っておいた方が いいぞ?ぜ?」
一人で行きたくないから尤もらしい事を言ってみる、真面目なノアさんは悲壮な覚悟を持った顔をして同行を承知してくれた。ラッキー。
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ノアさんの実家についたら、何故だかお兄さんがドアを開けてくれた。
居たんだお兄さん、まぁ自分の家だからね・・居るよね、それは・・テイさんでしたか、可愛い名前ですね・・睨まないでくれなんだぜ。態度の悪いドアマンにびくつきながら、家の中に入ったら立派な安楽椅子が置いてあってパガイさんが座っていた。このオッサン、椅子まで持ち込んだのか?100年前から自分の家の様な態度で座っている、ノアさんが苦手なのも解る気がする・・図々しんだよ!
態度が無駄にデカイパガイさんだったが、ノアさんの家族も交えて行われたお食事会は意外にも和やかだった。パガイさんが遠くの街の珍しい話などを沢山してくれて、ノアさんも興味深そうにしていたし、詩乃も楽しく過ごせた・・お料理は絶品だったしね。
それなのに、あぁそれなのに・・何の陰謀なのか、食後のお茶はパガイさんと二人だけになってしまった。ノアさんの家族は示し合わせた様にス~ッと席を外してしまう、むむぅ~消化が悪くなりそうだ。
「率直に聞こう、何をそんなに心配している?」
「神殿は煩いだぜ、色々細かい事グチグチ言うだぜ?神事も沙汰も金次第だし、神官のくせにお布施の配分で殴り合いの喧嘩するだぜ?血が出ても止めなんだぜ。神官の中にも級が有って、追い越して何かするダメ絶対ぜ?」
・・・それに・・・詩乃は下を向いて言い澱む。
「聖女に迷惑が掛かる事を心配しているのか?お前を巻き込んだのは彼女なんだろう?」
パガイの言葉にビクッとして顔を上げる。
聖女・・美人さんは、そりゃぁ何回も何回も詩乃に謝ってくれたんだ。
周囲がもういいだろう・・お前何様なんだと怒り出すほど謝ってくれた。
そりゃぁ、独りぼっちの寒い夜に布団を被って泣いた被って日もあった。
召喚された日、魔法陣が広がって美人さんが飲み込まれてしまったあの時、何故詩乃の手を離してくれなかったのかと、何でモブな自分を巻き込んだのだと・・何度も何度もそう思った。
・・でも、こうも思ったのだ・・あの日、すれ違ったあの時。
美人さんが落としたサファイアのストラップを、詩乃が拾って手渡さなければ・・詩乃がパワーストーンを沢山付けていなかったら。
・・もしかしたら、召喚される事は無かったかもしれない・・と。
だから詩乃は美人さん、現・聖女様を恨み責める気持ちを持つ事を辞める事にしたのだ。恨んだところで元の世界に帰れる訳でも無いし、人を恨み続けるって存外疲れるものなのだ。
詩乃は疲れる事をするのを好まない、ポリシーは最適解で楽に生きるだ。
「聖女様に迷惑をかける、それは・・ダメだ」
詩乃は強い目でパガイを見つめる、これだけは譲れない同郷のよしみって奴だ。
「貴族の弱みを知っているか?」
『知りたくないよ、そんなん。』詩乃は黙って首を振る。
「彼らには子供がなかなか授からない、魔力の相性だの釣り合だの、小難しい厄介事が沢山有るからな。やっと生まれて来ても精々1人か2人で、しかも魔力の弱い子供が生まれて来る事が多い。この国では貴族の魔力が減って来て、存亡の危機となっているんだ。見下していた平民のA級の奴らを、嫌々ながら自分たちの血統に取り込む事を決め、抱え込んだのもその為だ。それでも効果が表れない、子供は生まれず血は益々濃くなるばかりだ。
・・そんな時、とある高神官が言い出した、貴族の体の中に淀みがあると。
体内の魔力が長い月日をかけて、絡み合い捻じり合って滞り、次世代に伝わるのを妨げていると。その淀みを払うには、この世の者では無い、違う世の聖者が必要だと・・そう言った訳で、聖者の召喚が行われたのだそうだ。美女が来たのは予想外の僥倖だった様だがな」
『うへぇ、すげ~迷惑』
「今、お前と同郷の聖女様は、毎週の安息の日に神殿の塔の上から王都中に響き渡るよう、魔術具を使って払い清める神言を唱えている。自分の魔力を声に乗せて、静かな湖面に落ちる滴の波紋のように、神殿を中心に清めが円を描くがごとく広がるよう行っているんだそうだ。貴族の話によると体の不調が消え、魔力が上がるなど一定の効果が有るそうだぞ」
『はぁ~美人さんったら、澱んだ池の浄化のために落とされた、一滴の納豆菌みたいだぜ?』
「いいか?貴族は貴族とその傘下の事しか考えていない、聖女様の癒しは大多数の貴族が住まう王都限定だからな。此処の子爵やボコール公爵など、王都に住んでいない貴族はごく少数の変わり者の偏屈野郎達だ。平民は平民で、癒しを求めて何が悪い。誰が平民の暮らしを守ってくれる、お貴族様か?王都から一歩も出ようとしない奴らに何ができる?王都の外は穢れの地、平民の生きる世界だ」
『穢れの地か・・そう言えばそんな事を、王宮のメイド達が言っていたなぁ。好き好んで王都から出ていくなんて、正気の沙汰じゃ無いって』
「王都の聖女に迷惑が掛かる事は物理的にない、接触の仕様が無いからだ。彼女は貴族の検査でスペシャルAだった、だから貴族専用の聖女だ。お前は平民のB級なんだろう?B級聖女で良いじゃないか、堂々と奇跡を起こせばいい、皆お前を必要としているんだ」
ううぅ~貶されているんだか、褒められているんだかイマイチ解らん。
でも、あんた嘘ついたじゃん!ヘンに情報通だし胡散臭いし・・そう思ってジト目で見てやったら。
「嘘の件は<空の魔石>の事だ、手に入りにくいも何もあんなもの、王都の郊外にボタ山になって積み上げられているぞ。魔石自体は貴重な物だし、移動するにも制限が有って厄介物な品だが。<空の魔石>なんぞ、誰も見向きもしやしない取り放題のウハウハだ」
<空の魔石>なんぞ欲しがるのはお前くらいのものだ、そう言ってパガイさんは悪い顔で笑った。
何ですとー!!
<空の魔石>そうですか・・産業廃棄物扱いですか勿体無い。
「空の魔石に関しては、報酬の食料と同じに輸送費だけ取らせてもらおう。残りは金で取っておけ、必要になる時もあるやもしれん、金は邪魔にはならん」
パガイさんの事は、あんまり信用しきれていないんだけど。
気難しいトデリの人達が信用して友達扱いしている人だから、心底悪い人では無いかもしれない・・たぶん。だから仕方なくだけれど、渋々付き合ってやる事にした。陰でさっきから、ノアさんのお兄さんが詩乃の事を睨んでいるからじゃあありませんからね!
これからお仕事を一緒にするみたいだから、パガイさんにもお守りにペンダントをプレゼントしてあげようかな。
ジェイド・・・人生の成功と、繁栄を守護する石 ビジネスを成功させる為のお守りにはピッタリだ。人徳を高める作用も有るそうだから、持っているといいんじゃないかい?パガイのおじさん?
詩乃には、みんなおじさんに見えます。




